生活習慣病予防学術委員会 事務局長 横山 潤さん
生活習慣病の予防を啓発する学術団体の事務局長として忙しい毎日を送る横山潤さん。もう一つの顔として、「モリンガ」の普及に携わる一面を持っています。健康増進に役立てるだけでなく、日本の農業振興や環境保護も視野に入れた「モリンガランド構想」について伺いました。
予防医学が浸透する欧米の健康観に共感し学術団体で活動を開始

今回の情熱人は、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病を防ぐことの大切さを啓発する学術団体「生活習慣病予防学術委員会」で事務局長を務める横山潤さん。2001年に設立された同会は、当初から一貫して予防医学の大切さを提唱し、講演会やセミナー活動、検査認証事業や生活習慣病予防指導員の育成事業などを展開しています。まずは横山さんに、予防医学との接点について伺いました。
「もともと私はIT業界で仕事をしていました。健康には高い関心を持っていましたが、家族が体調を崩したことをきっかけに健康に関わる仕事を志すようになったんです」
IT業界から医療・健康分野へと転身を図った横山さんが最初に手がけたのは、安心・安全な野菜を個々の家庭に届ける宅配事業でした。今でこそ有機野菜をはじめとする食材の宅配事業は大手企業も参入するほど活況を呈していますが、当時は業界の黎明期。失敗も多かったと振り返ります。
「野菜を提供してくださる農家さんは多かったのですが、当時はあまり知識がなく、農家さんときちんとした契約を結ばなかったんです。農家さんから届く農産物に規定を設けていなかったので、届く野菜の大きさはマチマチ。時にはびっくりするほど小さなニンジンが届いて困ってしまうこともありました」
その後、小麦アレルギーに悩む子どもが多いことを知った横山さんは、粉末にした大豆を使ったクッキーを開発。一定の販売業績を上げることができたそうです。
起業や商品開発にまつわる苦労や喜びを重ねながら、健康業界での人脈を徐々に広げていった横山さん。そうした中、現在、事務局長を務める生活習慣病予防学術委員会と縁を結ぶことになったといいます。
「私たち日本人は国民皆保険制度のおかげもあって、予防医学への意識が希薄です。病気になって初めて『どうやって治療しようか』と考えます。医療費が高額な欧米では、多くの人が『病気にならないためには、なにをすべきか』と考えています。健康を維持するためには欧米の考えが望ましいと思いますし、将来的には日本でも予防医学の意識を高めなければならないと考えました。そのような時にご縁をいただいた生活習慣病予防学術委員会の設立趣旨に共感したので、仕事をさせてもらうことにしたんです」
横山さんは事務局長に就任し、生活習慣病予防学術委員会の仕事に携わるようになったものの、学術団体ならではの風通しの悪さを感じたとのこと。持ち前の柔軟な発想で、硬直ぎみの組織を変えていったといいます。
「委員会の歴代会長は、大学医学部の教授や名誉教授、元厚生労働省の肩書きを持つ、そうそうたる面々です。とはいえ、委員会の権威としての重し役にはなっても、一般の方々に生活習慣病の予防を普及させるには多くの壁がありました」
2017年に生活習慣病予防学術委員会に入職した横山さんは、事務局長として改革の手を打っていきました。以前から行っていた生活習慣病をテーマとした講演会やセミナーの拡充に始まり、健康食品や健康器具検査事業、予防医学の知識を習得するための通信講座の開講など、学術研究者ではない人にも予防医学に興味を持ってもらう策を次々と講じて成果を上げたそうです。
スーパーフードとして世界第3位の市場規模があるモリンガに着目
生活習慣病の予防意識を高める啓発活動に尽力している横山さんが「生活習慣病予防の切り札」と考えて注目しているのが「モリンガ」です。どのような植物なのでしょうか。
「モリンガはインド原産の植物で、和名をワサビノキといいます。アフリカや東南アジアなど熱帯地域を中心に世界中で栽培され、可食植物として最高レベルの栄養価があるといわれています。抹茶や青汁のような味わいが特徴のモリンガには食物繊維やたんぱく質、各種ビタミンやミネラルが豊富に含まれていて、海外ではミラクルツリー(奇跡の木)と呼ばれるスーパー植物なんです」
横山さんが力説するように、モリンガに含まれる栄養素はバランスがとてもよく、葉・花・茎・根のすべてを利用できる有用植物でもあります。
「モリンガに期待される健康増進効果は、WEP(国際連合世界食糧計画)も高く評価しているほどですが、残念なのは日本における知名度の低さです。モリンガを知っているのは健康意識の高い一部の人に限られているのが実情だと思います」

横山さんが指摘するように、スーパーフードと称される食材を世界市場で見ると、第1位のカカオ、第2位のココナッツに次いでモリンガは第3位の市場規模を誇ります。日本におけるカカオやココナッツの知名度と比べて、モリンガの存在は想像以上に知られていないといえるのです。
「日本でも九州や沖縄地方が中心となってモリンガの栽培が行われています。ただ、現地に足を運んで話を聞いてみると、個々の農家さんがそれぞれモリンガを栽培している状況で、横のつながりが希薄と感じました。モリンガを収穫した後の販売や普及に当たるネットワークも弱い印象だったのです。モリンガは厳しい自然環境でも生育が望めるので、栽培も比較的容易です。日本で予防医学の意識を高めるためにも、世界で健康増進効果を認められたモリンガを普及させるべきと確信しました」
生活習慣病予防学術委員会をはじめ、これまでの仕事で培ったネットワークを生かしてモリンガの普及にあたる横山さん。2022年に立ち上げたのが、「モリンガランド構想」と名づけた、モリンガによる健康・環境・農業の循環構想です。
世界第3位の市場規模がありながら、日本国内では普及があまり進まないモリンガをキーワードにしたプロジェクトには、どのような思いが込められているのでしょうか。
モリンガランド構想で日本人を健康にして農業振興にもつなげたい
「農業人口の減少、農家の後継者問題、耕作放棄地の増大など、日本の農業には深刻な問題が山積しています。農業は国家運営の基本といわれますが、日本の産業界を考えるうえでも、農業支援・地域振興策は避けて通れない待ったなしの段階です。そこで私は、農業支援策の1つとして、日本各地で広がる耕作放棄地になりそうな田畑にモリンガを植える活動を『モリンガランド構想』と名づけました」
モリンガの成長は早く、苗を植えた後はほとんど手をかけることなく成長します。横山さんいわく、土壌や気候によるものの、定植から半年後には高さ3~4㍍まで成長するそうです。成長後は葉を収穫し、殺菌・乾燥・粉末処理をして出荷。地域差はあるものの、毎年5月に定植すれば、9~11月には収穫できるほど成長が早いそうです。

「現在はモリンガ畑の候補になりそうな耕作放棄地を探し、モリンガ栽培に挑戦してくれる方々に声をかけている段階です。おかげさまで反響は上々で、2024年は関東地方にある7ヵ所の農園で計5000本のモリンガを植樹しました」
世界第3位の市場を持つモリンガを日本に普及させることで、日本人の健康増進のみならず、農業の振興にも役立てたいと話す横山さん。モリンガランド構想における大切なキーワードとして挙げる地球環境にも言及します。
「モリンガは成長過程において、たくさんのCO2(二酸化炭素)を必要とする植物です。その数値は驚くほどで、一般的な植物の約20倍、スギの木と比べると約50倍といわれています。つまり、モリンガはそこに存在するだけで地球上のCO2をどんどん吸収してくれる貴重な植物なんです。コロナ禍以降、日本人の健康や農業を含む産業構造においてほころびが現れてきたように感じます。生活習慣病予防学術委員会では、『日本人の健康を守り、日本の農業も守る!』という観点から、農業部会を設置して農家さんのサポート活動も展開しています。始まったばかりのモリンガランド構想ですが、世界が認める健康素材のモリンガをもっと広めることで、日本を元気にしていきたいと思います」