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背中をゆるめて体をらくに!ウォーキングコーチが伝授

著者インタビュー

犬飼 奈穂さん

中学生の頃から腰痛に悩まされていた

[いぬがい・なほ]——愛媛県松山市出身。「しんどい」を「楽しい」に変える歩き方コーチ。「ORO(オーロ)ウォーキングスタジオ」代表。「オーラをまとう歩き方レッスン」主宰。あらゆる動作の基本となる日常の姿勢と歩き方の大切さを痛感し、自身の経験に理学療法士から学び得た知識を加えて歩き方の独自メソッドを確立。「正しい歩き方」ではなく「心地よい歩き方」を探究し、余計な力を入れず、良いバランスで立ち、背中で歩くことを指導している。これまでに延べ6000人以上に指導し、肩こり・腰痛、猫背、坐骨神経痛など、体が抱える数々の悩みを改善に導いている。

「肩や首が重い、すぐに疲れる、体のあちこちが痛むといった不調は、知らず知らずのうちに背中が固くなっていることで引き起こされているんです」

そう話すのは、話題の本『背中をゆるめると健康になる』の著者であり、これまで6000人以上への指導経験を持つウォーキングコーチでもある犬飼奈穂さん。軽やかな足どりで颯爽と歩く姿が印象的な犬飼さんですが、実は中学生の頃から腰痛に悩まされていたといいます。

「部活でバレーボールをしていたのですが、時々、腰がひどく痛むことがありました。いつの間にか治るのですが、しばらくするとまた痛むということを繰り返していました」

犬飼さんは高校でもバレーボールを続けていたものの、体調が万全とはいえない状態だったそうです。

「腰痛に加え、肩まわりの突っ張りが気になるようになりました。そのせいで、ボールを打つ時に腕がうまく上がらなくなってしまったんです。腕が上がらないのは筋肉が少ないせいだと思い、ダンベルを使った筋トレをしたりしていたのですが、効果はほとんどみられませんでした」

愛媛県で生まれ育った犬飼さんは県内の大学を卒業後、地元の銀行に就職。結婚式などの司会業に転職し、ラジオ番組のパーソナリティを務めた経験もあります。自分の道を着実に切り拓いていた間も、腰痛には悩まされていたそうです。

「時々、腰が痛くて動けなくなってしまう時期がありました。30代前半で腰がひどく痛んだ時、一度、病院で診てもらおうと思い整形外科を受診したんです。レントゲン検査を受けた結果、股関節のかぶりが浅い臼蓋形成不全と診断されました。先生からは『犬飼さんの腰痛は股関節からくるものです』と説明を受けました。臼蓋形成不全は進行する病気で、将来的には人工股関節に置き換える手術を受ける可能性があるともいわれました」

犬飼さんは、股関節への負担を軽減するために筋トレなどの運動を持続して行うようにと指導を受けたそうです。しかし、医師の言葉を素直に受け入れられなかったといいます。

「臼蓋形成不全と診断される少し前まで、毎日のようにジムに通い半年で体重を10㎏落としたんです。これ以上、運動量を増やすのは難しいと思いました」

その後、犬飼さんは足の神経が圧迫されて痛みが生じるモートン病を患います。

「病院では、『モートン病は骨が歪むことで起きる病気なので、一生治りません』といわれました。私は偏平足だったこともあり、床に置いたタオルを足裏でたぐり寄せるようなトレーニングをするようにと指導を受けました。実際に自宅でそのトレーニングをしたりもしていたのですが、思ったほどの効果は感じられずにいました」

歩き方と姿勢を変えるうちに腰痛が気にならなくなった

犬養さんが考案したメソッドは簡単にできるものが多いと大評判!

ご自身のつらい症状を周囲の人たちに話すうちに、犬飼さんは知人から大阪のウォーキング教室のことを教えてもらったそうです。

「その教室のブログで受講生の方の声を読み、腰痛がらくになったり、体調がよくなった人がたくさんいることがわかったんです。私の体にもいい変化が生じるかもしれないと思い、2013年7月にその教室の先生のウォーキングレッスンを受講しました。『余計な力を入れずに、らくに立ち、らくに歩く』という姿勢と歩行の指導を受け、生まれて初めて体がゆるむ感覚を体感し、体が軽くなったんです」

教えられた姿勢と歩き方を意識して生活を送るうちに、犬飼さんの体には少しずつ変化が生じたといいます。

「つらかった腰痛がいつの間にか気にならなくなり、モートン病の症状も落ち着きました。また、私は長年、O脚に悩んでいたのですが、O脚も治りました」

こうした経験をきっかけに、犬飼さんはウォーキングインストラクターへの道へ進みました。

「講習を受けてウォーキングインストラクターとなり、多くの生徒さんに歩き方の指導をするようになりました。その過程で出会った理学療法士の先生から背中が固いことを指摘されて以来、背中をゆるめることに意識して取り組むようになったんです」

背中をゆるめることで、犬飼さんは新たな感覚を覚えるようになったといいます。

「背中を誰かがやさしく押してくれて、自然に足が前に出て歩いている。そんな感覚でらくに歩けるようになりました。この感覚を一人でも多くの人に伝えたいと思い、歩き方の指導に背中をゆるめるための方法を組み込むようになったんです」

なぜ、背中をゆるめることが体にいい影響を及ぼすのでしょうか。

「たとえば、ものをつかむ、パソコンやスマホを操作する、料理をする、歩くなど、多くの人は日常生活の中で体の前側の筋肉ばかりを使っていて、背中側の筋肉をほとんど動かせていないんです。その結果、背中の筋肉が固くなり、周囲の筋肉が不自然に引っ張られることで肩こりや腰痛などを誘発し、呼吸が浅くなります。また、筋肉が固くなると血流が滞り、体は元気を失ってしまいます。この状態を克服するために大切なのは、体の緊張をほぐして背中の筋肉をゆるめることなんです」

背中の筋肉をゆるめると体がらくになる

犬養さんは「心地よく歩くことの魅力を伝えていきたい」と話す

犬飼さんが確立した独自のメソッドによる背中の筋肉をゆるめる方法はいたって簡単で、10秒から20秒でできるものばかりです。

「片腕をまげて手のひらを上にしてから腕をまっすぐに下ろし、肩をあげて落とす動作を数回繰り返し、手のひらを前に向けたまま少しだけ後ろにずらして、外回しに小さく3回円を描きます。反対側の腕も同じように動かします。この小さな動きによって、“広背筋”と呼ばれる背中の筋肉がゆるむんです」

自分の背中が固いかどうかは、立ち姿勢で確認することができるそう。

「いつものように自然に立ち、首を軽く倒して足首が見えるかどうかチェックします。足首が見えないのは背中が固く不自然な姿勢のサイン。その場合はおへそにチョップして、足首が見えるところまで上半身を折り曲げてみてください。その姿勢が背中がゆるんだ本来の正しい姿勢です。家事や仕事の合間や、信号待ちの時間、スーパーでお会計を待っている間など、日常の中でこまめに背中をゆるめる動作を行っていると、体がだんだんらくになっていくはずです」

背中をゆるめることで犬飼さん自身はもちろん、指導を受けた生徒さんたちもいい効果を実感しているといいます。

「股関節が臼蓋形成不全と診断された私ですが、定期的に受けている経過観察では特に進行は見られず、整形外科の先生からは『マラソンでもなんでも、したいことをして大丈夫です』とおっしゃっていただいています。実際、この10年間でフルマラソンに3回、出場しました。また、腰痛や坐骨神経痛が改善した方や、股関節痛が改善した方など、生徒さんの中にはつらい症状に改善がみられた方が多くいらっしゃいます。中には、足腰がつらくて杖をついて来られたのに、レッスン後に調子がよくなり杖を忘れてお帰りになった方もいるほどです。

一人でも多くの方に背中をゆるめて心地よく歩くことの大切さを知ってもらい、健康な毎日を送っていただきたいと願っています」

取材・文 熊谷あづさ

犬飼奈穂さんの著書
『背中をゆるめると健康になる』プレジデント社 1540円