メニエール病の原因はヘルペスウイルスと判明し回転性のめまい・難聴・耳鳴りが特徴
ある日突然、自分や周囲のものがグルグル回るような回転性のめまいの発作に襲われた経験はありませんか。めまいが数十分~数時間も続く場合は、メニエール病のおそれがあります。回転性のめまいに加え、難聴・耳鳴り・耳閉塞感、吐きけを伴うこともあります。このような不快症状を伴うめまいは、かつて脳の異常によって起こると考えられてきました。しかし、1861年にフランスのプロスパー・メニエール医師が「鼓膜の奥にある内耳の病気」と発表して以来、メニエール病として知られるようになりました。
さらに、大阪大学の山川強四郎教授(当時)が1938年に「内耳にある小器官内にリンパ液がたまってできた水腫(水ぶくれ)が、めまいや耳鳴り、難聴を引き起こす」と報告。以後、多くの研究者がメニエール病の調査・研究に取り組むことになりました。しかし、内耳に水腫ができる原因は解明されませんでした。
メニエール病の研究が進んだのは2009年のことです。米国・マサチューセッツ州立大学医学部耳鼻咽喉科の主任教授などを歴任したリチャード・ガセク教授が、ほかの病気で亡くなった8人のメニエール病患者さんを解剖して調べた結果、一例で「内耳にある平衡感覚を担っている前庭神経節の細胞内に、ウイルス外殻を見つけた」と報告したのです。
前庭神経節にウイルスが潜在する可能性を指摘したガセク教授は、ヘルペスウイルスがメニエール病の原因になると推察。35例を治療した結果、91%でめまいが改善したのです。同教授は、2009年に続いて2014年にもメニエール病のヘルペスウイルス関与説に関する2本めの論文を発表。2本めの論文は主にメニエール病に伴う難聴に関する内容で、31人の症例を治療し、めまいに比べて難聴・耳鳴りに関しては有効率が落ちると報告しています。
私がメニエール病の患者さんに対して抗ウイルス薬を投与するきっかけになったのは、患者さんからの相談でした。前庭神経炎が疑われた患者さんでしたが、さまざまな治療を試みても改善しなかったため、ご本人が抗ウイルス薬の投与を希望されたのです。その結果、患者さんのめまいは改善。以来、メニエール病をはじめ、さまざまな治療を施してもめまいが改善しない患者さんに対し、「もう一つの選択肢」として治療に取り入れることにしたのです。
抗ウイルス薬の治療は高齢者にも有効で九割のめまいが改善し突発性難聴も治まった
抗ウイルス薬の投与によって症状が改善した患者さんの例をご紹介しましょう。
● メニエール病に伴う回転性のめまいが翌日に解消したAさん(41歳・女性)
メニエール病による回転性のめまいに週に3日も悩まされていたというAさん。ほかの耳鼻科で抗めまい薬、ステロイドパルス(ステロイド薬を大量に点滴する治療法)による治療を受けたものの、いっこうに改善が見られなかったそうです。私のもとでも、さまざまな薬を投与しましたが、めまいは週1回に減っただけでした。
そこでAさんに、抗ウイルス薬を投与したところ、翌日からめまいが完全に消失。難聴はやや残っていますが、めまいがなくなったことにAさんはとても喜ばれていました。
● 3種類の抗ウイルス薬で耳鳴り・めまいが消失したBさん(50歳・男性)
Bさんは都内の大学病院でメニエール病と診断されました。標準的な治療薬の投与によっていったんは改善したものの、再び回転性のめまいや耳閉塞感、低音部の難聴が起こるようになってしまったそうです。
そこで私はBさんに、抗ウイルス薬による治療を開始。1種類めの抗ウイルス薬による治療では耳鳴りが改善し、2種類めの抗ウイルス薬では回転性のめまいが消失。ふわふわとしためまいが残っていたBさんに3種類めの抗ウイルス薬を投与したところ、2週間でめまいが消失。種類を変えて投与した抗ウイルス薬によって、耳鳴り・めまいの症状が改善したのです。
抗ウイルス薬を使って治療を行い結果が明らかな133人のうち、117人のめまいが改善し、有効率は88%にも上りました。改善した患者さんの中には82歳の男性や84歳の女性もいることから、高齢者にも有効な治療法といえます。
ときにはヘルペスウイルス薬が無効のこともありますが、標準治療とは異なる選択肢としての意味はあると思います。ただし、抗ウイルス薬を使った治療は保険適用ではないという点だけは注意してください。