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閉塞性動脈硬化症は糖尿病・腎臓病患者に多発し1日30分のウォーキングでしびれ軽快

糖尿病・腎臓内科
横浜総合病院創傷ケアセンター長/心臓血管外科部長 東田 隆治

腎臓病は血管を石灰化させて血流が悪化し足の切断の可能性を高める

動脈硬化を防ぐ「足湯」のやり方

閉塞性動脈硬化症を引き起こす主な原因は、加齢・喫煙・糖尿病・高血圧・脂質異常症(高コレステロール血症)です。喫煙の習慣がある人は、健康な人に比べて約3倍も閉塞性動脈硬化症になりやすいことがわかっています。高血圧は約2倍、脂質異常症は約2・2倍、糖尿病は約3・8倍も閉塞性動脈硬化症になる可能性が高まります。

さまざまな要因の中でも特に注意すべきは、全身の血管に動脈硬化(血管の老化)を引き起こす糖尿病です。実際に、私が診療する横浜総合病院の創傷ケアセンターを訪れる閉塞性動脈硬化症や壊疽の患者さんのほとんどが、糖尿病を患っています。糖尿病は閉塞性動脈硬化症のほか、複数の合併症を引き起こします。細い血管から影響を受けやすく、神経障害、網膜症、腎症は、糖尿病の3大合併症と呼ばれています。

糖尿病性腎症は、糖尿病が進行して腎臓の機能が低下して起こる合併症です。腎臓は血液中の老廃物や余分な塩分、水分などを尿にして排泄する働きをしています。

糖尿病になって高血糖や高血圧の状態が長期間続くと動脈硬化が起こり、腎機能が低下します。さらに腎臓は、体内のカルシウムを管理する働きの一部を担っています。高血糖の状態が長期間続いて腎機能が低下すると、血液中のカルシウム濃度をコントロールすることが困難になり、カルシウムが血管の細胞に沈着して石灰化(硬化)します。

石灰化した血管は血流をさらに悪化させ、閉塞性動脈硬化症を合併すると症状はさらに進行します。足の壊疽や潰瘍はいっそう治りにくくなり、最悪の場合は足の切断にまで至ります。長年の診療経験から、人工透析を受けている患者さんが壊疽になると、足の切断に至る可能性が高いことは明らかです。

糖尿病・腎臓病を患っている人や動脈硬化を指摘されている人は、早期に治療を受けて閉塞性動脈硬化症にならないよう注意してください。閉塞性動脈硬化症を回避するには、喫煙などの生活習慣を見直し、脂質異常症や高血圧を改善することも重要です。

閉塞性動脈硬化症を改善し進行を抑えるには、足の血流改善が不可欠です。私が診療する創傷ケアセンターでは、初期の閉塞性動脈硬化症の患者さんに、運動療法としてウォーキングをすすめています。

過去に行われた研究によると、ウォーキングを週に3回以上、1回につき30分以上行うと、閉塞性動脈硬化症の改善に有効であると報告されています。ウォーキング中に多少の痛みやしびれを感じても、我慢して続けたほうが効果的です。閉塞性動脈硬化症が原因の間欠性跛行も、運動療法によって改善することが知られています。

足の切断の回避にはケガの予防が肝心でアキレス腱ストレッチと20分の足湯が有効

「アキレス腱ストレッチ」のやり方

ウォーキングなどの運動療法は、可能であれば運動療法士などの指導を受けながら行ってください。ウォーキングをするさいは、足に傷を作らないよう注意しましょう。閉塞性動脈硬化症の患者さんは、栄養が末端まで届きにくく、足に傷ができると治りにくいからです。さらに、糖尿病や腎臓病を合併している人は免疫機能が低下しているため、傷から侵入した細菌が繁殖して膿みやすくなっているので、壊疽や潰瘍が起こりやすくなります。

足に強い負荷をかけつづけるのも問題です。ヒールなど足に負担をかける靴や、自分の足の大きさに合っていない靴をはいていると、足が変形してしまいます。足の変形はタコや魚の目などの傷を生じ、壊疽を引き起こす原因になります。

ウォーキングのさいは、主治医と相談したうえ、自分の足の形に合った運動靴を用意しましょう。最初から30分を目標にするのではなく、少しずつ歩ける時間を延ばすようにしてください。

ウォーキング後は、自分の足を家族に見てもらったり、鏡に写したりして、赤みや傷がないか細かく確認しましょう。足の筋肉や組織が衰えると、足首の関節が曲がりにくくなります。すると、歩行時に足先に負担がかかってつまずきやすくなったり、足先を引きずるようになったりします。体重が足裏全体に分散しなくなり、足先の裏などの特定部分にだけ圧力が集中するようになるのです。圧力が集中すると傷ができやすくなり、壊疽や潰瘍の原因になります。

足首の関節を柔軟にするには、「アキレス腱ストレッチ」が効果的です。1日1回程度行うと、足の変形やケガの回避につながります。足の傷を予防するため、室内では靴下を必ずはくようにしましょう。

足の血流をよくするには、入浴や足湯も大切です。毎日の入浴のほかに、バケツや洗面器に38~40度Cのお湯を入れて、1日に数回、1回あたり15~20分ほど足をお湯につけることがおすすめです。

閉塞性動脈硬化症の患者さんは、血流の悪化によって神経が障害され、温度に鈍感になっているおそれがあります。やけどを起こさないように、温度計などでお湯の温度を確認してください。足に傷のある人、潰瘍や壊疽のある人は、雑菌が傷に侵入するおそれがあります。足湯をする前に、ていねいに足の状態を確認しましょう。