プレゼント

1日10分で背骨を支える筋力強化!脊柱管狭窄症の痛みが和らぐ[寝ながらストレッチ]

整形外科

田辺整形外科医院理事長 田辺 秀樹

寝たきりを引き起こす脊柱管狭窄症は運動療法を3ヵ月継続すると症状が改善

[たなべ・ひでき]——1979年、埼玉医科大学医学部卒業。1990年、田辺整形外科医院開院。ていねいで分かりやすく患者さんに説明することで評判。リハビリをはじめ、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)対策に注力している。日本専門機関整形外科専門医、日本臨床整形外科学会顧問。

私は、東京都板橋(いたばし)区の成増(なります)の地で約30年にわたって地域に根差した治療を行っています。2020年には成増駅の近くに診療所を移転して設備をさらに充実させ、多くの患者さんにより良い医療を提供できるようになりました。

近年、高齢化が進み、寝たきりになる患者さんが増えているように感じています。寝たきりの患者さんが増えている要因が、ロコモティブシンドローム(運動器症候群。以下、ロコモと略す)です。

ロコモは、骨や関節、軟骨、椎間板(ついかんばん)、筋肉などの運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こって、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態のことです。ロコモの原因は複数あり、その一つが「腰部脊(ようぶせき)(ちゅう)(かん)(きょう)(さく)(しょう)(以下、脊柱管狭窄症と略す)」です。進行すると、介護が必要になるリスクが高まります。

脊柱管狭窄症は、背骨の脊柱管が狭くなって中を通る神経を圧迫し、足腰に痛みやしびれが起こる病気です。代表的な症状は、間欠性跛行(かんけつせいはこう)です。間欠性跛行は、歩いていると足に痛みやしびれが出て歩けなくなり、しばらく休んだり前かがみの姿勢になったりすると再び歩けるようになるのが特徴です。長い時間立っていたり、腰を反らすと痛みが出たりするようであれば、脊柱管狭窄症の可能性が高いでしょう。

排尿障害などが起こっている脊柱管狭窄症の患者さんの場合には、外科手術をすすめますが、基本的には手術をしない保存療法が第一選択肢です。私は薬を使った治療だけではなく、患者さんには積極的に運動をするように指導しています。痛みやしびれがある患者さんには薬を処方し、運動ができる状態になってから運動療法に取り組んでもらっています。

背骨は椎骨(ついこつ)が積み木のように重ねられ、体の軸となっています。背骨を支えているのが、腹筋や背筋などの筋肉や(ちょう)腰筋(ようきん)などのインナーマッスル(体の深層部にある筋肉)です。加齢によって骨に異常が起こるのは避けられないことですが、筋肉は年齢を重ねても鍛えることができます。

私の指導したとおりに運動療法を行った患者さんの多くは、2~3ヵ月で脊柱管狭窄症の痛みやしびれが改善しています。薬などの処方に加え、筋力強化によって背骨が安定したためと考えられます。

筋力強化のために運動する時、問題になるのが長期にわたって継続できるかどうかです。当院で5ヵ月間の運動療法を含むリハビリを終えた患者さんを対象にして3ヵ月後にアンケートを取ったところ、半数以上の患者さんが運動を継続していないと回答していました。さらに、痛みやしびれはリハビリをする前の状態に戻っていることも分かったのです。運動を習慣化できなかった患者さんは痛みがぶり返し、再び通院するようになりました。

脊柱管狭窄症の痛みやしびれを撃退するためには、継続的に運動することで筋力を強化し、加齢によって劣化した背骨を支える必要があります。しかし、運動は習慣化しないと意味がありません。

一方で、脊柱管狭窄症の患者さんは間欠性跛行が生じるため、長時間歩くことができません。ウォーキングは有効な運動療法ではありますが、脊柱管狭窄症の患者さんにはハードルが高く、継続が困難です。そこで私は、横になって簡単にできる〝寝ながらストレッチ〟を患者さんに紹介しています。

痛みが生じない寝ながらストレッチは最初は1日10秒でも継続することが大切

寝ながらストレッチは、専門的には(とう)(しゃく)運動といい、関節を動かさない運動です。腰に負担をかけず、腹筋と背筋の筋力を強化することができます。腹筋と背筋の筋力が向上すると腰が安定するようになり、痛みやしびれが緩和します。上のイラストを参考に、朝・晩に5回ずつ行うようにしましょう。患者さんには1日に合計10分ほど行うように指導していますが、初めは1日10秒でも構いませんので、ぜひ実践してください。

寝ながらストレッチを行ううえで注意していただきたいのが、腰に負担がかからないようにすることです。少しでも痛みが生じるのであれば、無理をして行わないでください。最も大切なのは、毎日継続することです。

加齢とともに筋力は低下していきます。日頃から体を動かしていないとさらに筋力が低下してしまい、運動がおっくうになります。運動しないと筋力がさらに低下するという悪循環が形成され、最終的には寝たきりになってしまうおそれがあります。脊柱管狭窄症の患者さんは、積極的に運動するように心がけてください。

インナーマッスルを鍛えるには、バランスボールを使った運動のほか、股関節(こかんせつ)周りのストレッチ、腰への負担が少ない水中運動もおすすめです。また、食事も重要です。私は、脊柱管狭窄症の患者さんに、筋肉の材料となるたんぱく質や骨を強化するカルシウムを多くとるように栄養指導をしています。日本人に不足しているカルシウムは積極的にとるようにしましょう。