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慢性腎臓病を悪化させるのは糖尿病と高血圧症で透析回避のカギは毒性物質AGEと判明

糖尿病・腎臓内科
AGE牧田クリニック院長 牧田 善二

慢性腎臓病の最大原因は高血圧症と糖尿病で毒性物質AGEが動脈硬化を引き起こす

[まきた・ぜんじ]

1979年、北海道大学医学部卒業。ニューヨーク・ロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されるAGEの研究を約5年間行い、世界で初めて血中AGE測定法を開発。その研究成果を『サイエンス』『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』『ランセット』などの医学誌上に筆頭著者として発表。2000年より久留米大学医学部教授。2003年にAGE牧田クリニック開院。『医師が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)など著書・監修書多数。

慢性腎臓病(CKD)は、すでに国民病といえるほど患者数が増えている病気です。日本腎臓学会の発表によると、現在、国内における慢性腎臓病の患者数はおよそ1330万人で、成人の8人に1人が該当します。そのうち、積極的な治療が必要な腎臓病患者さんは、約600万人に上るといわれています。

慢性腎臓病は初期にはほとんど自覚症状が現れないため、症状に気がついたときにはかなり進行した状態にあるといえます。慢性腎臓病が末期の腎不全まで進行してしまうケースも少なくなく、実際、透析治療を受けている患者さんは約33万人もいます。透析治療を導入すると、毎日の生活における患者さんの心身の負担は大きくなります。健康診断や医療機関での血液・尿検査によって腎機能の低下を早期発見し、適切な治療を行うことは、慢性腎臓病の重症化を防ぐためにとても重要です。

腎臓の重要な働きの1つが、血液のろ過です。腎臓のろ過機能に異常があると、本来ならば体内にとどまるべきたんぱく質が尿中に漏れ出てしまったり、筋肉中の成分が代謝されてできる老廃物のクレアチニンが尿中に正常に排泄されなかったりします。

腎機能を低下させる重大な原因として、動脈硬化(血管の老化)を引き起こす高血圧症と糖尿病が挙げられます。動脈硬化は、動脈の血管内にコレステロールや線維などのプラークがたまって血管が狭くなったり、弾力がなくなってもろくなったりする状態のことです。高血圧の状態が続くことで血管の内側を覆う血管内皮細胞が傷害されると、全身で動脈硬化が進むおそれがあります。

白血球の一種である貪食細胞がAGEを除去するさいに、サイトカインという炎症を促す物質が放出されて炎症反応が起こる

腎機能悪化の原因として、さらに危険なのが糖尿病です。糖尿病は現在、新たな人工透析導入の最大の原因なのです。

高血糖の状態が続くと、体内にAGE(終末糖化産物)と呼ばれる物質が作り出されます。AGEは、ブドウ糖がコラーゲンやエラスチンなどのたんぱく質に結合してできる物質で、人類最大の敵といえます。

その理由は、AGEが糖尿病の合併症である糖尿病網膜症による失明や糖尿病腎症による人工透析の原因となるだけでなく、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞、高血圧症、さらにはがんなどのおそろしい疾患を引き起こしているからです。また、肌の老化によってできるシワやシミも、AGEが原因です。体内に増えたAGEは、体の組織を構成するたんぱく質を糖まみれにして機能を奪ったり、受容体(物質の刺激を受け取って細胞などに伝える器官)に結合して慢性的な炎症を起こしたりします。

例えば、線維状のたんぱく質であるコラーゲンは体を構成する全たんぱく質の約30%を占め、皮膚や血管、骨、腱、内臓、毛髪、爪など、ほとんどの組織に存在しています。コラーゲン線維は「生理的架橋」という規則的な網目状に結びつき、エラスチンがその網目の隙間を埋めることで組織に弾力性を与えています。

しかし、AGEはコラーゲンやエラスチンなどに無作為にくっつき、「非生理的架橋」という形で過度に結合させてしまいます。すると、コラーゲン線維本来の強度が損なわれ、血管や骨などの組織の弾力性や柔軟性も失われるのです。

中でも、AGEの影響を特に受けやすいのが動脈です。動脈には体中に酸素や栄養を届ける大事な働きがあります。しかし、AGEが蓄積した動脈では、コレステロールの蓄積や炎症反応が繰り返され、動脈硬化が進んでしまうのです。「人は血管とともに老いる」といわれるように、動脈硬化は老化の最たる症状なのです。

AGEによる腎臓へのダメージは深刻で尿アルブミン検査での早期発見が治療のカギ

糖尿病腎症を早期に発見・治療するための重要な指標が尿アルブミン値で、「尿中アルブミン濃度(㍉㌘/㍑)÷尿中クレアチニン濃度(㌘/㍑)」で算出される。尿アルブミン値が300を超える顕性アルブミン尿になると腎機能が急速に低下するため、糖尿病腎症の患者さんが透析を回避するには第2期(早期腎症期)までに適切な治療を始めることが大切
出典『糖尿病腎症-発症・進展機序と治療』より作成

私たちの体には、毒性物質であるAGEを処理しようとする働きが備わっています。白血球の1種である貪食細胞(マクロファージ)がAGEを食べてくれるのです。ところが、貪食細胞がAGEを食べるさいに、サイトカインという炎症を促す物質が放出され、炎症反応が起こることが明らかになってきました。慢性的な炎症はボディブローのように血管を傷めつけ、動脈硬化を進行させてしまいます。

動脈硬化により障害を受けやすい臓器が腎臓です。1つの腎臓は「ネフロン」と呼ばれる特殊な管状の構造物が約100万個集まってできています。ネフロンは、数本の毛細血管が球状に絡まった小さなろ過装置の「糸球体」と、糸球体からつながる「尿細管」という管でできています。

毛細血管の塊である糸球体は、AGEの影響を受けやすい器官といえます。高血糖の状態が長期間放置されて糸球体の毛細血管がAGEによって傷つくと、血液を十分にろ過できなくなり、腎臓の働きが低下します。

糖尿病腎症の早期発見には、尿アルブミン値の測定が必須です。アルブミンは血液の中に最も多く含まれるたんぱく質です。アルブミンはサイズが大きく通常は尿に漏れ出ることはありませんが、糖尿病に5年以上罹患すると、腎臓の血液をろ過する膜に穴があいてきて少しずつ尿中に漏れ出します。この検査を定期的(3ヵ月ごと)に行って早い段階で尿アルブミン値の異常を見つけることができれば、現代の医学では治療が可能です。だからこそ、早期発見はとても重要なのです。

尿アルブミンの正常値は30未満です。尿アルブミン値が30~299になると「微量アルブミン尿」と診断されます。糖尿病腎症は、微量アルブミン尿の段階であれば、適切な治療を受けて治すことができます。さらに、尿アルブミン値が300以上になると「顕性アルブミン尿」といい、糖尿病腎症が透析導入まで不可逆的に進行する状態であることから「ポイント・オブ・ノーリターン(後戻りできない状態)」と呼ばれています。顕性アルブミン尿の状態になると、早ければ2年ほどで人工透析の導入を余儀なくされます。

近年の研究では、血圧を下げる薬の1種であるテルミサルタンやアゼルニジピンにはAGEによる慢性的な炎症を抑える効果があり、糖尿病腎症の治療薬として有効であることが確かめられています。糖尿病腎症の悪化を防いで透析導入を回避するには、微量アルブミン尿が検出された段階で適切な治療を開始することが最も大切なのです。

私は、糖尿病の治療で大事なことは、血糖をコントロールしてヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと略す)の数値を下げることではなく、尿アルブミン値を定期的に検査して糖尿病腎症の早期発見・治療を行い、透析導入を回避することだと考えています。いま血糖コントロールがうまくいっていても、将来的に糖尿病腎症が起こる可能性は否定できません。また、HbA1cの数値がどんなに下がったとしても、糖尿病合併症の悪化を防げないということは、必ず意識しておいてください。

揚げ物に含まれる大量のAGEは酢や柑橘類をかけるだけで半減することが判明

糖質は私たちが生きていくために不可欠なエネルギー源です。ところが、過剰な糖質が血管壁を形成するコラーゲンに付着すると、付着した糖質の一部が変性し、アマドリ化合物になります。アマドリ化合物の代表的な例はHbA1cです。

そもそも、ヘモグロビンは赤血球に含まれるたんぱく質の1種で、全身の細胞に酸素を送る働きをしています。血液中のブドウ糖がヘモグロビンとくっつくと、糖化ヘモグロビンになります。いったん糖化したヘモグロビンは、赤血球の寿命(120日)が尽きるまで元には戻りません。HbA1cは、すべてのヘモグロビンの中で糖化ヘモグロビンがどのくらいの割合で存在しているかをパーセントで表したものです。HbA1cは過去1~2ヵ月の血糖値を反映し、血液中のブドウ糖の濃度が高いほど、HbA1cの数値も高くなります。

アマドリ化合物は、最終的にAGEになります。アマドリ化合物からAGEができるプロセスは一方通行で、「終末糖化産物」と呼ばれるとおり、元のたんぱく質と糖質に戻ることは決してありません。また、AGEが付着したコラーゲン線維は10年以上にわたって体内に残るため、AGEは徐々に体内に蓄積されていき、糖尿病だけでなく糖尿病腎症や糖尿病網膜症といった糖尿病合併症を進行させていくのです。

AGEは高血糖によって体内で作られるほか、飲食物にも含まれています。AGEを体内に蓄積させないためには、食生活で注意すべき点が2つあります。「糖質を過剰に摂取しないこと」と「AGEを多く含む飲食物をできるだけとらないようにすること」です。

飲食物に含まれているAGEをとると、約10%が腸管から吸収され、そのうち3分の2が体内に蓄積するといわれています。AGEは分解されにくいので、できるだけ飲食物から摂取しないことが重要です。

AGEがたくさん含まれている食品は、揚げたり焼いたりして焦げ目がついた料理や、電子レンジを使って調理した料理です。高温で揚げた空揚げやトンカツ、砂糖を加えたたれで味つけした焼き鳥やブリの照り焼き、そして糖質を多く含むホットケーキなどには、大量のAGEが含まれています。こんがりと焼いたベーコン100㌘当たりに含まれるAGEの量は、1食分で1日のAGEの摂取目安量(7000~1万)を軽く超えてしまいます。製造過程で熱を加えるシリアルやポテトチップスなどにも、AGEは大量に含まれています。

さらに、同じ食品でも調理のしかたによってAGEの量が大きく変わります。どんな食品でも加熱される温度が高く、加熱時間が長くなるほど、AGEの量が増えてしまいます。同じ卵でも、100㌘当たりのAGE含有量は、ポーチドエッグには27、ゆで卵には195、そして目玉焼きにすると1237にもなるのです。

糖尿病腎症を予防するためには、できるだけ食品を加熱せずに食べることが理想的です。加熱する場合には、ゆでたり蒸したりするなど、比較的低温で調理をするように工夫しましょう。レモンやユズなどの柑橘類や酢に含まれるクエン酸には、体内の活性酸素を抑制する抗酸化作用だけでなく、ブドウ糖の燃焼を促す抗糖化作用があります。揚げ物を調理するさいには、食材を柑橘類や酢に漬け込んでから揚げるとよいでしょう。揚げ物にレモンや酢をかけるだけでも、料理に含まれるAGEの量が半分近くに減ったという研究報告もあります。

アルコールにもAGEを減らす働きがあります。特に、私がおすすめしているのがワインです。甘口のワインよりも、糖質の少ない辛口のワインを選びましょう。赤ワインにはポリフェノールが、白ワインには酒石酸やリンゴ酸などの有機酸が豊富に含まれており、いずれも強い抗糖化作用・抗酸化作用を持っています。ワインには、適量をとると翌朝の血糖値を下げる働きがあります。ワインを飲みながら食事をすると、体内に蓄積するAGEの量が半分になるという報告もあります。
 

この記事は「健康365」2019年6月号に掲載されています。