雨野 千晴
うっかり女子が離婚の原因を発表⁉
私は仕事の1つとして、ADHD脳タイプ女性専門のカウンセリングをしています。いただくお悩みには、ご家族との関係についてのご相談も多いです。
ADHD脳タイプの女性は、片づけや家事が苦手な方も多いです。また、電気を消し忘れる、調味料のキャップを開けっ放しにするなど、小さな不注意でも毎日一緒に生活する方にとって、「なんでできないの」「ちゃんとして」という思いになる場合もあるようです。
私は4年前に離婚しているのですが、当時の結婚相手とうまくいかなくなった理由の1つは、そういった小さな部分の積み重ねでした。例えば、私は冷蔵庫の中にある、ものの配置を覚えることができません。決まったものを決まった場所に戻すのが苦手です。ひとまずどこでもいいから冷蔵庫の中に入れ、必要な時は探す。それで困ったと思うこともなかったですし、賞味期限が切れてしまっても、気づいた時に捨てればいい、くらいに思っていました。
しかし、彼にとってはそうではありませんでした。同じ場所に同じものがあることが安心するし、気持ちがいい。毎回必要なものが私によって違う場所に置かれてしまって、探し出すことにもストレスを感じていたのだと思います。もう関係がずいぶん悪くなってからその原因について私が聞いた時に、しぶしぶ話してくれたことの1つが「冷蔵庫の中の置き場所がいつも変わってしまう」ことでした。
もちろんそれ自体が生活の中のストレスということもあったと思いますが、それよりも私がそのことについて「たいしたことはない」ととらえていたことが原因で溝が大きくなったのではないかと今は思っています。それはつまり、彼自身を大切に扱っていないことのように感じられたのではないでしょうか。
障害があってもなくても、1人ひとりの価値観は違うし、大切にしたいことも、感じ方も違っています。それをまったく同じにすることはできなくても、相手がどんな世界を見ていて、何を大切にしたいと思い、何を不快に思うのか。自分はそう思わなくても理解しようとすること、そのために自分はどんなことができるのかを考えていくことが大切なのかなと今は思っています。
先日、重度の識字障害があるドローンパイロットの高梨智樹さんにお話を伺う機会がありました。高梨さんは自分の名前を書くことができません。ホテルに宿泊する際、チェックインでのサインができなくて困ることがあるそうです。そこで、今は住所と名前の入ったスタンプを作成して持ち歩いています。そうすると、「そのくらいにできないんだ」ということが伝わるし、そのための努力をしているということを理解してもらえることで、ホテルの方が代筆を申し出てくださったり、スタンプがない時より話がスムーズに進んだりすることが多いそうです。
今、わが家の冷蔵庫には、それぞれの置き場所に「しょうゆ」「ソース」「飲み物」など、何を置くかをマスキングテープの上にペン書きして貼ってあります。今でも冷蔵庫は、彼の基準からするとぐちゃぐちゃかもしれませんが(笑)、以前よりソースがソースの位置に納まっている頻度は高くなりました。子どもたちと一緒に、しるしを元にして、使った場所に戻せるようにトライしています。
私も、ADHD仲間の皆さんも、きっと生活の中でできないこと、苦手なことはたくさんあると思います。一緒に暮らす人には自分の苦手を伝えるとともに、お互いが暮らしの中で大切にしたいことを確信し合い、そのために具体的にはどんなことができるのかを考え、試しながら工夫していくことが、お互いに心地よい関係性を築くために大切なのかもしれないですね。