オジスキンクリニック 顧問医師 王子 富登さん
顔のパーツの中でも、「目」は、その人の第一印象を決定づけるといわれます。目元の不調は心にも大きな影響を与え、生活の質を著しく下げてしまうこともあります。今月の情熱人は、形成外科専門医の王子富登さん。“まぶた”の治療に情熱を注ぐ源泉について伺いました。
見た目だけでなく患者さんの人生の質も高められる形成外科を専門に選びました
私が医師を目指したきっかけは二つあります。一つ目は、病気がちだった父の存在です。肝臓病を患っていた父は、私が幼少の頃から入退院を繰り返していました。父と過ごした記憶は、いっしょに遊んだことよりも病床の父のもとにいるほうが多いほどです。父が夜中に吐血して救急搬送された後、ベッドが血だらけになっていたことは、いまでもよく覚えています。
私はまだ幼かったものの、闘病を続ける父の姿を見ながら、父に対して懸命な治療を施してくれる医師たちの姿に感謝の気持ちが芽生えるようになりました。その気持ちは次第に尊敬の念に変わり、いつか自分も医師になって困っている人たちの病気を治したいと思うようになったのです。
二つ目のきっかけは、手塚治虫さんが描かれた名作漫画の『ブラック・ジャック』です。私は子どもの頃から漫画好きで、特に“神の手”を使ってどんな病気も治してしまうブラック・ジャックの物語を夢中で読んでいました。悩みや苦しみから逃れたいという患者さんの望みを叶える医師の仕事に魅力を感じ、いつしか自分もなりたいと思うようになりました。
慶應義塾大学医学部を卒業して研修医の経験を積んだ後、専門分野として選んだのが「形成外科」でした。多くの診療科目から形成外科を選んだ理由は二つあります。
ブラック・ジャックの影響から、「医師=手術」のイメージがあったので、外科医を目指すことは自然に決まりました。外科の中でも形成外科を選んだのは、治療によって患者さんの見た目はもちろん、生活の質を高めることで、患者さんの人生そのものにも関われると思ったからです。
見た目の問題は、周囲が思っている以上に患者さんにとっては深刻なものです。例えば、私が専門としている眼瞼下垂の患者さんの中には、周囲からの視線を気にするあまり、目をそらしたり顔をそむけて話したりする方もいるほどです。
ほとんどの人は毎日、誰かと目を合わせ、会話を交わしながら生活をしています。周囲からの視線を気にすることなく過ごすことは簡単ではありません。そのため、見た目のコンプレックスが解消されて自分の姿に自信が生まれると、それまで暗かった人生に光が差すようになります。私は形成外科の医師として、見た目の自信を取り戻すことで患者さんの人生を明るく灯したいと考えています。
形成外科を専門に選んだもう一つの理由は、この治療領域ならではの奥深さです。一般的な外科手術は、患者さんの体にある病巣を切除すれば終わりますが、形成外科の医師は治療後の患者さんの人生も託されています。私の考えでは、形成外科医には「技術・経験・センス」が必要で、この三つがそろわなければ結果に大きな差が出ると考えています。失われた機能を回復させる医師としての技量はもちろん、審美的なセンスも問われる形成外科の世界は、とことん突き詰めたくなる奥深さがあるのです。
私は患者さんから、「あの医師に手術してもらってほんとうによかった」と思っていただける存在でありたいと願っています。形成外科は、その願いを実現できる治療領域だと思います。
形成外科の手術でも「まぶた」は奥が深く突き詰めていくことにやりがいを感じます
形成外科の手術領域の中でも、見た目の印象を大きく左右するのが「まぶた」の治療です。まぶたの手術で多いのが眼瞼下垂症手術です。眼瞼下垂は加齢もしくは生まれつきまぶたが下がっていることで視野が狭くなる病気ですが、機能的な問題はもちろん、見た目の問題で多くの人を悩ませます。
まぶたは皮膚の中でも特に薄く、繊細な組織です。泣いた後は目元が腫れるように、まぶたはわずかな刺激でも影響を受ける部位といえます。眼瞼下垂は先天性や加齢によって起こると思われがちですが、アトピー性皮膚炎やアレルギーによるかゆみでまぶたをこすっている人は、若年層でも発症することがあります。さらに、濃いアイメイクをしてクレンジングのときにまぶたを強くこすったり、コンタクトレンズを手荒く着脱したり、ハードコンタクトレンズを長年使ったりしている人も要注意です。
最近の研究では、緑内障の点眼治療によって眼瞼下垂のリスクが高まることも指摘されています。まぶたは生涯に渡って表情の印象を決定づける大切な存在です。いつまでも若々しいまぶたを保つために、まぶたへの過剰な刺激は避けるようにしましょう。
私はこれまで1000人以上の患者さんの手術をし、2016年には千葉県内で最も多くの眼瞼下垂手術をした医師となりました。そんな私でも、奥が深い形成外科の世界では学ぶことばかりです。手術が成功すれば患者さんは生まれ変わったように喜んでいただけますし、ご満足いただけなかった場合は、患者さんの人生を変えてしまいかねません。形成外科医としてまぶたの手術はやりがいがあると同時に、プレッシャーを感じる治療でもあります。
まぶたは顔の印象を決定づける重要なパーツ。だからこそ自然な仕上がりにこだわります
眼瞼下垂の手術を受けると、目の開き方をはじめ、まぶたの幅や眉毛の高さも変わります。手術を受けた患者さんは、まぶたが顔の印象作りに大きな役割を果たしていることを実感されることでしょう。特に眉毛の高さは顔の印象を左右します。医師の腕によっては、ご高齢の方が眼瞼下垂の手術を受けた後、大きく目を開けた際に眉毛が下がり、険しい表情になってしまう場合があります。何歳になっても、まぶたは大切なパーツです。まぶたの手術は、表情を変えたときの仕上がりも考慮しながらデザインをしなければなりません。
まぶたの手術によって劇的に印象を変えることを望まれる患者さんもいらっしゃいますが、多くの方は「自然な仕上がり」を求められます。だからこそ、私は自然な目もとにこだわって手術をします。
専門的な話になりますが、手術で自然なまぶたを作るには、「デザイン・筋肉への操作・二重の固定」という三つの要素をすべて満たすことが重要です。一人ひとり異なる患者さんのまぶたを診ながら、三つの要素を満たす手術を行うのは専門医でも難しいものです。
それでも、私は手術において妥協はしません。できない性格といってもいいでしょう。モノづくりに例えれば、ある一定の完成レベルに達すると、モノづくりに費やす時間が短くなるタイプと長くなるタイプに分かれます。一定のレベルを保ちながら手際よく短時間でモノづくりをこなす人と、時間と情熱をかけて、できる限りの仕上がりを追い求める人です。私は確実に後者です。奥が深い世界ほど、こだわりを求める職人気質なんです。
私がまぶたの手術をするときは、患者さんのご了承のもと、手術前後の詳細な写真を撮らせていただいています。執刀前のデザインも細かく記録しながら手術前後の写真を見返すことで、手術の完成度を高めています。
先に述べたように、形成外科医の仕事は、手術後の患者さんの人生の質にも大きな影響を及ぼします。私はこれまで手術を担当した、ほぼすべての患者さんの内容を記憶しています。一生のお付き合いとなる患者さんを、自分の家族と思って治療することで、より精度の高い手術ができると思っています。
手術をした患者さんから「毎日幸せに生きています」といわれたときは感無量の気持ちになりました
患者さんの中でも、特に印象に残っているのが、先天性眼瞼下垂を患っていたAさん(50代・女性)です。生まれながらの眼瞼下垂だったAさんは、上まぶたが黒目を覆ってしまうほど下がっていました。
Aさんは初めて私のもとに来られたとき、私と目を合わせて話すことができませんでした。Aさんに話を聞いてみると、人と話すときは顔をそむけ、目元を隠せる髪型にしていたそうです。長年に渡り、大きなコンプレックスを抱えて生きてこられたことがよく分かりました。
Aさんは眼瞼下垂の手術を受けるかどうか、ずっと悩んでいたそうです。そんなときに私のブログ(王子のまぶたブログ)を読んで手術を決意されました。
手術は無事に成功。再診に来られたAさんは、私の目をまっすぐに見ながら、「新しい第二の人生が始まりました。毎日幸せに生きています」と、話してくださいました。いまも忘れられない、形成外科医になってほんとうによかったと思った瞬間でした。
私のもとには、ほかの医療機関で受けた二重まぶたの手術の仕上がりに満足できず、修正を求められる患者さんも多く来られています。多くのクリニックを巡っても治療を断られ、わらにもすがる思いで私のもとを訪れる方は少なくありません。
ほかの医療機関で受けた手術の修正は専門医でも難しいものですが、手術後に患者さんから「いろいろなクリニックを検討しましたが、王子先生に手術をしていただいてほんとうによかったです」と感謝されたときは、少しだけブラック・ジャックに近づけた気持ちになれます。
私のもとに来られる一人ひとりの患者さんとの出会いを大切にし、医師として成長しつづけたいと思います。