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がんは0次予防が重要!遺伝子・各種フローラによる状況把握が決め手

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

がんや病気の体質は遺伝的に決まっているが発病するかしないかは他の要因に左右される

[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

遺伝子や腸内細菌などの個人差を知るために「遺伝子検査」「マッチング検査」「住宅フローラ検査」があると前回ご紹介しました。遺伝子や腸内細菌は究極の個人差を生み出します。こうした個人差を知ることは、すべての人が一律に予防を心がける「一次予防」に対して「0(ゼロ)次予防」と呼ばれています。

1990年に全世界でスタートした「ヒトゲノム計画」が2000年6月に終了し、人間のすべての遺伝子とゲノムが解明されました。ゲノムとは、個体を形成する遺伝子の集合体のことです。人間の遺伝子情報をもとにして、病気の予防・予測に活用するさまざまな方法が考案されました。

遺伝子は、一卵性双生児(いちらんせいそうせいじ)を除いて、すべての人でほんの少しずつ異なっています。例えば、お酒に強い人と弱い人がいますが、これも遺伝子の違いです。体内のアルコールは分解酵素の働きでアセトアルデヒドという毒性物質に分解されます。アセトアルデヒドは、別の分解酵素の働きで無害な酢酸(さくさん)に変わります。そして、それぞれの酵素の働きは遺伝子の違いによって強弱があります。遺伝的にアルコールを分解する酵素の働きが弱い人はアルコールが体に残りやすく、依存症になりやすい体質です。

また、体内のビタミンの働きや外部から補うべきビタミンの必要量も遺伝子によって決まってきます。例えば、葉酸(ようさん)の代謝酵素の働きも遺伝子で決まっています。葉酸は、血液中のホモシステイン(必須アミノ酸「メチオニン」の代謝における中間生成物)の増加によって動脈硬化や心臓病、脳卒中に影響を与えるビタミンの一種です。葉酸の代謝酵素の活性が低い場合、葉酸の摂取目安量を知ることで循環器疾患の予防対策が取れます。

さらに、葉酸の代謝酵素は動脈硬化だけでなく、うつ病や早産・流産、妊娠のしやすさなどにも影響します。遺伝子から葉酸の摂取目安量を知る遺伝子検査は非常に有益なのです。

身長や体重、筋肉の質なども遺伝的な要因の影響を強く受けます。そのため、体質に合ったスポーツや勉強のしかた、将来の職業なども遺伝子検査によって適性が分かります。

このように少数の遺伝子の関わりでかなり正確に将来的な予測ができる分野もあれば、非常に多くの遺伝子が関わっている、または遺伝子以外の要因の影響が大きいために予測が難しい分野もあります。例えば、体力や免疫力、アレルギーの有無、性格などのように後天的な生活や腸内細菌などの影響を大きく受ける分野があります。こうした分野では、先天的な遺伝子だけでなく、腸内フローラ(腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう))の状態や生活環境などが発病に大きく関わってきます。

「遺伝子検査」「マッチング検査」など0次予防を推進する国際和合医療学会の陰山康成かげやまやすなり先生(右)とチベット医学研修の際にチベット医学大学の前で

現在では、遺伝子を検査するだけでなく、腸内フローラの状態を検査し、腸内環境を改善するために最善の菌や栄養素を判断する「マッチング検査」や、住んでいる家の菌やカビ、ダニ、化学物質などの状態を調べる「住宅フローラ検査」などが注目されてきています。遺伝子解析の恩恵は、ヒト以外の細菌などのゲノムを調べることで疾病予防や健康領域にまで広がりつづけているのです。

ひと昔前の「善玉菌・悪玉菌」という考え方は、もはや時代後れになってきています。善玉菌の代表とされる乳酸菌が多いと小腸内細菌増殖症(SIBO)という症状になり、おなかの不調や肥満、貧血、視力障害、うつ症状、発がんリスクの上昇をもたらすことが分かっています。また、悪玉菌とされてきた多くの菌にもほかの腸内細菌の能力を高めるなどの役割があり、一概に〝悪玉〟といえないことが分かってきました。

そこで、「善玉菌・悪玉菌・日和見(ひよりみ)菌」という概念に代わって登場したのが「腸内フローラのバランス」です。腸内細菌には、主に「バランス調整菌(バランスを整える菌)」と「バランスかく乱菌(バランスを乱す菌)」「不明菌(能力未知菌)」の3つに分類されることが分かってきました。

バランスのよい腸内環境下では、各種のビタミンやミネラル、有用な短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)酪酸(らくさん)や酢酸、プロピオン酸など)を腸内で合成して免疫力を高めることや、リーキーガット症候群(腸管壁浸漏(ちょうかんへきしんろう)症候群)を防止することが分かっています。

こうした腸内細菌の特性を利用して病気の治療や健康の維持・増進に活用しようというのがマッチング検査です。マッチング検査では、特定の腸内細菌ではなく、すべての腸内細菌を調べる網羅解析(もうらかいせき)という手法で検査を行います。網羅解析によって腸内細菌のバランスと腸内フローラによって生成される短鎖脂肪酸などのバランスが分かります。短鎖脂肪酸のバランスがよい人はがんの発症リスクが低く、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病にもなりにくいことが分かっています。

そして、網羅解析の結果と、本人から採取した血液を使って各種の菌やサプリメントを培養する検査を合わせることで、理想的な腸内フローラのバランスへと改善するにはどの菌や栄養素が有効かを調べるのがマッチング検査なのです。マッチング検査は、がんの予防や治療だけでなく、うつ症状やアレルギー、アトピー性皮膚炎などの改善も期待できます。

さらに、マッチング検査の適用を生活環境にまで拡大したのが住宅フローラ検査です。現在、欧米で盛んに行われている住宅フローラ検査は日本では始まったばかりですが、今後、特にアレルギーなどの分野で大きく進展することが期待されているのです。