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全身の司令塔・腎臓の機能は夏に低下しやすい!危険度が急上昇する心疾患に要注意

糖尿病・腎臓内科
東洋医学研究所附属クリニック医師 川嶋 朗

慢性腎臓病は患者数が急増中の新たな国民病で初期は自覚症状なし

[かわしま・あきら]——1983年、北海道大学医学部卒業。医学博士。東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長、同大学附属青山女性・自然医療研究所自然医療部門准教授を経て、現職。東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授を兼務。著書に『キレイが目覚めるドライヤーお灸』(現代書林)など多数。

夏は血管病の季節です。夏場は大量の汗をかくため、血液の水分が失われやすくなり、水分を失って固まりやすくなった血液はどろどろとした状態になります。その結果、血流が悪化し、脳梗塞を引き起こす危険性が高まるのです。近年の研究から、急性心筋梗塞も夏に起こりやすいことが分かっています。さらに、夏の病気として注意すべき疾患に、慢性腎臓病(CKD)が挙げられます。

腎臓は腰の上に左右1個ずつあり、大きさはレモン一個分、重さ150㌘程度の臓器です。主な働きとしては、血液をろ過し、余分な水分や老廃物を体外に排泄する機能が挙げられます。その他、体内のミネラルバランスや血圧の調節をしたり、血液を作ったり、骨の形成に関わるビタミンDを活性化させたりする働きがあります。体内でさまざまな活躍をしている腎臓は、人間が生命活動を行うための「司令塔」の役割を果たす重要な臓器なのです。

腎臓には左右合わせて約200万個もの糸球体があり、血液を1分間に約1㍑ろ過している。ろ過の過程で作られる尿のもと(原尿)は必要に応じて再吸収され、不要物が尿として排泄される

現代の日本では、高齢化に伴い、腎臓の働きが低下する慢性腎臓病の患者さんが急増しています。慢性腎臓病とは、慢性的に腎機能が低下する腎臓病の総称です。主なものに、糖尿病性腎症、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎、高血圧による腎障害(腎硬化症)などが挙げられます。慢性腎臓病が進行すると腎不全に至り、透析治療(人工透析)や腎移植が必要になります。

日本腎臓学会の報告によれば、日本国内の慢性腎臓病患者数は約1330万人で、成人の8人に1人という状況です。さらに、慢性透析患者数は約33万人で、65歳以上が65.1%、75歳以上が32.0%です。高齢化が進む日本では、慢性腎臓病が新たな国民病になりつつあるといっても過言ではありません。

慢性腎臓病は初期にはほとんど自覚症状が現れません。症状に気がついたときには、かなり進行した状態にあるといえます。

心臓病の危険度を高める慢性腎臓病は水分管理が難しく過剰でも脱水でも悪化

たんぱく尿検査と血清クレアチニン値から分かる推算糸球体ろ過量(eGFR値)で、腎機能の状態は6段階に判定できる
『CKD診療ガイド2012』をもとに作成

慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合です。

①たんぱく尿検査で1+以上
②糸球体ろ過量(GFR値)が60未満

たんぱく尿の検査は、腎臓のろ過機能が正常かどうかを調べるものです。ろ過機能に異常があると、本来ならば体内にとどまるべきたんぱく質が尿中に漏れ出てしまいます。

たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階あります。正常範囲は「-」で、「+」の数字が大きくなるほど、尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、腎臓のろ過機能が低下していることを示しています。

糸球体ろ過能力早見表(男性用)

糸球体のろ過量とは、1分間にすべての糸球体によってろ過される血漿量のことです。糸球体は毛細血管が網の目のように絡まっている器官で、腎臓に送り込まれた血液をろ過し、尿のもと(原尿)を作ります。糸球体ろ過量の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとに推測する計算法を用いて、推算糸球体ろ過量(eGFR値)を算出します。

クレアチニンとは、筋肉中の成分が代謝されてできる老廃物のことです。クレアチニンは、たんぱく質とは逆に、一定の量が常に尿として排泄されなければならないものです。クレアチニンが正常に排泄されているかどうかの指標が、糸球体ろ過量です。

慢性腎臓病の病期は、推算糸球体ろ過量によって、G1~G5までの六段階に分けられます(G3はaとbに区分け)。糸球体ろ過量を調べるには複雑な計算が必要ですが、日本腎臓学会が作成した「糸球体ろ過能力早見表」を用いて性別・年齢・クレアチニン値をあてはめれば、腎機能の状態を知ることができます(糸球体ろ過能力早見表(男性用),糸球体ろ過能力早見表(女性用)参照)。

糸球体ろ過能力早見表(女性用)

慢性腎臓病のほんとうの恐ろしさは、合併症にあるといえます。腎臓の機能が低下して水分が多くなると、むくみが生じます。造血作用に不具合が生じると貧血、血圧の調整ができなくなると高血圧、ビタミンDを活性化できなくなると骨軟化症の危険性が高まるのです。

近年の研究により、慢性腎臓病の患者さんは、心臓病や脳卒中、下肢動脈の狭窄・閉塞の合併率が高まることが分かっています。さらに、慢性腎臓病の患者さんは、末期腎不全へ進行するよりも心血管疾患で亡くなる危険性のほうが高いことが知られています。

慢性腎臓病の進行を抑えるためには、自己管理が大切です。ところが、腎臓病の管理は大変難しいものが多く、医師との綿密な連携が必要なものも少なくありません。その一つが水分の管理です。

糖尿病は腎臓の機能を低下させる最大原因で飲料に含まれるカリウムの摂取も要注意

福岡県久山町で行われた健康調査の結果。慢性腎臓病の患者さんは、健康な人より約3倍も心血管疾患になりやすいことが分かった

腎機能が低下すると、水分や塩分、老廃物が排泄されにくくなります。そのため、進行した慢性腎臓病の患者さんは水分の制限を行います。しかし、夏は暑さから体内の水分量が減りやすくなっています。脱水症状で血液の量が少なくなると、腎臓に送られる血液の量も少なくなります。脱水症状が長く続くと、腎臓の血流量も減って腎細胞がダメージを受け、慢性腎臓病が進行します。

慢性腎臓病を悪化させないためにも、水分不足による脱水症状は避けなくてはいけません。医師の指導を守りながら、脱水状態にならないように注意しましょう。1度に大量の水を飲むのではなく、少量の水をこまめに飲むのがコツです。

水分の質にも注意が必要です。健康な人ならスポーツドリンクなどで水分を補給しても問題ないのですが、慢性腎臓病の患者さんはそうはいきません。

まず、注意すべきなのは糖質です。近年、慢性腎臓病の最大の原因といわれているのが糖尿病です。人工透析を受ける患者さんの約4割は糖尿病が原因で、12万人に上ります。

糖尿病で高血糖の状態が慢性化すると、動脈硬化(血管の老化)が全身で起こるようになり、特に細い血管は比較的早期に機能が失われます。細い血管の塊ともいえる腎臓も、例外ではありません。

糖尿病が原因で起こる腎臓病を、糖尿病性腎症といいます。糖尿病性腎症の方は、腎臓病だけでなく糖尿病の管理も必要になります。腎臓病の食事はカロリーが不足しがちなため、カロリー摂取の手段として糖質の多い清涼飲料水を使うのは有効です。しかし、糖尿病性腎症の患者さんは、清涼飲料水の摂取で血糖値が上がってしまいます。インスリン治療に至っていない方でも高カロリーの飲食物を摂取するときにインスリン治療が必要なこともあるので、主治医とよく相談してください。

糖質に加え、カリウムの摂取にも注意が必要です。腎機能が低下している場合、カリウムを十分に排泄できなくなります。体に蓄積したカリウムは、不整脈などの原因となります。カリウムが多い野菜などは必ず細かくきざんで「ゆでこぼし」を行いましょう。カリウムは水溶性のため、煮たりゆでたりすると水に溶け出すので、量を減らすことができます。

カリウムは飲み物にも多く含まれるため、注意が必要です。特に玉露や抹茶などの緑茶はカリウムが多いので避け、代わりに麦茶や玄米茶を飲むようにしましょう。おすすめはルイボスティーで、活性酸素(酸化作用の強い酸素)の害を防ぐ抗酸化作用の高い飲み物です。少量のカリウムが含まれていますが、制限量の範囲内で取り入れれば、健康にいい影響を与えてくれるはずです。

一方、水分補給のために果物を食べるのは厳禁です。栄養価が高い果物は健康にいいイメージがありますが、カリウムが多く含まれているものもあるので、進行した慢性腎臓病の患者さんは必ず避けるようにしてください。

腎機能は腸内環境が悪化すると低下し治療薬の球形吸着炭の他、キノコや甘酒が有効

トリプトファンが腸内の悪玉菌によって分解されるとインドールに変化し、インドールは肝臓でインドキシル硫酸に変化する。インドキシル硫酸は腎臓で炎症を引き起こし、腎機能を低下させる。球形吸着炭はインドールを吸着し、排泄する働きがある

体内の尿毒素を排泄している腎臓と同じように、体内の不要物を排泄する働きを担っているのが腸です。近年の研究によって、腸内環境と腎機能が密接に関係していることが明らかになってきました。

人間の腸内には数100兆個もの細菌がすみついているといわれています。腸内細菌は善玉菌、悪玉菌、そして両者の強いほうに味方をする日和見菌の3種類に分けることができ、腸内では常に主導権争いをしています。

善玉菌が優勢であれば、腸内環境は良好に保たれます。しかし、偏った食生活や便秘などが原因で悪玉菌が優勢になると、体に悪影響を及ぼす物質が作り出されます。問題なのは、悪玉菌によって作り出される有害物質が、腎臓にも悪影響を及ぼすことです。

有害物質の1つに、インドキシル硫酸があります。食べ物に含まれるたんぱく質は、腸管内で分解されてアミノ酸になります。腸内環境が悪化して優勢になった悪玉菌が必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)の1つであるトリプトファンを分解すると、インドールという有害物質が作られます。腸で吸収されたインドールは血液によって肝臓に届けられ、代謝されてインドキシル硫酸に変化し、血流に乗って腎臓にたどり着きます。

健康な腎臓であれば、インドキシル硫酸を問題なく排泄することができます。しかし、腎機能が低下していると、排泄できなかったインドキシル硫酸が腎臓に蓄積していき、活性酸素や炎症物質を作り出して腎臓を傷つけ、腎機能をさらに低下させてしまうのです。

腸内環境と腎臓の密接な関係は、医学的に「腸腎連関」と呼ばれています。腸内環境を良好に保つことが、すなわち腎機能を守ることにつながるのです。

腸腎連関の考え方から生まれた治療薬が球形吸着炭です。球形吸着炭の原料の炭は腸内の有害物質を吸着し、便といっしょに排泄する働きがあります。一方で、球形吸着炭には便秘や腹部膨満感といった副作用が起こることもあるので、異変を感じたらすぐに担当医に相談するようにしてください。

球形吸着炭は、ある程度慢性腎臓病が進行した患者さんにしか処方されません。球形吸着炭が処方されるまでは、食生活で腸内環境を整えることが大切です。

腸内環境を改善するために摂取してほしいのが、食物繊維です。食物繊維を多く含む食べ物として野菜や果物、海藻類が挙げられますが、どの食品もカリウムを多く含んでいます。そこで、私がおすすめするのがキノコ類です。食物繊維を豊富に含むうえ、カリウムが少ないものもあります。ナメコやマッシュルーム、シイタケ、干しシイタケはカリウムの含有量が少ないため、意識してとりたいものです。海藻類でも、モズクやノリのつくだ煮、トコロテン、寒天はカリウムの量が少なくなっています。

さらに、発酵食品をとることも腸内環境の改善には非常に有効です。善玉菌のエサとなり、腸内環境を良好な状態に導いてくれます。納豆やみそを食事に取り入れるとよいでしょう。甘酒は「飲む点滴」ともいわれ、栄養バランスも優れています。腸内環境の改善だけでなく、効率的に栄養補給ができるのでおすすめです。

ただし、納豆・みそ・甘酒はどれもある程度カリウムを含んでいます。必ず制限の範囲内で活用し、とりすぎには注意してください。

30分間の入浴で体を芯から温めれば全身の血流が改善し腎機能にも好影響

川嶋式・腎機能を維持する入浴体操

血管の塊といえる腎臓は、血流の影響を受けやすい臓器です。血流の悪化は、腎機能に大きな悪影響を与えます。私は、体を温めることが腎機能を保つために有効だと考えています。

血流を手軽に改善する方法として、最もおすすめなのが入浴です。就寝前に38〜39度Cの湯ぶねに30分ほど漬かるようにしましょう。体が芯から温まり、腎臓に流れ込む血流量の増加が期待できます。

入浴のさい、心臓に問題がない場合は半身浴ではなく、全身浴をするようにしてください。心疾患を患っている方は心臓に水圧の負担をかけないため、半身浴がすすめられています。心臓に問題がなければ、全身が温まる全身浴のほうがより大きな健康効果が期待できます。

脱水症状を防ぐために飲み物を必ず浴室に持ち込んで、こまめに水分補給をしてください。防水仕様のテレビやラジオ、本など、リラックスして時間を過ごせるものを持ち込んでもいいでしょう。

入浴中に簡単な体操を行うと、血流がより促進します。例えば、浴槽の内側を手や足で押すだけでも筋肉に刺激を与えることができ、血流もよくなります。無理をする必要はなく、6~10秒程度、手足で押すだけで筋力向上が期待できます。湯ぶねに漬かっている間、疲れない程度に暇つぶしの感覚で楽しみながらやってください。

具体的にどうすればいいか分からないという方のために、いくつか例をご紹介します(川嶋式・腎機能を維持する入浴体操の図参照)。筋肉に軽く負荷をかければいいので、取り組みやすいものを試してみましょう。

ふだんより血圧が高いときや、むくみがひどいときなど、体調が悪いときは入浴を避けてください。心疾患を患っている方は、必ず主治医と相談してから取り組むようにしましょう。

気温が高い日々が続いているので、熱中症を避けるためにエアコンは不可欠です。ただ、エアコンで体が冷え過ぎると体調をくずす恐れがあるので注意してください。

エアコンを効かせた室内では、湯たんぽが役立ちます。腎臓の位置に直接当てる必要はなく、血流の多い太ももやおなかなどに湯たんぽを当てます。全身の血流がよくなり、腎臓にも十分な血液が行き渡るはずです。