俳優 佐々木 蔵之介さん
舞台や映画、テレビドラマに多数出演し、圧倒的な演技力でファンを魅了しつづける俳優の佐々木蔵之介さん。主役から脇役まで数々の役柄を演じてきた佐々木さんですが、多忙な日々を乗り切る元気の秘訣は何でしょうか?トップ俳優の一人として第一線を走る佐々木さんに、バイタリティの源をお聞きしました。
勉強合宿の時に食べた高野山での精進料理が「豆腐好き」のルーツです
健康のために気をつけていることは、年に一度は人間ドックか健康診断の検査を受けるようにしていることぐらいですね。
これまで、とりたてて健康のために運動したり、節制を心がけたりしてこなかったという自覚は持っていましたが、50歳を過ぎた頃から、マネージャーや周囲から「そろそろ、ね?」と圧力をかけられ(笑)、結果として定期的に検査を受けはじめる良いきっかけになりました。幸い、これまでの54年間に大きな病気にかかったことはありませんが、ただ一つ、体のために気をつけてきたことといえば〝食事〟ですね。
もともと毎日必ず体重を計測する習慣があったわけではありません。たまに体重計に乗って予想以上に体重が増えていると、「うわ、ここまで来たか……」と慌てて、食事の量を調整するくらいでした。それが、内臓脂肪チェックつきの体重計を買ってからは、量だけではなく食事の内容も意識するようになりました。体脂肪率は特には問題ないですが、内臓脂肪が平均よりもちょっと高めに出てしまいまして……。「これはあんまり良くないことやろうな」と。なので、今はこの内臓脂肪の数値を下げるのを一つの目標に、食事の内容を考えています。数値が良くない時は、糖質を控えてたんぱく質を多くとる、といった感じですね。
一時やっていたのは、食事の前にラーメン鉢いっぱいのサラダを食べること。あるタレントさんが、食事制限の方法として「とりあえずサラダを三杯分食べてから、ご飯を食べる」といわれていました。たっぷりのサラダを食べている間にあごの筋肉が疲れてくるし、満腹感も得られるというわけです。「これならできそうだ」と早速まねしてみました。これはね、確かにあごがくたびれる(笑)。キャベツなんかは特に疲れます。食べすぎを防止する方法としておすすめです。
あとね、ぼくは豆腐とか鶏肉、納豆、もずくとか、いわゆる健康に良いといわれている食材がもともと大好きなんです。長期の地方公演の時は、豆腐、納豆、もずくを買い込んで、大きめの器にそれぞれ一パックずつ入れて、混ぜたものを晩ご飯として食べることもよくやっています。
豆腐が好きになったのは、高校生の時。僕が通っていた洛南高等学校のルーツが、弘法大師空海が創立した日本最初の私立学校(綜芸種智院)なので、生徒は高校二年生の夏に必ず、高野山へ学習合宿に行くんです。当時は一週間、宿坊に入れられて、ひたすら勉強する……。もうその間の楽しみといったら食事しかないわけです。朝・昼・晩と精進料理なんですけど、必ず豆腐がついていました。その時に、卵豆腐や絹ごし豆腐、ゴマ豆腐、高野豆腐など、さまざまな「豆腐」を食べて「あ、豆腐って、こんなにいろいろあって、みんなおいしいんや……」と感激して、それからずっと「豆腐好き」ですね。
お酒は毎日飲んでいます。晩酌は欠かせないですね。タバコはいっさい吸わないのですが、お酒は好きなんです。日によりますが、例えばスパークリングワインで始め、日本酒、ウイスキーといった流れで、ひと晩にだいたい三種類くらい飲みますね。といっても、量はそれほど飲むわけではないですよ。飲み会に参加して、その場の流れで二次会に行くことになると酒量も増えますが、最近はそういうのもすっかり減りました。
就寝時刻は、仕事の状況しだいで左右されています。ドラマの撮影が入っている時はめちゃくちゃになってしまいますが、舞台稽古や公演中だと、大枠のスケジュールが事前に決まっているので、割と規則正しく生活できています。舞台の場合、初日が開くと、朝の五時か六時には起きるようにしています。年に1~2回は舞台をやらせていただいていますが、舞台の稽古・公演中はエネルギーを大量に使うので、いつも以上に食事をしっかりとるようにしています。それでも、演技による燃焼が勝るのか、日ごとに痩せていき、いい感じに体全体が絞れてきます。
夜に公演した後は心身ともに興奮が冷めなくて、疲れているのになかなか寝つけません。そんな時は、深酒にならない程度にお酒を飲んでからベッドに入ります。食べすぎや飲みすぎの不摂生が原因で、体重や内臓脂肪の数字が乱れることもありますが、舞台公演は体調を整える良いきっかけになっていると感じています。
地方を訪れたら土地のものを食べるために心血を注ぎます
最近の悩みといえば、年を重ねるとともに、あまり眠れなくなってきたことですね。6時間以上続けて寝られたら、次の日は体がらくですけど、数時間おきに目が覚めてしまうんですよ。昨夜は5時間くらい寝られたから、コンディションとしてはまぁまぁです(笑)。
僕のストレス発散方法は、なんといっても「食べること」ですね。これは多少コンディションが良くなくてもできます(笑)。ロケや地方公演の場合、なるべく現地の飲食店で食事をするようにしているのですが、そのために、あらかじめグルメサイトのアプリを使って検索しておきます。こうした手間がなかなか楽しいんです。
特になかなか行けない地方だと「せっかく来たからその土地のものを食べたい!」という思いが高まります。そんな時は、朝食を食べながら、昼食のことを考えて、昼食を食べながら、夕食や次の日の朝食・昼食のことまで考えています。一週間くらいの長期ロケの場合は、「この店は水曜日定休だ」「あの店は17時開店だったな」といった具合に、調査ずみの基本情報をもとに、行きたい店すべてに滞りなく回れるように計画を立てるんです。パズルさながらに組み合わせていく作業が楽しいんですよ。以前、訪れた静岡県浜松市では、それはもうものすごいスケジュールで食べました(笑)。
これまで訪れたことがある土地の場合、「ここで食べたら絶対においしい!」という店が分かっていても、再び訪れるのを我慢して、なるべく初めての店に足を運ぶようにしています。「いつでも新しいものに触れる」ことを、何事においても心がけているからなんです。
『守銭奴』の主人公の並外れた〝ドケチ〟はチャーミングなんです
今、とても楽しみにしているのは、次に出演する舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』です。
演出家のシルヴィウ・プルカレーテさん(以下、プルさんと略す)とご一緒するのは前回の舞台『リチャード三世』以来なのですが、その時の稽古がとにかく楽しくって。「またぜひ次回!」とお話ししていたことが、今回の舞台につながりました。
プルさんの稽古は、ただ楽しいというだけではなく、いろんな発見や驚きに満ちていてすごく刺激的です。例えば、「ここは七人の役者が舞台で点在するのだろう」と、ごく普通に考えるような場面で、いきなりプルさんは、「役者は一列に並んで。この状態で演じてみて」と、想定外の演出を出してくる。役者としては、指示された瞬間は「え、どうしたらいいんだ⁉」と困惑するわけですが、「えーい、こんなふうにやってみよう!」というひらめきで演技に挑戦した結果、新しい表現に出合えることが何度もありました。
さらに縦にも横にも体格がいいプルさんは「暑いから帰る」と、稽古を短時間で切り上げることがよくあるのですが、そんな時は役者どうしが集まって、互いにその日のプルさんの演出指示を復習するんです。短時間で、しかも勢いのあるプルさんの演出のために、初めての稽古では演じ手として追いつけていなかったところも、演じ手自身が理解して腹に落としていくわけです。ただ、次の日にはその演出が180度変わっていることもあるのですが(笑)。それでも〝いわれたとおりにやってみる価値がある〟と思える貴重な稽古期間でした。
実は、前回の公演では、初日の1週間前になってもまだ半分も演出が完成していなかったんです。でも、不思議と焦りは感じませんでした。もちろん、「ちょっとどうなるんだ⁉」と不安に駆られそうな状況ではあったんですが、そんなことが少しも気にならないくらいに楽しい体験でした。
実際、舞台を見に来てくれたお客さんからは、「なんてぶっ飛んだ演出だ!」と、半ばあきれつつも驚きに満ちた感想をたくさんいただきました。まさに稽古で僕らが感じていた衝撃を、そのまま客席でも感じてもらえたのは、すごく楽しかったです。
稽古が始まるまでに台本を読んで、自分なりに膨らませていたイメージを、毎日やすやすと超えてくるプルさんの演出に、演劇人としての「創る楽しみ」を体験させてもらいました。そんなプルさんとの、刺激と興奮に満ちた日々を経験できることが何よりうれしいですね。
フランスの劇作家・モリエール原作の『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』では、主人公のアルパゴン役を演じます。ドケチで欲深くて、誰も幸せにしない……、とにかく嫌でダメなおやじです。それは、誰だって無駄なことにお金は使いたくないですよ。僕だってスーパーマーケットでは、必ず商品裏の食品表示から値札シール、割引シールを見てから買います。
でも、アルパゴンは倹約家とかケチという言葉では収まりきらない、〝ドケチ〟。自分の息子が好きだった人を嫁にしようとしたり、自分のウマにエサもあげずに「働け!」とののしったりする。そんなダメおやじの役を演じる僕ですが、アルパゴンに共感できる要素はゼロです。1㍉も、まったく共感できません(笑)。あまりに極端で、度が過ぎていますからね。
ただ共感はできなくても、演じる者として、彼なりの哲学を正面から愛して、アルパゴンを演じるつもりです。今回は、なんといっても喜劇(コメディ)ですから、「笑われればいいや」と思っています。役に「1㍉も共感できない」といいましたが、それは演じ手と役どころのギャップ、つまり演劇としての話です。これこそが、お客さんから見た演劇の面白さにつながるポイントでしょう。主人公の設定にリアリティがあるかと問われたら、それはないです。こんな度が過ぎたドケチな人、今のところ周囲にはいません。僕が演じるドケチぶりを見て「なんでそんな極端に考えられるの⁉」とあきれながらも、それが一周回って、ちょっとチャーミングに見えたらうれしいですね。
生身の役者による演技を楽しむ面白さが劇場にはあります
今回の話はドケチな当事者だったら笑えないし、むしろ悲劇。でも、舞台上も観客もこれが「演劇」だとお互い理解したうえで楽しむから、成り立つ面白さがある——舞台で生身の役者による演技を、想像力を働かせて楽しむ面白さが演劇にはあり、それこそが演劇の魅力だと思います。
わざわざ劇場に足を運んで舞台を見ることは、けっこうエネルギーを使いますよね。事前にチケットを予約して、受け取って……。そもそも劇場に行くまでだって案外しんどい。でも、舞台を見たら、ここまで足を運ぶのに使ったエネルギーが何倍にもなって返ってきます。今度の舞台は、普段はあまり見ることができない演出に驚かされるとともに、思わず笑いもこぼれる、とてもユニークな内容です。
「笑い」は病気の治癒や健康長寿にもいいっていうじゃないですか。厳しくてつらい場面に出くわしても、できたら笑って切り抜けたいと思っています。「きっついなぁ、これ」って笑いながら一歩ずつ仕事をこなしてきたからこそ、今があるのかもしれません。「よく笑う」ことが、ぼくの元気の秘訣になっていると思います。
生きていたら、いろいろなことがあります。いつでも笑っていられる、なんてことは難しいこと。でも、喜劇を見て思い切り笑ってもらえる瞬間をお客さんに体験してもらえたら、それこそ役者冥利に尽きますね。