帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
寒さが徐々に気になる季節となりました。寒くなるとトイレに行く回数が増えてきます。「排尿障害」とは、膀胱に尿をためて体外に排出するまでの過程に異常が起こる症状です。具体的には、尿を適切にためることができない、あるいは、尿をうまく出すことができない状況を指します。
排尿障害の代表的な症状として、頻尿、尿失禁、残尿感が挙げられます。中でも最も多く見られるのが頻尿です。頻尿の中でも特に多いのが、日本人(40歳以上)のうち、約4500万人が該当するといわれる夜間頻尿です。尿失禁は特に女性に多く見られる症状で、40歳以上の女性の4割以上が経験するといわれています。
排尿障害が起こる原因として、さまざまな病気との関係が疑われますが、そのほとんどは命に関わるものではありません。しかしながら、排尿に関する症状は日常生活で大きな負担となり、QOL(生活の質)の著しい低下を招いてしまいます。
【排尿障害の主な症状】
①朝起きてから就寝するまで8回以上の排尿がある(昼間頻尿)
②就寝中、排尿のために1回以上起きる(夜間頻尿)
③抑えきれない強い尿意を感じる(尿意切迫感)
④尿意が強いため、我慢できずに尿が漏れてしまう(切迫性尿失禁)
⑤重い物などを持ち上げたときや、セキやくしゃみをしたときに尿が漏れる(腹圧性尿失禁)
⑥尿に勢いがない、尿がとぎれる
⑦排尿しても尿が残っている感じがする(残尿感)
⑧自分の意思とは関係なく、排尿直後に尿が漏れる(排尿後尿滴下)
【排尿障害に対する運動療法】
排尿障害を治す方法として、体操によって骨盤底筋を鍛える「骨盤底筋体操」があります。簡単に流れをご紹介しましょう。
①あおむけになり、両足を肩幅程度に開いて、両ひざを軽く立てる
②尿道・肛門・膣をキュッと締めたり緩めたりすることを2~3回繰り返す
③次にゆっくりとキュッと締めて3秒間静止。その後、ゆっくりと緩めていく。以上を2~3回繰り返し、その後は締める時間を少しずつ延ばす
このように、骨盤底筋に刺激を与えることで、排尿障害を克服できることがあります。
そこで今月は、排尿障害に効果のあるツボを二つご紹介します。「太渓」は、内果(うちくるぶし)とアキレス腱の間の「くぼみ」にあり、動脈拍動部を目安に取るツボです。「太渓」のツボに親指を押し当て、円を描くように5秒間刺激します。以上を5回、計3セット行ってください。
押す力は、親指でツボ刺激をした際に、爪の色が白っぽくなる程度が適度な刺激です。また、市販されている円筒灸(筒状のお灸)を使ってツボの周囲が軽く発赤(ピンク色)する程度まで刺激するのも効果的です。
次に「腎兪」のツボをご紹介します。慢性的な腰痛に悩まされている患者さんは、必ずといっていいほど腎兪を押したときに圧痛を覚えます。その圧痛部分を親指全体(指腹)で押し当て、円を描くように5秒間刺激します。これを5回、計3セット行ってください。「太渓」と同じように、親指で爪の色が白っぽくなる程度に押すのが適度な刺激です。
また、シャワーを使って「腎兪」のツボに温水をかける方法もあります。温泉にある打たせ湯と同じ要領で、やや前屈姿勢を保ちながら、ツボを刺激して皮膚温を上げましょう。
そのほかの方法として、入浴後にドライヤーでツボを温めたり、カイロをツボに貼ったりするのも効果的です。刺激の目安は、皮膚が軽く発赤する程度です。カイロを使用する際は、低温やけどを防ぐために下着の上から貼りましょう。
● 由来
【太渓】五臓六腑の「腎」と関係のあるツボの中で、最も重要なツボ(原穴)とされます。「腎」のエネルギー(気)は、「太渓」で太く集まり、その先へ流れるということから、その名が付けられました。太渓の「渓」は、深い谷を意味しています
【腎兪】「腎」の気が巡り、体表に注ぐところという意味から名づけられました
● 効能
【太渓】頻尿、歯痛、耳鳴り、めまい、不眠、月経不順、冷え症、腰背部痛など
【腎兪】頻尿、冷え症、耳鳴り、月経不順、腰痛など