酒田米菓株式会社 健康せんべい事業部 統括管理栄養士・公認スポーツ栄養士 馬淵 恵さん
庄内米で作られた硬さが均一のせんべいで噛む力をチェック
高齢者が発症しやすい疾患の一つに、口の中の細菌が唾液や食べ物と一緒に誤って気管に入り、気管支から肺に入ることで炎症を生じる「誤嚥性肺炎」があります。厚生労働省が発表した『2019年・人口動態統計』によると、日本人の死亡原因の第1位はがん（悪性新生物）、第2位は心疾患となっています。第5位が肺炎で、誤嚥性肺炎は第6位。2つを合わせると、死亡原因の第3位になるのです。さらにこの調査結果によると、
肺炎による死亡者の9割以上が65歳以上で、そのうち9割以上は誤嚥性肺炎が原因とされています。
誤嚥性肺炎を発症する際のキーワードとなるのが、噛む力と物を飲み込む機能の「嚥下」です。噛む力を維持できると、食べ物を細かくかみ砕けるだけでなく、口の中で唾液が出るため食べ物を食道に送りやすくなります。
ところが、加齢をはじめとする原因によって噛む力や飲み込む力が衰えると、食べ物や唾液が誤って気管に入りこんでしまい、誤嚥性肺炎を起こしやすくなってしまいます。
加齢などによって噛む力と飲み込む力が衰えていくことは、仕方のないことかもしれません。それでも、健康を維持するために現在の噛む力を知ることは、誤嚥性肺炎の対策を取る上で大切といえるでしょう。
統括管理栄養士・公認スポーツ栄養士
馬淵 恵さん
そのような背景の中、山形県の老舗食品メーカー・酒田米菓株式会社の「パタカせんべい」が話題を集めています。昭和26年に創業した酒田米菓株式会社は、米どころで知られる庄内平野の庄内米で作る米菓で知られる老舗企業。日本で初めて薄焼きせんべいを開発した先駆的企業としても知られ、名物の「オランダせんべい」はロングヒット商品となっています。老舗企業から「咀嚼力チェック」ができるという斬新なアイデアが生まれたきっかけについて、健康せんべい事業部の馬淵恵さんにお話を伺いました。
「多くの方は年齢を重ねるにつれて、どうしても硬い物を噛みにくくなってしまいます。それでも、おせんべいが好きなお客様に、いつまでもパリッとした食感を楽しんでいただける商品を作ろうとしたのが開発のきっかけです」
先に触れたように、酒田米菓は日本で初めて、パリッとした食感が心地いい“薄焼きせんべい”を作った企業として知られています。噛む力が弱くなった高齢者でも、パリッとした食感を楽しめるせんべい作りの過程で、咀嚼力をテストするアイデアが生まれたといいます。
「もともとは、市販のおせんべいを咀嚼力のテストに使用していた歯科医の先生にお話を伺ったんです。しかし、ご高齢の方の中には持病や生活習慣病の予防目的で塩分制限をしている方もいらっしゃるため、市販のおせんべいでは塩味が強く、あまりテストに適していなかったそうです。先生からおせんべいを開発するご相談をいただいたときに、咀嚼力判定テストの機能も付けてみようと考えました」
馬淵さんによると、新しいせんべいは判定機能を持たせるために、一枚一枚を同じ大きさで作った後、独自の技術で焼き上げて均一の硬さに仕上げているとのこと。同一の条件で作られるせんべいだからこそ、噛む力の変化を調べることができるのです。
「弊社が開発したせんべいは『パタカせんべい』といいます。パリッと割れて、タ（食）べておいしく、カラダに優しいという想いを込めています」
30回噛んだ後に飲み込めれば咀嚼力は正常と判断
実際に、パタカせんべいを食べて、どのように咀嚼力を判定するのでしょうか。馬淵さんはこのように話します。
「判定の基準については、歯科医師で歯学博士の五島朋幸先生のアドバイスをもとに設定しました。パタカせんべい1枚を口に入れて、30回噛んだ後に飲み込めなかったら、咀嚼力が低下していると考えています。パタカせんべいは、30回以上噛んで飲み込めない場合でも、口の中でほぐれるように焼き上げています。噛めないから食べられないということはありませんので、ご安心ください」
庄内米と砂糖、塩だけから作られるパタカせんべいは、保存料や着色料が不使用と、高齢者の健康に配慮しています。また、噛む力が低下しているのは子どもたちも同様です。ハンバーグやカレー、スパゲティなど、子どもたちが好きな食べ物には柔らかいものが多いといわれます。日常的に硬い食べ物をとらなくなった結果、歯並びの乱れやあごの骨の未発達など、成長過程にあるべき発達が見られなくなることもあるといわれています。
「パタカせんべいは、咀嚼力判定テストの印象から、ご高齢の方向けのせんべいと思われがちですが、お子さまのおやつにもぴったりです。お米の甘みとほどよい塩味で、小さなお子さんから青少年の方まで多くのお客様がいらっしゃいます」
パリッとした心地いい食感を楽しみながら、咀嚼力をチェックできる、パタカせんべい。健康意識が高い人は、実際に30回噛んで飲み込めるかどうか試してみませんか？
