帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
4月といえば、暖かい日ざしの中で桜が満開となる、最も春らしい季節です。また、入学や進学、就職など、新しい環境のもとで生活を始める方も多いことでしょう。 その一方で、新しい環境は慣れないことも多く、ストレスから「自律神経失調症」にかかる人も珍しくありません。対策を紹介する前に、自律神経失調症とはどのような症状であるのかを解説しましょう。
● 自律神経失調症とは?
自律神経失調症は、学校や会社、家庭における環境の変化などにより、自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスがくずれて、体や精神が乱れた状態の症状を指します。具体的な症状としては、疲労感・倦怠感・便秘・下痢・頭痛・顔のほてり・のどの違和感・動悸・しびれ・手のひらの発汗などが挙げられます。自律神経失調症の特徴として、一つの症状に留まらず、複数の症状が同時に現れることも珍しくありません。
● 自律神経失調症の治療方法
自律神経失調症に対しては、心と体の両面から治療することが必要です。主な治療内容を挙げてみましょう。
①規則正しい生活リズムの回復
自律神経失調症の原因となる自律神経の乱れには、睡眠不足(睡眠の乱れ)や生活リズムの乱れ、運動不足、食生活の乱れといった、さまざまな〝乱れ〟が関連しています。ゆっくりと休む時間を取り、規則正しい生活リズムの回復を図ることが、症状の改善に役立ちます。
②薬物療法
自律神経失調症の治療薬として、睡眠導入剤や抗うつ薬、抗不安薬などがあります。症状に応じて適切な治療薬を処方してもらうことで、日常生活の回復に役立ちます。
③カウンセリング
臨床心理士によるカウンセリングも、自律神経失調症に対する有効手段の一つです。自分の悩みを聞いてもらうことは、心身の安定につながりやすいからです。
自律神経失調症は判断が難しいものですが、あなたの心身に乱れが生じていないかどうか、チェックシートで調べてみましょう。3項目以上にチェックをつけた人は、自律神経失調症の疑いがあるので要注意です。
今回は、自律神経失調症に効果のあるツボを二つ紹介します。「内関」は、精神的な不安がある場合に効果のあるツボです。2つの大きな腱の間を反対側の親指で5秒間を5回、計3セット行ってください。押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。また、「円皮鍼」(絆創膏のついた貼り付けるタイプの鍼)を内関のツボに貼ると、30分もたたないうちに気分が落ち着き、リラックスした状態を保つことができます。
「三陰交」のツボは、自律神経を安定させる効果があるとともに、逆子の胎位矯正に効果のあるツボとしても有名です。妊娠32~35週で、87.5%の矯正率があったという報告もあります。棒状の灸(棒灸)で1日1回、三陰交の周囲を温める(発赤する程度)ことで子宮動脈の循環がよくなり、逆子が改善されたと多数の論文から報告されています。ほかにも三陰交は、婦人科系の疾患全般に効果があるといわれています。
自律神経失調症の対策には、三陰交のツボを親指で5秒間、5回、計3セット行ってください。押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。また、冷え症の人も棒灸で三陰交を温めることで、冷え症の改善につながります。
● 由来
【内関】「内」は内臓、「関」は出入りの関所を意味し、主に内臓を調整する働きがあります。特に、右の内関は内臓の血流の流れをよくするといわれ、左の内関は心臓の機能を調整するといわれています
【三陰交】三は数字の3、陰は宇宙の2大元気の1つ、交は交わる(交叉)を意味しています。三陰は太陰・少陰・厥陰という3つの陰経(太陰脾経・少陰腎経・厥陰肝経)が交わるところから命名されました
● 効能
【内関】自律神経失調症、妊娠悪阻(つわり)、乗り物酔い、二日酔い、めまい、動悸、胃の不快感、不眠など
【三陰交】自律神経失調症、冷え症、生理痛、生理不順、胎位矯正(逆子)、足のむくみ、下痢、便秘など