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「理論医学」は人類を救う?定説は真実とは限らない(後編)

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会理事長 小林 平大央

標準的な西洋医学で原因不明とされる「本態性高血圧」は「動脈硬化性高血圧」?

小林平大央
[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主宰。一般社団法人日本先進医療臨床研究会理事長(臨床研究事業)、エポックメイキング医療研究会発起人代表(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

前回の連載では、福島県郡山こおりやま市で標準的な治療法では完治が難しいガンや糖尿病などの疾患の根本治癒を目指して診療をする、あさひ内科クリニック院長の新井圭輔あらいけいすけ先生が提唱されている「理論医学」の考え方に沿って、糖尿病の本質と治療方法、合併症についてお伝えしました。今回は、日本人の「国民病」ともいえる高血圧を根本的に解決する理論医学の治療法についてお話しします。

現在の医学教育では、高血圧は9割が「本態性高血圧」とされています。「本態性」とか「特発性」という言葉の意味は「原因不明」ということのようです。つまり、現時点で標準的な西洋医学の治療では、本態性高血圧は原因も治療法も不明ということです。

原因不明で根本的な解決ができないため、とりあえず症状を抑える対症療法として血圧を下げる薬が処方されているのが現状です。そのため、現状の高血圧治療では高血圧の完治は望めず、血圧を下げる薬を生涯飲みつづけないといけないという状況になっています。

これに対して、理論医学では、高血圧の九割を占める「本態性高血圧」は「動脈硬化性の高血圧」であるとしています。この仮説が正しいとすると、動脈硬化の治療を行うと本態性高血圧は完治するということになります。

ところで、動脈硬化はどうして発生するのかというと、血液中の〝悪玉コレステロール(LDL)〟が増加し、余分なコレステロールが血管壁の中にたまって血管壁が厚くなることで起こります。特に、血液中の〝超悪玉コレステロール(sdLDL)〟に活性酸素が加わって酸化されることで動脈硬化が促進することが分かっています。超悪玉コレステロールは、中性脂肪とLDLコレステロールの増加によって増えることが知られています。また、中性脂肪は余分な糖質がインスリンの作用によって肝臓で合成されて体内に蓄えられ、血中総コレステロールは脂質のとりすぎによって増えます。

出典:新井圭輔医師のプレゼンテーション資料より

そして、活性酸素は、インスリン高値で増えること、レニン・アンジオテンシンシステム(血圧や血液量を調節するシステム)の亢進こうしんで増えることが知られています。また、〝善玉コレステロール〟と呼ばれる「高比重コレステロール(HDL)」は動脈硬化の促進を防ぐことも分かっています。

こうしたことを総合すると、動脈硬化を治療するには血糖値を下げる糖質制限を推奨し、処方薬としては中性脂肪を下げる高脂血症薬、総コレステロールを下げる高コレステロール血症薬、活性酸素を抑える低インスリン治療、同じく活性酸素抑制のためのARB降圧薬(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)などの処方が効果的であることが分かります。

また、高血圧症の中には、副腎皮質ふくじんひしつまたは副腎髄質ふくじんずいしつからのホルモン分泌ぶんぴつ過剰に由来する二次性高血圧が1割程度存在します。そこで、二次性高血圧の方には、抗アルドステロン薬(アルドステロンというホルモンの働きを抑える降圧薬)またはアドレナリンα1受容体遮断薬しゃだんやく(交感神経のα1受容体への作用を阻害する降圧薬)が追加されます。

理論医学に基づく動脈硬化の治療を通した高血圧患者では、全年齢で血圧はほぼ同じ数値を維持できることが証明されています。つまり、高血圧に関して一般的によくいわれる「加齢に伴って血圧は上がる」という医学常識は実は真実ではないということが明らかになったのです。

前回もお話ししましたが、動脈硬化の治療は、高血圧だけではなく、糖尿病の合併症である糖尿病網膜症もうまくしょうや糖尿病腎症じんしょうも改善します。また、糖尿病神経障害の最終局面である足指の壊疽えそ治癒ちゆした例もあります。そして、動脈硬化の治療は日本人の死亡原因の大きな割合を占める心筋梗塞しんきんこうそくなどの心疾患や、脳梗塞などの予防にも非常に大きな意味があります。実際、心臓の冠動脈かんどうみゃく血行障害や虚血性心疾患などに関しては、理論医学に基づく動脈硬化の治療がその根本治療であると思われます。

脳の虚血性病変や頸動脈けいどうみゃく梗塞疾患などに関しても、理論医学に基づく動脈硬化の治療は根本治療になりうると考えられます。その症例として、左内頸動脈に高度の狭窄きょうさくが認められた患者が理論医学による動脈硬化の治療を受けた結果、およそ1年後に脳造影CT(コンピューター断層撮影法)検査の結果、左内頸動脈の狭窄は残っていたものの、脳にはほとんど異常がないことが証明されています。

また、高血圧患者に発生することがある「ビンスワンガー病」という脳に白質病変を多数生じる血管性認知症も、理論医学による動脈硬化の治療を行っている患者での発症は皆無かいむです。さらに、脳や心臓に梗塞を起こすリスクが高い動脈硬化症を日頃から治療していることで、90歳を超えた高齢者でも脳障害による明らかな認知症状を訴える人が減少するという結果も出ています。

理論医学による動脈硬化の治療は、心不全治療にもつながっています。高血圧患者に対して理論医学による動脈硬化の治療を開始した2012年以降、心不全症状が悪化する症例はゼロなのです。

一般的に心不全患者の予後は不良であるといわれ、心不全と診断されてから5年以内に約50%の方が死亡します。5年生存率50%となると、心不全はガンにも匹敵する難病といえます。そして、心不全の根本原因が動脈硬化だとすると、理論医学による動脈硬化の治療で心不全が治るのは容易に説明できます。

さて、3回にわたって新井圭輔先生の理論医学に基づく病気の本質と治療法についてお話ししてきました。実は、誌面の関係で触れられなかった内容に、自己免疫疾患や新型コロナウイルス感染症を含む感染症の本質とその治療法のお話などもあるのですが、そうした詳細な内容はぜひ新井先生の書籍『理論医学は人類を救う』(講談社)をご一読ください。