医弘会かわしま内科クリニック院長 井上 真
寒い冬の季節は高血圧や運動不足、感染症になりやすく腎機能の悪化に要注意
腎臓の主な働きとして、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体外に排出する浄血機能が挙げられます。そのほかにも、体内のミネラルバランスや血圧の調整、血液を作るホルモンの分泌、骨の形成に関わるビタミンDの活性化など、さまざまな働きを担っています。
働き者の腎臓ですが、冬は腎臓に負荷がかかる季節なので注意が必要です。冬に腎機能が低下する最大の要因が、高血圧です。
血圧が上がると、腎臓は尿量を増やして体の水分を減らすことで血圧を下げようとします。しかし、高血圧の状態が慢性化すると、腎臓の中の血管にも動脈硬化(血管の老化)が起こり、徐々に腎機能が障害されます。腎機能の低下に伴って尿量が減ると、腎臓は「レニン」というホルモンを増やします。レニンは血液量を増やして血管を収縮することで血圧を上げるホルモンであるため、ますます血圧が上昇してしまうのです。
高血圧に伴う腎臓の障害を「腎硬化症」といいます。腎硬化症が進行すると、腎臓の機能が著しく低下した状態である「腎不全」を招きます。近年、腎硬化症が原因で腎不全になり、腎機能を代わりに補う人工透析が必要になる患者さんが増えています。
冬は、気温が下がって血管が収縮するため、血圧が上がりやすい季節です。鍋ものや麺類などを食べる機会が増え、塩分の過剰摂取から血圧が高くなりやすい時期でもあります。
また、寒い時期は外出することがおっくうになって家にこもりがちですが、運動不足も血圧増加の一因です。運動をせずにほかの季節と同じ量の食事をとっていると、当然体重が増えます。体重の増加は、血圧を上昇させるだけではなく、腎臓病の原因にもなります。体重の増加によって引き起こされる腎臓病は「肥満関連腎臓病」と呼ばれています。脂肪細胞からは「アンジオテンシノーゲン」という物質が産生・分泌され、アンジオテンシノーゲンが糸球体の過剰ろ過と糸球体の毛細血管にかかる血圧の上昇を引き起こして腎障害を招きやすくするのです。
冬は、インフルエンザなどの感染症にも注意が必要です。急性上気道炎(鼻やのどに起こる急性炎症の総称)などの感染症を起こすと、慢性糸球体腎炎が増悪することがあります。新型コロナウイルス感染症でも急性腎不全を起こし、人工透析が必要となる例が報告されています。
アルコールの過剰摂取による脱水や高尿酸血症も腎機能低下の原因となります。高血圧症や糖尿病を患っていたり、腎機能の低下を指摘されていたりする方は、飲酒の機会が増える年末年始は特に注意して、腎臓にとって過酷な季節といえる冬を乗り越えるようにしてください。