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[指バウアー]で耳鳴り・頻尿を撃退

泌尿器科

まだらめクリニック 自律神経免疫治療研究所院長 班目 健夫

生活と気象環境の変化が激しい春は自律神経が乱れやすく血流の悪化に要注意

[まだらめ・たけお]——1954年、山形県生まれ。岩手医科大学医学部卒。医学博士。東京女子医科大学附属東洋医学研究所、同大学附属青山自然医療研究所クリニック講師などを経て、2011年、青山・まだらめクリニック 自律神経免疫治療研究所を開設。日本統合医療学会指導医・代議員、日本自律神経免疫治療研究会理事。著書に『免疫力を高める「副交感神経」健康法』(永岡書店)など多数。

暖かさに包まれる春は気分的にも穏やかに過ごせそうな季節ですが、体調不良を訴える患者さんは少なくありません。春は生活環境の変化だけでなく、気圧の変化や激しい寒暖差、日照時間の変化による寝不足といった気象環境の変化が起こります。その結果、自律神経のバランスが乱れて血流の悪化や筋肉の硬直が起こり、さまざまな不調を招きやすくなるのです。

自律神経は、意志とは無関係に内臓や血管の働きを支える神経のことで、交感神経と副交感神経に分けることができます。交感神経は心身の状態を活発にする神経で、副交感神経は心身の状態を休息させる神経です。

自律神経は外部環境の変化に対応しながら、交感神経と副交感神経がバランスを取っています。ところが、気圧や気温、生活環境、日照時間の変化といったストレスにさらされると、私たちの体は交感神経が優位な状態になります。交感神経は筋肉を硬直させたり、血管を収縮させたりして、ストレスという危機に備えて体の緊張状態を保つようになるのです。

交感神経が優位になり、体の緊張状態が続くことで起こりやすい症状に耳鳴りがあります。一般的に耳鳴りは「周囲の音と無関係に耳や頭の中で音が聞こえる自覚がある状態」と定義されます。耳鳴りの音には「キーン」「ジーッ」「ピーッ」といった金属音やセミの鳴き声、電子音に代表される高い音や、「ブーン」「ゴー」といった低い音があります。

耳鳴りの原因は不明といわれていますが、私は自律神経の乱れによって()(まく)周辺の筋肉が血流障害を起こしていることが深く関係していると考えています。耳のしくみを知ることで、耳鳴りと血流の関係を理解することができます。

下のイラストをご覧ください。私たちの耳は「外耳・中耳・内耳」の3つに分かれています。ふだん私たちが聞いているさまざまな音は、空気の振動のことです。耳から入った音は空気の振動となり、外耳道を通って鼓膜に伝わります。鼓膜に届いた空気の振動は、()(しょう)(こつ)(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)に伝わり、振動が20倍以上に増幅されます。耳から入った音が空気の振動として伝わる外耳から内耳の経路を伝音系といいます。

増幅された空気の振動は、内耳にある()(ぎゅう)という器官に届きます。カタツムリのような形をした蝸牛の中にはリンパ液があり、液の揺れを(ゆう)(もう)細胞が感知して電気的な信号に変換します。この信号が聴神経(蝸牛神経)を通じて大脳にある聴覚領域に伝えられ、初めて音として認識されるのです。音が電気信号として伝わる内耳から脳までの経路を感音系といいます。

健康な体であれば鼓膜周辺の血流は穏やかです。ところが、自律神経の乱れによって鼓膜周辺の血管が収縮すると、血管が狭くなって勢いよく血液が流れるようになります。その結果、過剰に勢いがついた血液の流れを音として認識してしまい、耳鳴りが起こるのです。

さらに、自律神経の乱れによって緊張状態が続くと、脳内にある聴覚領域の感度も過剰に働くおそれがあります。ふだんなら感知しない微細な電気信号にも過剰に反応するようになり、耳鳴りとして聞こえてしまうと考えられます。

自律神経の乱れによって起こるのは耳鳴りだけではありません。特に高齢者が悩まされる頻尿も、自律神経の乱れによる血流障害と筋肉の硬直が原因と考えています。

血流障害や筋肉の硬直によって循環器機能が低下すると下半身に血液がたまり頻尿を招く

日本()尿(にょう)()科学会では頻尿を「朝起きてから就寝するまでの排尿回数が8回以上」と定義づけています。(ぼう)(こう)にためられる尿の容量は、一般的に300~500㍉㍑で、200㍉㍑を超えると尿意をもよおしやすくなります。個人差はありますが、1日の排尿量は平均1500㍉㍑前後。1回の尿量が200㍉㍑とすると、八回排尿すれば1日の平均尿量を超えるため、頻尿の基準を8回以上と定めています。ただし、これは絶対的な基準ではありません。頻尿を判断するうえで重要なのは、過去の排尿習慣と比べた変化の度合いで、患者さんごとに異なるものです。

例えば、若い頃に1日に8回排尿していた人が年を取り、排尿回数が9回になっても、自分が頻尿とは感じないでしょう。その一方で、日中に4回ほどの排尿回数だった人が6~7回と増え、夜に2~3回と尿意をもよおすようになれば違和感を覚えるはずです。つまり、頻尿を診断するうえで大切なのは、患者さん本人が排尿について困っているかどうかなのです。もし困っていれば、悩みを解決するために適切な治療を受けるべきです。

自律神経が乱れて血流障害が起こったり筋肉が硬直したりすると、血液を全身に届ける心臓などの循環器機能が低下します。特に〝第二の心臓〟といわれるふくらはぎは、足の筋肉の収縮と()(かん)によって心臓へ多くの血液を戻す動き(ミルキングアクション)をしています。しかし、加齢や自律神経の乱れによって血流が悪化したり、ふくらはぎの筋肉が硬直したりすると、正常なミルキングアクションができなくなり、下半身に血液がたまってしまうのです。

下半身にたまった血液は、就寝時に体を横にすると上半身に移動して心臓に戻ります。すると、体は余分な水分を尿として出そうとするため、利尿ホルモンの( ぶん)(ぴつ)を誘発して尿意を促します。その結果、夜間の尿量が増えてトイレの回数が多くなってしまうのです。

また、血流障害が起こると膀胱の血流量が低下するため、正常に機能しなくなります。正常な膀胱は伸縮性があるため、尿を一定量ためてから排出します。しかし、血流が悪化した膀胱は伸縮力が弱く、尿をためにくくなるので頻尿が起こりやすいのです。

考案した指バウアーと背伸び体操で血流を改善すれば耳鳴りや頻尿を解消できる

そこで私はみずから考案した「指バウアー」「背伸び体操」を、耳鳴りや頻尿に悩む患者さんにすすめています。

指バウアーは腕と手指をまっすぐ伸ばした状態にして、人さし指から小指までの4本の指の第二関節を反対の手で挟みながら手の甲を反らす運動です。指バウアーをすると、(ぜん)(わん)(くつ)(きん)(ぐん)という腕の内側に位置する筋肉が動いてポンプの働きをするため、上半身の血流改善に役立ちます。

指バウアーをするときのコツは、前腕屈筋群の動きを意識して行うことです。前腕屈筋群を動かすことでミルキングアクションが起こり、血流が促されます。そのため、指バウアーをしても前腕屈筋群が温かくならなければあまり効果は期待できません。目安として1度に30回を目標に実践してください。

背伸び体操は、姿勢を正して壁に両手をつき、かかとを上げ下げする運動です。背伸び体操をすると、第二の心臓とされるふくらはぎの筋肉を効率よく動かせるため、下半身の血流を促すことができます。

背伸び体操のコツは、ふくらはぎの筋肉を意識して使うことです。指バウアーと同様に、ふくらはぎの筋肉でミルキングアクションを起こせば、下半身の血液を心臓に無理なく戻すことができます。そのため、背伸び運動を行ってもふくらはぎが温かくならなければ、効果的に筋肉を動かせていないと判断できます。背伸び体操も指バウアーと同じように、1度に30回を目標に取り組んでみましょう。

指バウアーと背伸び体操を習慣化することで、血流が改善して耳鳴りや頻尿などの高齢者が悩みを抱えやすい症状が治まる患者さんは少なくありません。血流が改善すると副交感神経が優位になり、自律神経の乱れも落ち着くようになります。指バウアーと背伸び体操を実践することで、春の陽気を心から楽しめるようになるでしょう。