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がんより怖い「副腎疲労症候群」とは?

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

ストレスで体内に炎症反応が起こると副腎からストレスへの対抗物質が分泌される

[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

心の問題がなぜ体に影響するのでしょうか。それは、大きな心理的ストレスやショックが物理的な刺激として脳に影響を与えるからです。精神的なものだけでなく、物理的な刺激や化学物質、環境の変化などでストレスが発生すると、人体ではさまざまな場所で炎症反応が起こり、細胞を損傷します。脳はストレスによって引き起こされた炎症反応を止めるため、(ふく)(じん)から「コルチゾール」というストレスホルモンを(ぶん)(ぴつ)してストレスを抑えようとします。

コルチゾールは(ふく)(じん)()(しつ)から分泌されるステロイドホルモンで、免疫系や(ちゅう)(すう)神経系、代謝系などに対してさまざまな生理作用を発揮し、炎症を抑えて免疫力をコントロールします。

ただし、コルチゾールの量や、コルチゾールを生産する副腎の能力は無尽蔵ではありません。コルチゾールは、コレステロールを原料としてビタミンB群やミネラルなどの力を借りて生産されます。つまり、原料が足りなくなるか、ストレスが多すぎて生産が間に合わない状態になると枯渇してしまうのです。また、ストレスが長期にわたって副腎が疲弊すると、コルチゾールを生産する能力も大幅に低下してしまいます。

皆さんは「副腎疲労症候群」という言葉を聞いたことがありますか? 医療先進国のアメリカでは、万病の元として広く知られている病気で、がんや多くの難病の治療を開始する前に副腎疲労症候群の診断をするのが大前提とされています。

なぜかというと、副腎疲労症候群では副腎が疲弊した状態で、あらゆるストレスに対抗するコルチゾールの分泌量が低下してしまうからです。通常、病気の治療の際には患者さんに大きなストレスがかかります。そのため、ストレスに対抗するコルチゾールを生産できないことは重大事なのです。

そこで、がんや難病の治療よりも副腎疲労症候群の改善を優先し、副腎疲労症候群の改善に応じてがんや難病の治療を行うのが医療先進国のアメリカでは常識となってきています。副腎疲労症候群を発症した場合、副腎皮質で作るアルドステロンやDHEA、(ふく)(じん)(ずい)(しつ)で作られるアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのホルモンの生産も滞ってしまいます。

アルドステロンは、マグネシウムやナトリウム、カリウムなどの濃度や細胞間にある組織液、血液などの体液量をコントロールし、脱水症状を起こすのを防ぐ働きをしています。

DHEAは「ホルモンの母」と呼ばれ、男性ホルモン(テストステロン)と女性ホルモン(エストロゲン)の原料になります。副腎は異性のホルモンを生産する唯一の器官です。つまり、副腎が疲弊して機能が低下すると、男性は女性ホルモンを、女性は男性ホルモンを生産できなくなってしまうのです。

副腎髄質から分泌されるアドレナリンは興奮時に血圧を上昇させるホルモンで、別名「戦うホルモン」ともいわれます。アドレナリンの前駆物質であるノルアドレナリンは、急激なストレスをキャッチしたときに分泌され、激しい運動などで肉体を酷使する際に放出されます。

米国での副腎疲労症候群ケアの第一人者であるジェームズ・L・ウィルソン医師の翻訳書(右)と、日本初の「アドレナルファティーグ外来」を開設した副腎疲労症候群ケアの第一人者である(ほん)()(りょう)()医師、(ほん)()(りゆう)(すけ)医師の共著(中・左)

ドーパミンは、分泌されると多幸感を得られるだけでなく、勉強や作業などに意欲的になって運動機能も向上します。ただし、ドーパミンの分泌が足りないと依存症の原因となり、アルコールやギャンブル、買い物などへの依存度が強まります。

女性ホルモンには、エストロゲンのほかにプロゲステロンがあります。プロゲステロンはコレステロールから直接作られ、コルチゾールが足りないときにコルチゾールに変換されて不足を補うことができます。つまり、副腎疲労症候群の女性はプロゲステロンがコルチゾールの材料として使われてしまい、プロゲステロン不足に陥りやすいのです。

女性ホルモンのバランスは乳がんの指標になります。通常、プロゲステロンはエストロゲンよりも多量に分泌されます。ところが、多大なストレスなどによって副腎疲労症候群を発症し、コルチゾールの量が足りなくなってしまうと、プロゲステロンがコルチゾールに変換されてエストロゲンよりも少なくなってしまうことがあります。プロゲステロンよりもエストロゲンの量が多いとき、乳がんの発生リスクが高まることが分かっています。また、すでに乳がんを患っている患者さんの場合、がんの進行を速めてしまいます。

エストロゲンよりもプロゲステロンが少なくなると生理前に下腹部がキリキリ痛んだり、頭痛がひどかったり、眠くなったりするなど、月経前症候群(PMS)が発症します。 PMSの方は副腎疲労症候群を合併している場合が多いので、乳がんを予防するためにも、早期に医療機関を受診してきちんと治療することが重要です。

副腎疲労症候群を患う方は、ほぼ100%腸に炎症を起こしています。腸の炎症こそが最悪の“コルチゾール泥棒”なのです。そして、腸の炎症を抑える最も基本的なケア方法は「食事内容の見直し」と「ストレスの緩和」です。

腸に慢性的な炎症を持っている人は、ほとんどがリーキーガット症候群((ちょう)(かん)(へき)(しん)(ろう)症候群)やSIBO(小腸内細菌増殖症)を患っています。そして、その原因はほとんどがグルテン(小麦)、カゼイン(乳製品)、糖質過多(砂糖の取りすぎ)、質の悪い脂の摂取などです。

副腎疲労症候群のケアには、グルテン・カゼインフリーで、緩やかに糖質を制限した食事に加え、良質な脂肪酸(オメガ3脂肪酸)とたんぱく質を豊富に含む小魚や海藻、発酵食品などの摂取が推奨されています。ストレス緩和の観点から、がんばりすぎるのをやめて「良い加減」を目指すことも大切です。