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ADHD女子・雨野千晴のうっかりさんでもちゃっかり生きる!第19回

ADHD女子・雨野千晴のうっかりさんでもちゃっかり生きる

雨野 千晴

自分史上最悪!ある日の忘れ物の話

[あめの・ちはる]——北海道生まれ。北海道教育大学札幌校卒業。公立小学校教員として10年間勤務。2017年にADHD(不注意優勢型)と診断。現在はADHD専門ライフコーチ、NPO法人代表理事、福祉事業所スタッフなど"多動な"複業活動を展開中。

ADHDのある方は、忘れ物やなくし物をしがちな方が多いといわれます。私も子どもの頃から、頭にかぶっていた帽子、羽織っていたカーディガン、毎日背負って登校するランドセルすら、気づけば「ない!」ということもあるくらいの落とし物女王なのです。もしや自分の後ろにはブラックホールがあるんじゃないか……と真剣に疑ってしまいます。ペンや傘、ハンカチなどのちょっとしたものから、財布や家の鍵、スマホなどの超重要アイテムさえ、よくなくしています……。

子どもの頃は、大事な物やお気に入りの物を落としたりなくしたりすると、ショックを受けて、とても落ち込んでいました。しかし慣れというのは怖いもの。あまりになくなる頻度が高いので、年齢を重ねるうちにだんだんと落ち込むこともなくなってきました(笑)。財布でさえ結構な確率で無事に手元に戻ってくる日本に住んでいて、ほんとうによかったと思います。

そんな私には、今でも忘れられない、「これはヤバイ!」ランキング史上第1位の落とし物事件があります。

それは今から5年ほど前、企業コンサルティングの会社で働いていた時のことです。当時、移動の電車内ではパソコン仕事をするのが日課になっていた私は、その日も指定席を取り、座るとすぐにノートパソコンを開いて作業を開始しました。そこで事件が!

普段は注意力散漫なのに、一度スイッチが入ると今度はその作業に没頭してしまうのがADHD脳です。ハッと気づいた時、自分が降りる駅に電車が着いていたのです。上着は脱ぎっぱなし、ノートパソコンも開いたまま。降りそびれてしまう!と大慌てで荷物をまとめて電車から飛び降りたところ、座席の足もとに荷物を一つ置き忘れてしまいました。しかもその中には、仕事で扱っていた超重要極秘書類が入っていたのです!!

そのことに気づかないまま、電車を乗り継いで1時間後、会社に着いてからやっと重大な忘れ物をしたことに気づいた私。顔面蒼白そうはくになって社長と出社していた他の社員に報告し、すぐに駅の忘れ物センターへ問い合わせました。けれどその時点で荷物は見つからず、生きた心地のしないまま時間だけがそのまま過ぎていきました。

その時、青ざめる私の隣に座っていた同僚が、誰に話すともなく「いやぁ、これは笑い話として聞いてほしいんですけどね」と話し出しました。

「僕が今までにいちばん失敗したなぁと思ったことは、精肉店でアルバイトをしていた時に、機械へ手を突っ込んじゃったことですね。あ、これ、笑うところですから」

「ははは」と笑う彼の片手は義手なのでした。

この会社で義手の彼と一緒に働いたのは、3ヵ月ほどの短い期間だったと思います。それでも、彼が社長に対しても、「それはおかしいんじゃないですか」なんてズバッといえるところや、独特のユーモアでみんなを笑わせてくれたりするところ、ちょっと斜に構えながらもさりげなく人への優しさを持っているところは、あの自分史上最悪の忘れ物事件の思い出とともに、今も私の中に残っています。

その後、私が忘れた荷物は清掃員の方が見つけてくださり、無事に超重要書類も手元に戻ってきたのでした。

今まで数知れない大失敗案件のある私ですが、そのたびに、この彼を含む、たくさんの方に「大丈夫だよ」とフォローしていただいてきたのだな……と思います。そんなふうに、みんながくださった優しさを、今、顔面蒼白になっている誰かに、少しでもお渡ししていけたらいいなと思っています。

イラスト/雨野千晴