帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
2021年8月に世界保健機関(WHO)は、「2019年度の調査で30~79歳の高血圧を抱える人が12億8千万人に達した」と報告しました。1990年は、世界の高血圧患者は約6億5000万人といわれていたので、30年間でほぼ倍増したことになります。世界中で高血圧が増えている要因として、人口増加や社会の高齢化、発展途上国における患者数の増加が挙げられます。
日本では最高血圧が130㍉を超えると、血圧が「高め」と診断されます。2019年に日本高血圧学会が発表したデータによると、日本国内の高血圧有病者数は4300万人に上ります。しかしながら、治療を受けているのは全体の57%にあたる2400万人しかいないのです。
高血圧は脳卒中や心筋梗塞、心不全といった循環器疾患を引き起こす最大の原因です。高血圧から脳卒中を発症して後遺症が残ると、介護が必要になるなど深刻な状況を招きます。加えて、高血圧は慢性腎臓病や認知症の発症・悪化の原因にもなるといわれています。
日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』では、成人における血圧分類を発表しています。最新の最大血圧(収縮期血圧)と最小血圧(拡張期血圧)をご紹介しましょう。
【診察室血圧】
①正常血圧:120㍉未満かつ80㍉未満
②正常高値血圧:120~129㍉かつ80㍉未満
③高値血圧:130~139㍉かつ/または80~89㍉
④Ⅰ度高血圧:140~159㍉かつ/または90~99㍉
⑤Ⅱ度高血圧:160~179㍉かつ/または100~109㍉
⑥Ⅲ度高血圧:180㍉以上かつ/または110㍉以上
【家庭血圧】
①正常血圧:115㍉未満かつ75㍉未満
②正常高値血圧:115~124㍉かつ75㍉未満
③高値血圧:125~134㍉かつ/または75~84㍉
④Ⅰ度高血圧:135~144㍉かつ/または85~89㍉
⑤Ⅱ度高血圧:145~159㍉かつ/または90~99㍉
⑥Ⅲ度高血圧:160㍉以上かつ/または100㍉以上
血圧は、健康状態を知るための目安の一つです。体質や体調のみならず、気温や気候の変化、季節の変わり目にも血圧が大きく変動することがあります。また、血圧の変化は自覚しにくいため、以下のような症状がないかどうか、こまめなチェックが必要です。
● 急に血圧が高くなった
● ろれつが回らない
● 片側の手足に力が入らない
● しびれがある
● 息苦しさやのぼせ感がある
これらの症状が現れた場合は、早めに専門医の診察を受けてください。また、病的ではないものの、注意が必要な以下の高血圧もあります。
● 遺伝的な要因
● 不摂生な食事
● ストレス・運動不足
● 過労・不眠
このような高血圧は、生活習慣と結びついていることが多く、放置していると生活習慣病へと発展するおそれがあります。高血圧の予防と改善には、生活習慣を見直すことが大切です。
【高血圧の予防策】
①ラジオ体操、ストレッチ、ウォーキング(特に森林浴)などの有酸素運動
②ぬるま湯(38~40℃)に15~20分程度、胸の高さまでゆっくりと入浴
③ストレス解消を目的とした趣味
④良質な睡眠
⑤食事時の減塩と節酒
⑥食物繊維が豊富な野菜やヨーグルトなどの発酵食品をとって排便を促す
このような生活習慣を送りながら高血圧対策のツボを刺激すると、効果はより高まります。今回は高血圧に効果のあるツボを二つご紹介します。
「行間」は、足の第1指と第2指の間にあるツボです。行間のツボに手の親指を押し当て、足の裏に向かって5秒間押し下げて刺激します。5回を1セットとして、計3セットを行ってください。押す力は、親指の爪の色が白っぽくなる程度が適切な強さです。ボールペンの裏を使って刺激するのも効果的です。
もう一つの「人迎」のツボは、血圧を下げる「特効穴」といわれています。人迎のツボは首の部分にあるため、あまり強く押しすぎないようにしましょう。「人迎」の刺激は、血圧の調整に関係のある「頸動脈小体」と呼ばれる化学的受容器に作用し、血圧を下げるとされています。のどぼとけから指2本分外側を押すと脈を打っている部分があります。この部分に軽く中指を押し当て、首の中心に向かってゆっくり押します。3秒間を1セットとし、計3セット(9秒)行ってください。
● 由来
【行間】「行」は通過すること、「間」は2つのものに挟まれていることを意味します。行間は足の第1・第2指の間の「くぼみ」にあることから名付けられました
【人迎】飲食物を飲み込むとき、人や物を送迎しているように動く様子から、人迎と名付けられました
● 効能
【行間】高血圧、頭痛、不眠、眼精疲労、めまい、消化不良など
【人迎】高血圧、頭痛、めまい、気管支ぜんそく、胆石疝痛、胃けいれんなど