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腎臓専門医がアドバイス!腎臓病の食事療法を実践するコツと意外な落とし穴

糖尿病・腎臓内科
独立行政法人国立病院機構北海道医療センター腎臓内科医長・広報室長 柴崎 跡也

腎臓病の食事療法は塩分・たんぱく質・カリウム制限が基本で脱水症状には要注意

[しばざき・せきや]

1967年、北海道生まれ。1994年、北海道大学医学部卒業。同大学医学部第二内科に入局。医学博士。釧路赤十字病院、北見赤十字病院、市立札幌病院、米国イェール大学、北大病院を経て、2015年より現職。慢性腎臓病や多発性嚢胞腎の分野で、市民講座・出前講座による指導や病診連携に尽力している。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本腎臓学会指導医・専門医、日本透析医学会指導医・専門医。

慢性腎臓病(CKD)の患者さんにとってなによりも重要なのは、適切な治療を受けて適度な運動を行うとともに、患者さん一人ひとりの状態に合わせた食事療法を継続して行うことです。慢性腎臓病の食事療法には、次の5つのポイントがあります。

①塩分摂取量を抑える

腎臓の機能が低下すると、ほとんどの場合、血圧の上昇が認められるようになります。高血圧になると腎臓にかかる負担が増え、さらなる腎機能の低下によって血液のろ過が十分にできなくなり、塩分制限が必要になります。病期にもよりますが、基本的に慢性腎臓病の患者さんは、一日の塩分摂取量を6㌘未満に抑えるようにしましょう。

②たんぱく質摂取量を抑える

たんぱく質は、筋肉や内臓など、体を作る大切な栄養素です。たんぱく質は20種類のアミノ酸から構成されており、特に人間の体内で作ることのできない必須アミノ酸は食品から補わなければなりません。食品から摂取されたたんぱく質は、体内で代謝され、不要なものは老廃物として血液中に蓄積されます。腎臓で血液がろ過されるさいに老廃物は尿として排泄されますが、たんぱく質をとりすぎると老廃物が多くなり、腎臓への負担が増えてしまいます。

また、肉や魚、卵、乳製品など、たんぱく質が多い食品には、リンも多く含まれています。腎機能が低下するとリンを十分に尿から排泄することが難しくなり、体内に徐々に蓄積されていきます。過剰なリンが血液中にとどまると、カルシウムと結合して血管がガチガチに硬くなる石灰化を引き起こすようになります。石灰化した血管では、動脈硬化(血管の老化)が起こりやすいことが分かっています。

慢性腎臓病(保存期)の食事療法の基本

③エネルギーを確保する

腎臓病の食事療法で難しいのは、たんぱく質を制限しながら適正なエネルギーを確保することです。過剰な食事制限で低栄養になると、体重や筋肉量が減るばかりでなく、最も重要な抵抗力・免疫力が低下してしまいます。一日のエネルギー摂取量の目安は「標準体重(㌔㌘)×25~35㌔㌍」とされています。糖尿病の場合はエネルギー摂取量を調整する必要がありますので、医師や管理栄養士に相談しましょう。

④カリウム摂取量を抑える

腎臓の働きが低下すると、カリウムを尿として排泄する量が減ります。そのため、血液中のカリウム濃度が高くなり、不整脈や心停止を起こす危険が高まります。一日のカリウム摂取量が1500㍉㌘未満になるよう気をつけましょう。

⑤水分をしっかりとる

腎臓の主な働きの一つに、体内の体液量やナトリウム・カリウムなどの電解質のバランスを調整し、必要なミネラルを体内外に排泄・再吸収することが挙げられます。腎機能が低下すると、体内の水分を保持する能力も低下し、脱水症状を起こしやすくなります。

脱水症状で体内の血液の量が少なくなると、腎臓に送られる血液の量も少なくなります。脱水症状が長く続くと、腎臓の血流量が減って腎臓がダメージを受け、慢性腎臓病が進行します。

慢性腎臓病の治療薬の中には、脱水症状になることでカリウム濃度が上がり、腎機能を一気に悪化させるものがあります。日常生活での水分不足や熱中症などによる脱水症状にならないよう、十分注意しましょう。

患者さんの中には、水分をとりすぎるとむくむのではないかと心配する方がいますが、慢性腎臓病の保存期の食事療法では、水分よりも塩分の摂取量を抑えるほうが効果的です。ただし、慢性腎臓病の末期の透析直前で尿の量が非常に少ない場合には、水分を控える必要があります。また、実際に浮腫(むくみ)が現れた場合は、ネフローゼ症候群の疑いがあります。必ず医師の診察を受けてください。

食事療法の継続には手軽に作れるメレンゲ泡しょうゆなど減塩調味料の活用が有効

札幌市西区にある北海道医療センターは、30の診療科からなる総合病院で、3次救急の受け入れも行っている

慢性腎臓病の食事療法は「継続すること」がとても重要です。ところが、食事療法は塩分やたんぱく質の摂取量をはじめ、さまざまな制限があるため、患者さんにとって大きな負担となります。また、慢性腎臓病は自覚症状に乏しく、患者さんが深刻さを実感できないことから、つい制限を緩めてしまうことが少なくありません。

慢性腎臓病の患者さんが食事療法を継続するためには、慢性腎臓病とはどのようなものなのかをよく理解し、病識(自分が病気であるという自覚)を持つことが大切です。腎臓は、機能がいったん損なわれると、多くの場合は元に戻りません。慢性腎臓病が進行して腎不全の状態になると、血液透析や腹膜透析といった人工透析、あるいは腎移植などの腎代替療法が必要になります。

いまは自覚症状がなくても、10年後や20年後の状態を想像して地道な努力を重ねることで、人工透析の導入を先延ばしにすることは十分に可能です。私が診ている患者さんも、病識のある人ほど効果的な食事療法を長く続けることに成功しています。慢性腎臓病の悪化を防ぐためによいとされる食事療法をやみくもに行うのではなく、自分にとって重要なものを厳選し、優先順位を正しくつけて行ってください。

慢性腎臓病の患者さんが最優先で取り組むべきことは「減塩」です。その他、カリウムやたんぱく質の摂取量は、病期に関係なく必要に応じて制限するとよいでしょう。例えば、カリウム摂取量の制限は、一般的にはステージG3b以上になると導入されますが、血中のカリウム濃度が低ければ行う必要はありません。一方、ステージG2以下の患者さんでも、高カリウム血症の疑いがある場合にはカリウムの量を制限する必要があるのです。

また、透析を受けている患者さんが意識しているリンの制限は、透析導入前の保存期の患者さんにも同様に当てはまるわけではありません。リンはたんぱく質の豊富な食品に多く含まれているため、たんぱく質制限を行っている患者さんであれば意識しすぎる必要はないといえるでしょう。

次に、塩分やカリウム、たんぱく質の摂取量を抑えられる具体的な方法をご紹介しましょう。味付けや調理のしかたにちょっとした工夫を取り入れるだけで、食事療法がらくに継続できるようになることでしょう。

調味料を使うさいには塩分が多く含まれているしょうゆやみそ、ソースを減らし、コショウやトウガラシ、カレー粉、酢、レモンなどを上手に使って味を変化させましょう。天然のうまみ成分であるコンブやカツオ節から取ったダシも積極的に活用しましょう。

ただ、どうしてもみそやしょうゆ、顆粒ダシを使いたい場合には、無塩や減塩のものを選ぶようにします。塩分0の「無塩みそ(みそ風調味料)」も市販されており、好みに応じて減塩みそや少量の食塩を加えて使うことができます。

しょうゆにゼラチンを加え泡立てて作る「泡しょうゆ」は、メディアで取り上げられて話題になりました。泡状になったしょうゆは舌の上に長く残り、少量でも塩気を感じやすく満足感が得られます。

メレンゲ泡しょうゆの作り方

とはいえ、泡しょうゆはゼラチンを加熱して冷やしながら作る手間がかかるため、私はゼラチンの代わりに卵白を使う「メレンゲ泡しょうゆ」をおすすめします。メレンゲ泡しょうゆは、減塩しょうゆに卵白を加えて泡立てるだけで、常温で手軽に作ることができます。ただし、卵白を使用しているので、メレンゲ泡しょうゆは必ず2時間以内に使いきってください。

カリウムは水溶性で水に溶け出しやすいため、カリウムを多く含む野菜は細かく切って水にさらし、湯通しや下ゆでなどの処理をして水気をしっかり切ってから調理しましょう。カリウムが溶け出している野菜のゆで汁は、調理に使用せずに捨ててください。イモ類やカボチャなどの根菜類は、ゆでてもカリウムがなかなか排出されないため、食べすぎないようにしましょう。

たんぱく質摂取量を抑えようとして副菜の一つひとつに細かく注意を払い、食事療法が負担になってしまう患者さんは少なくありません。必要に応じて、低たんぱく米などの治療用特殊食品を活用しましょう。精白米を低たんぱく米に置き換えると、主食から摂取するたんぱく質の量を抑えられるぶん、副菜の肉や魚、卵などからの摂取量を増やすことができます。

腎臓病食は自宅で作るのが理想です。市販の総菜や外食のメニューのほとんどが濃い味付けで、塩分が多く含まれています。外食するさいには、丼物やカレーライスなどの一品物ではなく、主菜と副菜をバランスよく頼みましょう。ラーメンやみそ汁の汁は残し、漬け物など塩分の多いものもとらないようにしてください。外食時のメニューに塩分表示がなくても、スマートフォンなどを活用すると栄養成分表を検索できるため、おおよその塩分量を把握できます。

外食時の汁ものや高カリウムの野菜ジュースは避けて市販総菜の成分表示も確認

ナトリウムと食塩の換算方法

市販の食品を購入するさいには、成分表示にあるナトリウム量を必ず確認するようにしてください。めんどうでも一つひとつすべての食品の成分表示を確認し、ナトリウム量がいちばん少ないものを選びましょう。ここで注意してほしいのは、表示されているナトリウムの量は、塩分そのものの量ではないことです。ナトリウム量(食塩の主成分)の数値を食塩量の数値に換算する方法を覚えておくと、スーパーマーケットなどで買い物をするときに役立ちます。

カリウム摂取量を制限している患者さんの中には、「清涼飲料水と違って野菜ジュースは体にいいから」「スイカには利尿作用があるので腎臓にいいから」などの理由によって、意識せずにカリウム含有量の高い飲食物をとっている方がいます。一見体によさそうな野菜や果物には、カリウムを多く含んだものも少なくありません。

例えば、市販のトマトジュースには200㍉㍑当たり500㍉㌘以上のカリウムが含まれているため、カリウム制限を行っている患者さんは控えるほうがよいでしょう。また、同量の紅茶とコーヒーを比べると、コーヒーのほうが紅茶よりも多くのカリウムを含んでいます。食事の内容や調理法に十分注意している患者さんであればなおのこと、間食や食事の合間にとる飲み物などから、知らないうちにカリウムを過剰に摂取してしまわないよう気をつけましょう。
 

この記事は「健康365」2019年6月号に掲載されています。