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「肩こり」のツボ 肩井・後渓

よっしー先生の特効ツボはここでヨシ!

帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹

[おおやま・よしき]——大阪産業大学経営学部、明治鍼灸短期大学鍼灸学科卒業。明治鍼灸大学助手・講師を経て、2008年から現職。日本東洋医学会、日本健康科学学会所属。

「肩こり」は、首・肩・背中にかけての広い範囲にこった自覚がある症状を指します。肩こりが慢性化すると、頭痛やめまい、眼精疲労などの不快症状を伴うこともあります。肩こりに悩まされている人はとても多く、厚生労働省が発表している『国民生活基礎調査』(2015年度)によると、肩こりは有訴者率で男性が第2位、女性は第1位となっている症状です。

肩こりの原因にはさまざまな要因があり、ストレスや生活習慣病から起こる場合も多く見られます。また、肩こりと思っていた症状の裏に(じゅう)(とく)な病気が隠されている可能性もあります。例えば、右肩がこる場合は消化器系疾患、左肩がこる場合は、循環器系疾患からの警告反応(内臓反射)として現れる場合があるので要注意です。

肩こりの歴史について触れてみたいと思います。日本人と肩こりとのつきあいは長く、紀元前に狩猟生活から農耕生活に切り替えたことで、肩こりの症状が現れるようになったとされています。その事実を裏づけるかのように、当時の遺跡からツボを刺激する(はり)のような石器が発見されています。

その後、奈良時代になると、こりをほぐす方法として「按摩(あんま)術」が考案されました。平安時代には、肩こり緩和のために生薬を塗り薬として患部に塗布(とふ)したことが書物に記されています。

また、江戸時代の文献には、「肩がこる」という用語も使われています。さらに明治時代になると、文豪・夏目漱石(なつめそうせき)が1910年に発表した小説『門』の一節にも、「指で圧してみると、頭と肩の継目の少し背中へ寄った局部が、石の様に凝ってゐた」というように、肩こりに関する表現があります。その後、漱石にならって当時、近代的な国語辞典として知られていた『大言海(だいげんかい)』も「肩のこり」という表現を記載し、学術的に日本語として定着しました。

もう一つ、肩こりにまつわる話をご紹介しましょう。「()(しょう)(しん)」という神についての話です。俱生神は、人が生まれると同時に生まれ、常にその人の両肩に乗ってすべての行為を記録します。右肩に乗る女神を「(どう)(しょう)」、左肩に乗る男神を「(どう)(みょう)」といい、同生が悪行を、同名が善行を記録します。乗っている人が命を失って亡者となれば、その亡者の死後の処遇を定めてもらうべく、審理と裁判を行う閻魔(えんま)大王にすべてを報告するとされています。肩のこりが強い人は、もしかすると俱生神が影響しているのかもしれません。

続いて、肩こりに効果的なストレッチと体操をご紹介します。

肩こりストレッチ
①両手を軽く握り、息を吸いながら肩と耳を近づけるようにギューッと肩をすぼめます
②ハッと息を吐き出すと同時に肩をストンと下ろします。これを10回行います

肩こり体操
①両手を首の後ろに組みます
②両ひじをチョウチョのように大きく広げます
③その姿勢で5秒間持続させます
④その後、組んでいた両手を一気に首から離して脱力させます

以上のストレッチと体操を組み合わせることで、肩こりの解消効果が倍増します。

最後に私の専門から、肩こりに効果のあるツボを2つご紹介します。「肩井(けんせい)」は、首を前に倒したときに出てくる骨と肩先を結んだ中央部にあるツボです。この部分を中指から小指まで垂直に引き下ろすように押します。これを5秒間で5回、計3セット行ってください。押す力は、指の(つめ)の色が白くなる程度です。

次に「後渓(こうけい)」ですが、小指のつけ根をすりおろしたとき、指が止まるところにツボがあります。この部分を反対側の親指の指腹で、指の爪の色が白くなる程度まで押します。これを5秒間で5回、計3セット行ってください。後渓のツボは肩こりのみならず、寝違いの特効穴ともいわれています。寝違えたと思ったら、後渓のツボを刺激することをおすすめします。

由来
【肩井】「肩」は肩部を指し「井」はくぼみが深いという意味があります。このツボは肩にあり、ツボの深部にある胸隔は「井戸」のように深い空洞であるという場所の特徴から命名されました。肩部の「気」が出入りするところといわれています

【後渓】「渓」は、骨と肉に挟まれた陥凹部のこと。拳を握ったときにできる小指側の溝「渓」を呼び、浅いくぼみという意味から名づけられました

効能
【肩井】肩こり、五十肩、肩腕症候群、頭痛、自律神経失調症、冷え症など

【後渓】肩こり、精神不安、抑うつ、寝違い、不眠など