帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
便秘症とは、出るべき便が十分に出ない、あるいは快適に出ないことで腹痛や便の出にくさを感じる(排便困難)、便が出し切れない(残便感)といった、かんばしくない排便状況が長く続いている現象をいいます。
日本消化器病学会のガイドライン(2017年)では、便秘症を「本来体外に排出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義しています。また、「慢性便秘症」は、6ヵ月以上前から便秘が生じて、少なくとも直近で3ヵ月間続いていると該当します。
便秘症を年齢別に見た場合、20~70歳代前半までは女性に多く見られますが、70歳代後半からは男女差がなくなる傾向になります。便秘症の原因は、精神的要素から起こる「一過性便秘」と、消化管自体には異常が認められないものの、動く能力に異常がある「機能性便秘」、消化管の形になんらかの異常が見られる「器質性便秘」に分類されます。
①一過性便秘
旅行や引っ越し、進学や就職など、生活環境の急激な変化によって起こりやすい便秘です。一過性便秘は、環境の変化などによって起こったストレスが解消されると自然に治まります。
②機能性便秘
腹筋の筋力低下や加齢による排便能力の低下など、腸の機能低下が原因で起こる便秘です。機能性便秘は、最も多く見られるタイプの便秘症で、腹部膨満感や倦怠感などの症状が現れます。
③器質性便秘
急性の場合は、腸捻転や腸閉塞などの原因が考えられます。器質性便秘は、激しい腹痛や嘔吐を伴うことが多く、これらの症状が現れた場合は至急に専門病院を受診する必要があります。慢性の場合は、大腸がんや大腸ポリープなどの原因によって腸管が細くなり、結果として便通が妨げられて便秘になるタイプです。
そのほか、女性の場合は、子宮筋腫で病巣が大きくなり、腸管が圧迫されて便秘を引き起こすケースもあります。生活習慣を改めても便秘が改善しない場合は、専門医の検査を受けるようにしてください。
便秘症の改善に有効なストレッチ体操やマッサージ、食事法をご紹介します。
● 足上げ体操
あおむけに寝て、両手を体のわきに置きます。ひざを伸ばしたまま、床から足を30㌢程度持ち上げて、5~10秒間その姿勢を保ちます。以上を3~5回繰り返します。
● 爪先を見る体操
あおむけに寝て、両手を頭の後ろで組みます。爪先をのぞき込むように、体を少し起こします。この時、首だけが動かないように注意して、5~10回程度行ってください。
● おなか全体のマッサージ
おなかの上に両手を重ねて、時計回りに円を描くように刺激します。強く押さず、手のひら全体でおなかをなでてください。10~20回程度行って、腹部全体が温かく感じられたら終了です。
● 食事法
腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整えることが、便秘予防につながります。酪酸菌や乳酸菌など、善玉菌そのものを含む食品や、食物繊維を多く含む食材を積極的に摂取しましょう。バナナやキウイフルーツなどの果物が入ったヨーグルトや、ニンジンやダイコンなどの野菜を使ったみそ汁は、善玉菌と食物繊維を同時に摂取できる優れた便秘改善食といえます。
便秘症に効果のあるツボをご紹介しましょう。
最初のツボは「神門」です。手関節部分の横紋(横すじ)小指側にあり、骨と筋の間にあるくぼみに取ります。反対側の親指全体を使って円を描くように押し込みます。5秒間5回を1セットとし、計3セット行いましょう。押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。
次に「天枢」のツボです。へそから指幅3本分(人さし指・中指・薬指)外側に取ります。左右に一つずつある天枢のツボを刺激する際は、3本の指をそろえて左右同時に押し込んでください。5秒間5回を1セットとし、計3セット行いましょう。
天枢のツボを押す力は、おなかが軽くへこむ程度です。また、ツボ周囲を棒灸(スティック状のお灸)で温めるのも効果的です。周囲が軽く発赤する程度が適度な刺激です。
● 由来
【神門】「神」は「心神を蔵す」「心は神明を主る」といった精神・思惟活動の「神」を指しています。「門」は神の出入り口を指します。神門のツボは、神が出入りする重要な門であることから名づけられました
【天枢】「天」は上部を指し、「枢」は枢軸、要の意味です。へその傍にあり、へそを境に天と地(上半身と下半身)の境目の要所という意味と、脾胃を整える重要なツボという意味から名づけられました
● 効能
【神門】便秘・自律神経失調症・動悸・息切れ・不眠・不安症・物忘れなど
【天枢】便秘・下痢・胃痛・慢性胃腸病・膀胱炎・糖尿病・生理痛・子宮内膜症・冷え症・浮腫(むくみ)など