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排尿障害は水分過多と冷えによる“腎”の機能低下が原因

糖尿病・腎臓内科

中国江西省新余市第四医院医師、中国医学協会会長 今中 健二

正常な排尿や睡眠には腎の働きを高めるのが不可欠で水分摂取量の管理と血流改善が大切

[いまなか・けんじ]——1972年、兵庫県生まれ。中医師。徳島大学卒業後、中国江西省の贛南医学院に留学して中医師を目指す。同校卒業後は中国江西省新余市第四人民医院で臨床経験を積み、中医師免許を取得。帰国後は中医学の普及を目指し、神戸大学大学院非常勤講師を務め、神戸市看護大学での特別講義や中医学に基づいたがん治療の講演会を行うなど、全国各地で精力的に活躍中。著書に『「胃のむくみ」をとると健康になる』(サンマーク出版)がある。

中国の伝統医学である「中医学」では、私たち人間の内臓全体を指して「()(ぞう)(ろっ)()」といいます。特に、五臓とは「肝」「心」「()」「肺」「(じん)」の五つのことを表し、それぞれには役割分担があるものの、互いに密接に関係して協調・依存し合いながら体全体の機能を維持しています。

中医学の理論に基づいて施術を行う私のもとには、さまざまな体の不調に悩む方が毎日のように訪れます。中には、頻尿や残尿感といった排尿障害の悩みを抱える方も少なくありません。

中医学の見地によると、排尿障害は腎、脾、肺の3つの機能が正常に機能していないことによって起こります。西洋医学における腎臓の主要な働きの1つが排尿のコントロールであるように、中医学における腎も排尿をつかさどっています。そのため、腎の機能低下は排尿障害の最大の原因と考えられています。

私は日々の施術を通して、近年「腎が弱っている人」が増えていると実感しています。快適な環境で豊かな食生活を送っているにもかかわらず、私たちの腎が弱ってしまうのは「内臓のむくみ」が原因です。私が考える内臓のむくみは、「内臓脂肪」といい換えられ、中医学の観点から水の一種と捉えることができます。というのも、内臓脂肪は、体が冷えると固まってラードのような固体になりますが、体が温かいときは水のような液状になるからです。

それでは、内臓脂肪が腎の機能低下や排尿障害を引き起こす理由について説明しましょう。私たちの体は、(ぼう)(こう)の壁にある程度の圧力を感じると尿意をもよおし、膀胱にたまった尿を(はい)(せつ)するしくみになっています。内臓脂肪によって膀胱壁の外側から圧力がかかった場合、排尿に十分な量が膀胱にたまっていなければ、尿意をもよおしても尿そのものは出ません。ところが、膀胱壁が圧迫されていると頻繁に尿意をもよおすため、何度もトイレに駆け込まなければならなくなってしまうのです。

腎の機能低下が引き起こすのは、排尿障害だけではありません。排尿障害による過剰な水分が体の下のほうにたまっていくことで、水分によって冷えた下半身の血流は低下します。すると、本来下半身にあった熱が体の上へ上へと逃げていくため、上半身の血流は過剰になります。これが、更年期によく見られる「冷えのぼせ」といわれる状態です。冷えのぼせになると、睡眠中も頭部の血流が過剰になり、体温が高い状態が続きます。通常、睡眠中は頭や体を休めるために頭部の血流がゆっくりになります。ところが、冷えのぼせによって体温が下がらないことで、血流がよくなって睡眠障害が引き起こされてしまうのです。

排尿障害や睡眠障害を招く腎の機能低下を防ぐには、過剰な水分をためないことが大切です。何よりもまず、過剰な水分の摂取を控えましょう。のどの渇きを覚えたら、65~100㍉㍑くらいのごく少量の飲み物をこまめに飲むようにしてください。

今中医師による大学での講義やセミナーは、受講者から高い人気を博している

腎の機能回復にとって、冷えの解消は非常に有効です。夏場にクーラーをかけつづけると、冷たい空気が足元にたまって下半身が冷えすぎてしまいます。サーキュレーターや扇風機で室内の空気を循環させたり、こまめに換気をしたりしましょう。

血流をよくして冷えを解消するために、簡単な運動やストレッチをするのもおすすめです。中でも、壁に手をついた状態で10~20回ほどかかとを上げたり下げたりする運動を朝と夜に行うのが効果的です。また、床に座って片足を伸ばし、(つま)(さき)にタオルを引っかけてひざ裏や太ももを伸ばすストレッチも、血流促進効果があります。ストレッチは心地よいと感じる程度に体を伸ばせれば十分です。

私は食事による体質改善も重視しています。私の夏場の食事は、自宅の畑で()れた旬の夏野菜と豆腐が中心です。本来、コメは秋に収穫されるものなので、ご飯はほとんど食べません。

私たち人間には本来、季節の変化に応じて食事をとったり、体内の毒素の排出を行ったりする体のしくみが備わっています。ところが、一年中豊富な食べ物に恵まれ、快適な室温に調整できる環境で過ごしていると、排泄をつかさどる腎の正常な働きが妨げられてしまうのです。

水分摂取量の管理や適度な運動、旬の食材を使った食事によって体を自然な状態に戻し、代謝をよくすることで、過剰な水分をためこまない体質に変わるという好循環が生じます。弱った腎をいたわる生活を心がけ、排尿障害の改善と睡眠の質の向上を目指しましょう。