プレゼント

第20回 いわれたとおりにやってみるADHD脳的「守破離」のすすめ

ADHD女子・雨野千晴のうっかりさんでもちゃっかり生きる

雨野 千晴

いわれたとおりにやってみるADHD脳的「守破離」のすすめ

[あめの・ちはる]——北海道生まれ。北海道教育大学札幌校卒業。公立小学校教員として10年間勤務。2017年にADHD(不注意優勢型)と診断。現在はADHD専門ライフコーチ、NPO法人代表理事、福祉事業所スタッフなど"多動な"複業活動を展開中。

みなさんは「ちゃんみな」というアーティストの方をご存じでしょうか? 私は最近知りました。この方が手掛けたオーディション番組に、すっかりはまってしまったのです。放送回を重ねるごとに、ちゃんみなさんの人間性に引き付けられました。

いくつも名場面があったのですが、印象に残っているものの1つは、「自由なことをするためには、型にはまらなきゃいけないことがある」という、挑戦者へのアドバイスの言葉です。自分のスタイルを崩すことに不安を感じているであろうメンバーに向けたもので、「ゴールするためにはやらなきゃいけない課題や、やりたくないこともやらなきゃいけない。それでやっと自由が手に入る」と話されていました。

これっていわゆる「守破離しゅはりの『守』」だなぁと。「守破離」とは、日本の武道や茶道などで大切にされている考え方で「学びの成長ステップ」を表しています。

しゅ……基本をしっかり守る。先生や先輩のやり方をまねて学ぶ段階

……次に、自分なりの工夫を加えて少しずつ型を破る応用の段階

……型を完全に超えて自分だけのスタイルを確立する最後の段階

ほんとうに自由に自分らしい花を開かせるためには、まずは「守」が大事だということですね。

しかし、着想・発想が豊かでマイペースなADHD脳にとっては「まずはいわれたとおりにやって!」といわれるのがとってもハードルの高いことでもあるんです。それよりも「もっとおもしろくするにはどうすれば?」ということに意識が向く。その一方で、学校で、社会で、組織の一員である中では「このとおりにしてください」ということは結構あるのが現状です。

私がコンサルティング会社で働いていた時、「いわれたとおりに」を強く感じたのはメールの文章でした。

「結論をはじめに伝える。余計なことは書かない。なるべく端的に。伝える情報が複数ある場合は番号を振って箇条書きにする」などなど。タイトルについても細かな決まりがありました。しばらくの間、私が作ったメール文はクライアント企業に送付する前に上司の確認が入りました。真っ赤に添削されて何往復したか分からない修正を経てから送付する。それを毎日毎日繰り返していて、当時はノイローゼになりそうでした。

私が今、自分でやっている仕事でクライアント企業とメールをする際、9割がたはくだけた文面ですが、まだ関係性が築けていない方との連絡には、この時に学んだことが役立っています。また、そこで教えてもらったのは単にメールだけの話ではなかったと感じています。「相手の時間を奪わない」ということ。限られた時間でお会いする方、ご多忙な方との会話は特に、「結論から話し、伝える内容をあらかじめまとめておく」ことを意識するようになりました。当時は「こんなことをするためにこの会社に入ったんじゃない!」と思っていましたが、それまで自分にはなかった視点を身に付けられたのです。今は、できるようになるまで優しく根気強く添削に付き合ってくださった上司に感謝しています。

もちろん、何もかも人からいわれたとおりにしなければならないわけではないですし、実際にそれでメンタルを崩してしまうようであれば、そこから脱却するほうがよいこともあります。ですが、あなたがなにか目標を持っていて、そのためにまずは「いわれたとおり」が必要な状況なのであれば、「これは守破離の守、パワーアップのために必要なチャレンジかも⁉」という視点で、ゲームをクリアするような感覚でやってみることも一つの選択肢かもしれません。さらに、自分の中で「まずはこの期間はがんばって『いわれたとおり』を意識して遂行してみよう!」と期限を決めておくと、ハードルが下がるかもしれませんね!

イラスト/雨野千晴