プレゼント

前頭葉を鍛える片づけクイズに挑もう!

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

新型コロナウイルス感染症が流行し、家に引きこもる人が増えています。その中で、行動範囲が狭まり、身体機能・認知機能の低下が問題視されています。近年の研究で、家事が認知機能に有効であることが明らかになりつつあります。今回は、家事を踏まえた問題です。

高齢者の認知機能を高めるには料理や掃除、片づけなどの家事が効果的と実証

片づけクイズ

右のカップと同じものは、棚の中にいくつあるでしょうか。

上のイラストをご覧ください。イラストの右上にあるカップと同じものは、棚の中にいくつあるでしょうか。棚の中には、模様が違うカップを置いてあります。さらに、カップが逆さ向きになっていたり、手前にあるグラスの陰に入っていたり、さらには重ねて置いてあったりして、判断には時間がかかることでしょう。

今回は、食器棚の整理にも関わる「暮らしの脳トレ」とでもいうべき問題です。問題を解くには、元のカップとの差異を見つける注意力と図形を脳内で回転させて形を想像する能力が求められます。食器棚の整理など、家事に慣れている人は解きやすかったかもしれません。認知機能を向上させるには、普段の家事が役に立つのです。

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

最近の研究で、整理や片づけ、料理などの家事が、コロナ()における高齢者の認知機能向上に働きかけるというシンガポールからの学術報告があります。コロナ禍の自粛生活によって問題になった高齢者の運動能力・認知能力の低下に対して、戸外での運動でなく、家事に注目した興味深い研究です。

シンガポールの研究グループは、家事が認知能力を高めるだけではなく、高齢者の転倒予防につながる可能性があると、医学誌の『BMJ Open』で発表しています。この研究では、家事は片づけや料理といった比較的簡単な動きのものから、窓拭きや床掃除など、体力を使う作業までを含めています。

この研究では、21~64歳の249人と、65~90歳240人の二つのグループを対象に調査を行いました。それぞれのグループの認知能力(記憶力・注意力)と身体能力(足腰の強度など)を調べた結果、若者については家事による記憶力の向上が見られず、高齢者では効果があったとされています。

家事は高齢者の記憶力や注意力を高めるだけでなく、運動機能のスコア(座った状態から立ち上がるまでの時間)が短くなるという結果も出ました。この研究結果を見た私は、認知機能の専門家として、家事によって前頭葉(ぜんとうよう)が鍛えられた結果であると考察しました。

以前から、家事の一つである料理は、前頭葉を刺激して良い認知トレーニングになるといわれてきました。料理をする時は、まず何のメニューを作るかを決め、そのためにはどのような材料が必要なのかを考えます。さらに料理の過程を想定しつつ、一つひとつ、時間内に順序よく調理を進めていきます。料理という作業を行うには「遂行機能」が重要で、前頭葉の働きが不可欠です。

前頭葉の活性化という点では、片づけも効果的です。片づけを行うには、現在・将来における必要性や維持費用、占有面積などを判断する必要があります。例えば、食器棚の整理や片づけにはかなりの運動が伴います。私自身も最近、1週間ほどかけて片づけを行いましたが、「片づけには知力も体力も使うものだ」と実感しました。

前頭葉は「脳の中の脳」「脳の司令部」とも呼ばれる重要な部位です。脳の中でもさまざまな役割を受け持つ前頭葉において、目的を効果的に達成するために働く遂行機能は特に重要です。遂行機能には「目標設定」「行動計画」「実行」などが含まれます。今回のシンガポールの研究で、家事が心身の機能を高めるという結果が出たのは、家事によって前頭葉が刺激され、遂行機能に働きかけたからと考えられます。

答えは次ページです。

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