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日本排尿機能学会で発表!座るだけで尿失禁が治まると話題!医療機器[スターフォーマー]の実力を専門医が解説

泌尿器科

かげやま医院院長 影山慎二

意図することなく尿がもれてしまう尿失禁は人間の尊厳に関わる大切な問題

[かげやま・しんじ]——1987年、新潟大学医学部卒業。浜松医科大学泌尿器科入局後、同大学医学部附属病院、藤枝市立志太総合病院(現・藤枝市立総合病院)、新風会丸山病院などに勤務。2000年、浜松医科大学泌尿器科講師。2003年、しお医院副院長。2006年、しお医院を継承して院長に就任。2011年、しお医院をかげやま医院と改称。日本泌尿器科学会、日本排尿機能学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、国際禁制学会(ICS)、米国泌尿器科学会(AUA)に所属。

私が院長を務めるかげやま医院は、改称前を含めると静岡市内で最も歴史がある泌尿器(ひにょうき)科です。院内には泌尿器科をはじめ、循環器科・性病科・血液透析(とうせき)といった4つの専門科があります。今回の記事では、多くの患者さんが悩む「頻尿・尿もれ(尿失禁)」に対する効果が注目されている画期的な医療機器をご紹介したいと思います。

頻尿の患者さんは、睡眠不足や精神的なストレスなど、生活の質が低下しやすくなります。また、頻尿に悩まされる人の中には「尿もれ」を起こすこともあります。医学的には「尿失禁」と呼ぶ尿もれは、意図することなく尿がもれてしまう症状です。高齢者が集まってグループ旅行に行った際に、親しい仲間の前で起こした尿失禁がきっかけとなって外出しなくなったという例は少なくありません。頻尿や尿失禁は命に関わる症状ではないものの、人間の尊厳に関わる深刻な悩みといえます。

尿失禁を引き起こす主な原因は、以下のとおりです。

腹圧性尿失禁

セキやくしゃみをしたり、重い物を持ち上げたりするなど、腹部に力が入った時に尿がもれてしまう症状です。腹圧性尿失禁は、女性が起こす尿失禁の中で最も多いとされています。

腹圧性尿失禁が女性、特に高齢者に多く起こるのは、「骨盤底筋(こつばんていきん)」の衰えと深い関係があります。いくつもの筋肉が集まる骨盤底筋は、膀胱(ぼうこう)や尿道、肛門(こうもん)といった排尿・排泄(はいせつ)と密接に関わる器官をハンモックのように支えている筋肉群です。加齢に伴って骨盤底筋が衰えると、骨盤底筋の一部で排尿の主役となる尿道括約筋(かつやくきん)に影響を及ぼします。特に女性は、出産や閉経による女性ホルモンの減少に伴って骨盤底筋の筋力が低下しやすくなります。

前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)・前立腺がん

腹圧性尿失禁が女性に起こりやすいのに対し、男性の尿失禁の原因となるのが前立腺の疾患です。男性の尿道を取り囲むように存在する前立腺は、ホルモンの一つとされる前立腺液を分泌(ぶんぴつ)する役割があり、加齢に伴って肥大する傾向があります。肥大によって前立腺が尿道を圧迫したり、膀胱への刺激が増えたりすることで尿をためる働きが妨げられてしまうのです。

また、前立腺がんの手術を受けた人は、術後に尿失禁を起こしやすくなります。多くの場合、がんができる前立腺の部位が尿道括約筋と近い位置にあるため、手術によって尿をためる機能の低下を招きやすくなるからです。

過活動膀胱

膀胱内に尿が少量たまっただけで排尿筋が収縮し、非常に強い尿意をもよおす症状です。突然、我慢できないほどの尿意に襲われて尿失禁を起こしてしまうこともあります。過活動膀胱の原因は加齢以外にも多岐にわたります。脳血管障害やパーキンソン病、認知症といった脳神経疾患のほか、脊髄(せきずい)損傷や腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)など脊髄を通る神経の障害が原因で起こることもあります。そのほか、明らかな原因が見当たらない特発性の過活動膀胱もあります。

骨盤底筋体操は尿失禁対策に有効だが筋肉の位置を把握するまでの期間には個人差がある

腹圧性尿失禁は手術によって根治が見込めますが、患者さんによっては手術へのハードルが高く、理学療法を選択する場合が少なくありません。そこで多くの泌尿器科では、尿失禁を起こす原因となる骨盤底筋の強化を図るために「骨盤底筋体操」をすすめています。その名のとおり、骨盤底筋を強化することで尿道括約筋をはじめとする排尿に関わる筋肉をほぐし、筋肉量のアップと動きの改善を図る理学療法の一つです。

私も患者さんにすすめている骨盤底筋体操は、正しく適切に行えば高い効果が期待できるものの、継続できずに挫折(ざせつ)してしまう患者さんがいることは否定できません。また、足腰に痛みを抱えている高齢者にとっては、体操の姿勢を取ること自体が困難な場合もあります。

もう一つの問題は、骨盤底筋が体のどこにあるのか、体感として分かりにくい点です。骨盤底筋は体の奥にある、いわゆるインナーマッスルと呼ばれる筋肉です。「正しく筋肉群が動いているのか」「このやり方で正しいのか」という実感や体感が得られにくいのです。

それらの問題の対策として、私の医院では看護師が中心となり、薬局のスタッフの協力も得て「ベッケンボーデンエクササイズ」を指導しています。ベッケンボーデンは、ドイツ語で「骨盤底」を意味します。音楽に合わせて全身の筋肉を動かしながら、骨盤底筋と協動する筋群を鍛えるエクササイズによって、自然な流れで骨盤底筋が鍛えられるプログラムになっています。また、自分で行う骨盤底筋体操よりも鍛えている感覚を実感できるため、患者さんたちにも好評です。

とはいうものの、高齢者をはじめ、体力が落ちた患者さんがエクササイズ教室まで足を運ぶのは大変です。また、女性と比べて男性の患者さんは多人数で行う体操教室への参加に消極的な傾向があるのも課題となっていました。

骨盤底筋に関する多くの問題を解消する新療法として私が注目しているのが「スターフォーマー」と呼ばれる医療機器です。正式名を高強度テスラ磁気刺激治療器というこの医療機器は、安全で痛みが起こらない磁気刺激によって骨盤底筋と背中周りの筋肉を強化します。30分間座っているだけで約5万回の筋肉刺激を受けられるため、効率よく骨盤底筋を中心とした筋肉群の強化を図ることができます。

スターフォーマーは、低周波治療器に代表される電気治療と比べて皮膚の深いところまで刺激が届き、筋肉への作用も強いことが確かめられています。筋肉を収縮させるたんぱく質を除去することで硬くなった筋肉をほぐし、収縮力の回復を図ります。さらに、抗酸化物質を産生して筋力の強化を促しながら、排尿に関わる筋肉の環境を整えていくことができるのです。

特筆したいのは、スターフォーマーによる磁気の刺激によって、筋肉の細胞(筋細胞)が増加することです。専門的には、休眠状態になっている筋衛星細胞が活性化されて成熟筋線維(きんせんい)になると考えられています。一般的に、老化に伴う筋力量の減少は避けられないものですが、スターフォーマーは「座っているだけ」で排尿障害を引き起こす筋肉を強化できる、類いまれな医療機器といえるでしょう。

尿失禁に対する効果を試験で確認し日本排尿機能学会で研究結果を発表

私自身がスターフォーマーを知ったのは、2022年9月のことです。日本排尿機能学会の会場に出展されていたスターフォーマーを見て関心を持ちました。デモンストレーションの担当者に声をかけられたので試してみると、骨盤底筋が強く刺激される体感があったため、骨盤底筋体操の短所を補えると思いました。

その後、導入されているほかの施設の先生方にも評判を聞き、治療に大いに役立ちそうだと思いました。かげやま医院ではその数ヵ月後にスターフォーマーを導入し、希望する患者さんに試していただいています。現在は自由診療扱いとなるため、一回の治療で1万円ほどの費用(施設により異なる)がかかりますが、「30分座っているだけ」という手軽さから、高齢の患者さんを中心に評判は上々です。

骨盤底筋の強化を目的にスターフォーマーを導入している影山医師

スターフォーマーを使った治療は、週2回の使用を4週間、計8回を一クール(あくまでも標準的なやり方)として行いますが、4回目前後から効果を実感する患者さんが多いようです。治療を受けても効果が得られなかった患者さんの3分の2前後に尿失禁の改善が見られ、3分の1前後の患者さんには著明な改善(治癒(ちゆ)に近い)が見られています。スターフォーマーはいろいろなモードの設定が可能で、磁気刺激の強さやリズムのモードを変えられます。患者さんごとに適切な設定をすることで、一段と治療効果の向上が見込めると考えています。

2023年9月に開催された日本排尿機能学会において、「尿失禁に対するスターフォーマーの効果」と題した発表を行いました。内容を分かりやすくご紹介しましょう。

対象者は、かげやま医院で治療を受けている計50人の患者さんです(内訳は難治性の過活動膀胱26人、前立腺全摘出後の尿失禁7人、性器脱6人、腹圧性尿失禁5人、低過活動膀胱3人、ED2人、慢性骨盤痛1人)。治療後の効果は、OABSS(過活動膀胱症状スコア)、IPSS(国際前立腺症状スコア)、ICIQ-SF
(国際失禁会議尿失禁質問票)、PGI(治療後に患者が治療法を7段階で行う評価)と、エコー画像による膀胱の動きなどから評価しました。50人の患者さんがスターフォーマーを実施した回数は1回(9人)、2~8回(35人)、9回以上(6人)です。

その結果、例えば6回以上行った12人の難治性過活動膀胱の患者さんの場合、膀胱の症状に改善が見られ、PGIの評価でも良好な治療効果が確認できました。患者さんごとに実施回数のばらつきがあることや、治療薬の継続・中止の不統一などの点があるものの、スターフォーマーは骨盤底筋を強化する手段の一つになりうると実感しています。

最後に、スターフォーマーを使って尿失禁が改善した患者さんの例をご紹介しましょう。動物病院で仕事をしているAさん(男性)は、前立腺がんで前立腺を摘出した後、薬物療法や骨盤底筋体操を行っていましたが、軽度の尿失禁に悩まされて尿パッドが手放せない状態でした。イヌはマーキングといわれる行動で尿を縄張りとして認識するため、尿のにおいには敏感です。仕事中の尿失禁でAさんの衣服に尿のにおいが残っていると、イヌがAさんの股間(こかん)をクンクンと嗅ぐようになり、飼い主さんから尿失禁を疑う目で見られるようになったそうです。困り果てたAさんが私のすすめでスターフォーマーを使った治療を受けたところ、手術から5年もたっていたにもかかわらず尿失禁がほぼ起こらなくなり、動物病院に来るイヌに股間を嗅がれなくなったのです。

ボランティア活動に取り組んでいたBさん(女性)は、数年前から尿失禁に悩み、薬物療法や骨盤底筋体操を試しても改善が見られませんでした。Bさんが私のもとでエコー検査を受けると、骨盤底筋の動きの指標となる膀胱底の動きがまったく見られないことが分かったのです。そこでBさんがスターフォーマーを使った治療を数回受けて、その後にあらためて薬物療法と骨盤庭筋体操を再開したところ、尿失禁の改善が見られました。スターフォーマーが休眠状態となっていた骨盤底筋や排尿に関する神経の働きをよくした可能性は高いと思います。

泌尿器科領域に関する治療法は日進月歩です。スターフォーマーをはじめ、有効性が確認された新しい治療法が全国の病医院で普及していくことを願っています。