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「理論医学」は人類を救う?定説は真実とは限らない(中編)

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会理事長 小林 平大央

糖尿病の合併症は高血糖が原因ではなく治療に合併するインスリンの薬害?

小林平大央
[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主宰。一般社団法人日本先進医療臨床研究会理事長(臨床研究事業)、エポックメイキング医療研究会発起人代表(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

前回の記事では、福島県郡山こおりやま市で標準的な治療法では完治が難しいガンや糖尿病などの疾患の根本治癒ちゆを目指して診療をする、あさひ内科クリニック院長の新井圭輔あらいけいすけ先生が提唱されている「理論医学」の考え方をお伝えしました。今回は、新井先生が提唱する理論医学の考え方に沿って、糖尿病の本質と治療方法、そして糖尿病の合併症についてお伝えします。

地球上の生物で進化の頂点に達した種が2つあります。鳥類と哺乳類ほにゅうるいです。冬季のエサ不足による飢餓きが対策がこの2種を分けました。哺乳類は秋に豊富にエサを摂取し、インスリンを使って脂肪として蓄える対策を採り、鳥類はインスリンを使わずにエサが豊富な南方へ渡ることで飢餓を回避する対策を採りました。

ところが、哺乳類が採用したインスリンによる脂肪合成は諸刃もろはつるぎであることが分かってきました。余分な糖質を脂肪として蓄えるインスリンの働きは、必然的に活性酸素の増加を招き、それによって多くの害が発生するのです。というのも、インスリンの作用時には体内で多量の活性酸素が発生して慢性炎症を併発し、肩こりや頭痛、膠原病こうげんびょう、動脈硬化、高血圧、老化、ガンなどにつながっていくからです。そして、インスリンを使わない鳥類が哺乳類に比べて長命であることも、この事実を裏づけています。

では、糖尿病という病気の本質はなんでしょうか。糖が尿にあふれ出るという病気のイメージからすると、糖質の過剰摂取による病態といえそうです。ところが、日本の糖尿病専門医による現在の治療では、血液中に糖が余っているのは、インスリンの作用が足りず、余った糖質を脂肪として蓄えることができないからだとされています。そのため、治療法としてはインスリンの投与が行われます。また、食事指導はカロリー制限がメインで、特に糖質を減らす指導はされていません。一般的な食事では、50%程度は糖質が含まれる食事になると思われます。

インスリンがほとんど出ない1型糖尿病の人はともかく、インスリンの作用が足りない2型糖尿病の人の場合、インスリンを追加して無理やり脂肪合成をするよりも、余分な糖質を血液中にあふれさせない糖質制限のほうが理にかなった治療法と思われます。

糖尿病をアルコール処理が苦手な下戸げこの人にたとえると分かりやすいかもしれません。まったくアルコールが飲めない下戸の人は1型糖尿病、少し飲むと顔が赤くなって酔ってしまう人は2型糖尿病に似ています。お酒に強くガンガン飲める人は糖尿病になりにくい人といえるかもしれません。お酒に弱い人がアルコールを多量に飲んだら、急性アルコール中毒になる危険性が高くなります。そのため、お酒に弱い人はアルコールを飲まないのが最善の予防法です。

ちなみに、お酒に強いか弱いかはアルコールを無害な状態にまで分解する酵素の量で決まります。下戸の人はアルコールを飲んだ時に発生する「アセトアルデヒド」を分解して酢酸さくさんとして体内で無害な状態にする酵素がほぼありません。お酒に弱い人はこの酵素が少なく、欧米人のようにお酒に強い人はこの酵素が豊富にあるのです。

糖尿病もこの状態に非常によく似ています。1型糖尿病の人は血液中で余った糖質を脂肪に変えて貯蔵するインスリンがほとんど分泌ぶんぴつされず、2型糖尿病の人はインスリンが分泌されるものの、糖尿病ではない人に比べて血糖値が下がりにくい特性があるのです。そのため、糖尿病の予防法として最善なのは、アルコール対策と同様に、苦手な糖質をとらない、または制限することでしょう。

『糖尿病に勝ちたければ、インスリンに頼るのをやめなさい』新井圭輔著(幻冬舎)

しかし、アルコールと違って糖質は生体のエネルギー源ですから、まったくとらないわけにはいきません。2型糖尿病と違って、1型糖尿病の場合にはインスリン投与という選択肢もやむをえないことです。

そこで、2型糖尿病の患者さんに糖質制限を指導して、低血糖による危険を回避するためにインスリンの投与を中止する治療を行いました。すると、長年にわたる治療結果は驚くべきものでした。糖質を制限する「低インスリン療法」を行った糖尿病患者さんは、ほぼ全例で糖尿病が驚くほど改善したのです。

ただし、非常に重要な事実ですが、一般の糖尿病専門医のところで高インスリン投与の治療を受けている患者さんが、勝手に糖質制限をすると、低血糖状態になって死に至る危険があります。医師に相談せずに勝手に糖質制限をするのは非常に危険です。その意味で、高インスリン治療と糖質制限の併用は禁忌きんきであるといえます。

糖尿病の3大合併症は「し・め・じ」といって「神経(糖尿病神経障害)」「目(糖尿病網膜症とうにょうびょうもうまくしょう)」「腎臓じんぞう(糖尿病腎症)」に現れます。また、糖尿病は動脈硬化の原因となり、心臓病や脳卒中を引き起こします。糖尿病が怖いのは、こうした糖尿病の合併症があるからです。そして、通常のインスリン投与とカロリー制限の治療では、少なくない確率で合併症は発生します。

ところが、糖質を制限する低インスリン療法を行った場合、糖尿病網膜症は血糖値が高いにもかかわらず改善している症例が多くありました。また、腎臓病の指標であるクレアチニンもほぼ全員が正常値のままで、糖尿病合併症がほぼゼロであることが判明したのです。

このことから、新井先生はある結論にたどりつきます。それは、これまでの治療結果からの考察によると、神経障害以外の糖尿病の合併症の本質は、動脈硬化の促進がその大本にあり、高血糖によるものではなく、高インスリン投与によって酸化ストレスの亢進こうしんを経由して生じているのではないかというものです。

つまり、糖尿病の合併症といわれている病態は、糖尿病に合併するのではなく、糖尿病治療に合併するのではないかということです。もっとハッキリいえば、現状の糖尿病治療で多用されている高インスリン投与による薬害なのではないかということなのです。

もしこの仮説がほんとうだったら大変なことになります。ともかく、糖尿病については、一般的なインスリン投与とカロリー制限よりも、糖質を制限する低インスリン療法のほうがはるかに治療効果が高く、合併症も引き起こさないということが分かったのです(後編に続く)。