プレゼント

歯周病を改善する医療機器と患者行動変容アプリ(後編)

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会理事長 小林 平大央

歯周病の原因は歯周病菌と免疫力の低下で、治すには行動変容がカギとなる

小林平大央
[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主宰。一般社団法人日本先進医療臨床研究会理事長(臨床研究事業)、エポックメイキング医療研究会発起人代表(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

前回は、東北大学大学院歯学研究科の菅野太郎かんのたろう教授(歯科医師・歯学博士)が開発した世界初の歯周病治療機器「ブルーラジカルP-01」をご紹介しました。今回は、歯周病の治療後に健康な歯や歯茎はぐきを維持するためにはなにが必要なのかについてお話しします。

歯が抜ける原因の1位は歯周病です。厄介なことに、歯周病は病状がかなり進行するまで特に痛みもないため、ほぼ無自覚のまま進行してしまいます。

そこで重要なのは、歯周病が進行して手遅れになる前に歯科医院に通うことです。しかし、前回もお話ししたように、歯科医院に行って歯周病を進行させる歯石を取り除いても、それだけでは歯周病はよくなりません。歯周病菌は歯周病を発症する要因となる20種類以上の菌の総称ですが、歯周病菌を持っていても歯周病を発症する人と発症しない人がいるのです。

実は、歯周病を発症させる大きな原因の1つは、免疫力の低下を招く生活習慣なのです。歯周病を発症する人は、免疫力の低下を伴うさまざまな症状や疾患をあわせ持っていることが多くあります。例えば、糖尿病は全身の免疫力の低下を招き、歯周病の発症や進行に深く関与しています。そして、歯茎に起こる慢性炎症はインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病のコントロールを難しくしてしまう相互関係にあるのです。

ですから、歯周病になってしまった人は、歯茎の処置を行うと同時に低下した免疫力の回復にも努めるべきです。免疫力が低下した原因を突き止め、その対処を行って免疫力を回復させ、歯茎の処置もあわせて行うというのが本来の治療と健康な歯の維持のために不可欠なのです。

 歯周病は歯を支える歯茎に起こる炎症が引き起こす疾患です。歯の表面についている歯垢しこう(細菌のかたまり)や歯石が炎症を起こしやすくします。そのため、炎症を抑えて組織の健康を回復するためには、感染源となっている歯垢や歯石を除去する必要があります。

歯周病の原因となる歯垢は、歯茎より上の見える部分であれば日頃のブラッシングで取り除くことが可能ですが、歯石は歯科医院での処置が必要です。歯科で歯石を取ることを「スケーリング」と呼びますが、これは歯周病の基本的な治療です。また、歯茎の下の深い部分にある歯石を除去する治療はスケーリングとは区別して「SRP(スケーリング・ルートプレーニング)」と呼びます。通常、歯石取りというとスケーリングのことを指しますが、進行した歯周病の場合は深い部分の歯石取りであるSRPを行う必要があります。

しかし、その歯石も、もともとは歯ブラシによるブラッシングや歯間ブラシやフロスによる口腔こうくうケアを怠った場合に進行することがほとんどです。つまり、歯周病の感染源となる歯石を作らないように、毎日のブラッシングなどの口腔ケアを行うことが非常に重要なのです。

また、一度発症してしまった歯周病を治すには、全身の免疫力の低下を引き起こす原因を取り除く必要があります。また、自然治癒力しぜんちゆりょくを機能させるため、必要な栄養などを普段の食事からしっかりとることも重要となります。

ところで、歯科医院での歯周病治療によって歯周病がいったんよくなった場合でも、そのまま放っておいてはいけません。残念ながら、一度失われた口の中の骨は完全に回復することはありません。歯を保つ骨などの組織が失われると歯茎が下がり、歯の隙間すきまが大きくなってしまい、食べかすや歯垢がたまりやすくなって、歯周病の再発リスクが非常に高くなってしまいます。そのため、歯周病治療が終わった後も定期的に検診やクリーニングなどのメンテナンスが必要になります。そして、このメンテナンスで最も重要なのは、歯科医院に通って行う歯石取りではなく、毎日のブラッシングや口腔ケアなのです。

ところが、毎日のブラッシングや口腔ケアを怠っている人にとっては、歯周病を発症して治療を受けたからといって、急に毎日のブラッシングや口腔ケアを習慣化するというのは非常に大変な作業のようです。多くの人が歯周病を再発してしまう原因もここにあります。人はそれまでの生活や行動を容易に変えることができないのです。つまり、行動変容の難しさです。

そこで、開発されたのが菅野太郎教授による「ブルーラジカルP-01」とセットで使っていく「ペリミル」という毎日のブラッシングや口腔ケアを促すスマートフォン用のアプリです。ペリミルは歯周病治療の効果を高め、再発を予防するために開発された行動変容アプリです。具体的には、次のような特徴があります。

菅野太郎教授が開発した歯周病治療のための行動変容アプリ「ペリミル」

まず歯周病の状態を可視化します。ペリミルは歯科医院で測定した歯周ポケットの深さなどをアプリに取り込み、患者さん自身の歯周病の状態を分かりやすく表示します。自分の歯周病の状態を視覚的に把握できるため、治療の必要性を実感できます。

また、モチベーションの維持にも貢献します。歯周病の状態が改善されると、アプリ上で歯の色が変化します。治療の成果も実感できるため、口腔ケアを継続するモチベーションが維持されるしくみになっています。

それから、いちばん大事な歯磨きの習慣づけも支援します。ペリミルには歯磨きの回数や時間を記録する機能があります。

さらに、ペリミルを使えば歯科医院とのコミュニケーションを取ることができます。ペリミルを通じて、歯科医院から患者さんへメッセージを送ることができ、歯磨き記録に対しての応援コメントや、口腔ケアのアドバイスなどを行うことができるのです。こうしたコミュニケーションを通して、患者さんの行動変容を促すことがペリミルの最大の特長です。

さらに、予防意識の向上にもつながります。ペリミルを使用することで、患者さんが自分の口腔内の状態に関心を持つことを促します。歯周病予防の重要性を以前よりも強く認識することで、主体的に予防行動を取るようになることが期待できるのです。

以上のように、ペリミルは歯周病の状態を可視化します。さらに、患者さんのモチベーションを維持しながら、適切なブラッシングや口腔ケアの習慣づけを支援する画期的なアプリなのです。