生命力の強い竹を環境保護に活用
「松竹梅」という言葉があるように、まっすぐにすくすくと成長する竹は、縁起のいい植物として親しまれています。ところが、あまりにも強い生命力から、竹がやっかい者扱いされることもあるのです。
竹の成長はとても速く、タケノコから2~3ヵ月程度で20㍍以上に育ちます。伐採しても5年程度でもとどおりの竹林になってしまうほど、驚異的な生命力があるのです。硬く加工が難しい点も、竹がやっかい者の植物といわれる理由です。
タケノコの特産地として知られる福岡県八女市は、日本最大級の竹の産出地でもあります。さまざまな分野で竹を活用している八女市は、2011年から私たち九州工業大学や地元の企業とともに、産学官連携で竹の用途を広める研究・開発に取り組むようになりました。
環境問題の解決をめざしている私たちは、ゼロエミッションに役立つ素材の研究を行っています。ゼロエミッションとは、生産段階からリサイクルまでゴミを出さないように徹底することで、最終的に廃棄物をゼロにしようという考え方です。
私たちはこれまで、植物由来や微生物の働きによって作られる、環境に優しいプラスチックの研究・開発を進めてきました。石油から作られるプラスチックは利用後に焼却され、生じたエネルギーが再利用されています。1度しか再利用できない石油由来のものと異なり、植物由来のプラスチックは、リサイクルをすれば何度でもくり返し使うことができます。
竹はタケノコから成長する間に大量の二酸化炭素を吸収するため、地球の温暖化防止に役立つ植物です。私たちが進めているゼロエミッションの研究と組み合わせることで、竹は環境保全・保護の役に立つ素材として、さらに注目を浴びるようになるでしょう。
竹から蒸気抽出液を作る過程も、自然に優しい方法で行うべきだと考えています。私の研究テーマの1つである過熱水蒸気(SHS)処理法は、環境に優しい方法の1つです。標準気圧下で水を100℃以上に加熱するSHSは、薬品を使うことなく抽出することができます。
SHSで抽出処理した後の竹の用途はさまざまです。竹を微細に粉砕し、ミクロンサイズの繊維にしてプラスチックにまぜると、強度をあげることができます。竹で強化したプラスチックを生かせば、建材や自動車部品として応用できます。
竹蒸気抽出液はがんの誘発成分を含まない
アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)の患者さんの中には、入浴剤として竹酢液を使っている人がいるようです。竹酢液は竹炭を作るさいに出た煙を1年以上寝かせて作られます。
竹酢液の主成分は酢酸で、ほかにもミネラルなど200種類以上の成分が含まれています。竹酢液は土壌改良をはじめ、作物の成長促進や殺菌防除、消臭、畜産飼料などに利用されてきました。
活用できる用途が広い竹酢液ですが、製造過程でタール成分が生じます。タール成分に含まれるベンゾピレンという物質は、がんの原因になるといわれています。竹酢液からベンゾピレンを取り除くためには、数ヵ月~1年もかかる工程が必要になります。
長期にわたる毒素を取り除く工程を不要にする方法として、先ほどのSHS処理法が挙げられます。火を使わないSHSによる熱水抽出なら、タール成分をいっさい生じさせずに竹酢液とほぼ同様の効能を持った液体を作ることができるのです。私たちは、SHSによって作られた液を従来品と区別するため「竹蒸気抽出液」と呼んでいます。
竹蒸気抽出液は、竹酢液と同様に、消臭や殺菌、防菌、防虫効果があると考えられます。黄色ブドウ球菌やセレウス菌(食中毒の原因菌の1つ)、大腸菌、枯草菌を使って竹蒸気抽出液の抗菌性を調べたところ、黄色ブドウ球菌とセレウス菌の増殖を防ぐことを確認しています。
アトピーと黄色ブドウ球菌の関係については、世界中でさまざまな報告がされています。黄色ブドウ球菌は健康な人の体にも存在する常在菌ですが、過剰に増えると有害になります。
2015年4月に慶應義塾大学と米国立衛生研究所(NIH)の共同研究チームが、米国の科学雑誌『イミュニティ』電子版に黄色ブドウ球菌とアトピー発症の関連性を発表しています。竹酢液をアトピー患者さんが使うことは、理にかなっているのかもしれません。
竹蒸気抽出液が持つ黄色ブドウ球菌の抗菌作用は、アトピー患者さんにとって福音になる可能性があります。竹蒸気抽出液とアトピーとの関係は、今後の大きな研究課題になるでしょう。