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尿もれ・骨盤臓器脱は一人で悩まないで

患者さんインタビュー

ひまわり会会長 稲垣 隆子さん

大阪市に事務局をおく「ひまわり会」は2004年の発足以来、尿もれ・(こつ)(ばん)(ぞう)()(だつ)で悩む女性のための相談や情報発信を行っています。今回は、みずからも骨盤臓器脱の元患者である会長の(いな)(がき)(たか)()さんにお話を伺いました。

勇気を振り絞って女性泌尿器科を訪ね手術を受けたら快適な生活を取り戻せました

[いながき・たかこ]——2005年、産婦人科で子宮脱と診断されるも症状が改善せず、翌年に女性泌尿器科を受診。TVM手術・TOT手術を受けて排尿障害から解放された後は、ひまわり会の活動のほか、地域のボランティア活動などを行っている。

私が体の異変に気づいたのは2005年の年明け、お()()で体を洗っているときでした。股に何かが挟まっているような違和感を覚えたんです。指先でおそるおそる確かめてみたら、(ちつ)の入り口辺りにピンポン玉くらいの大きさのものが飛び出しているのに気づきました。立ち上がると体の奥へ引っ込むし、痛みもありません。当時、(こつ)(ばん)(ぞう)()(だつ)という病気を知らなかった私は、とっさに「がんかもしれない」と思って大阪市内にある病院の産婦人科を受診しました。

産婦人科では骨盤臓器脱の1つである「子宮脱」と診断されました。骨盤臓器脱は骨盤の内側にある(ぼう)(こう)や子宮などの臓器が膣から体外に出てくる状態で、出てきた臓器が膀胱の場合は(ぼう)(こう)(りゅう(膀胱脱)、子宮の場合は子宮脱というそうです。命を脅かす病気ではありませんが、排尿障害の原因となり、生活の質の低下を招きます。

担当の医師からは「子宮脱は10~20日入院して子宮を摘出すれば治りますよ」といわれましたが、当時の私には入院という選択肢はありませんでした。その前年から主人が肺がんを患い、闘病生活を送っていたので、私が入院している場合ではなかったんです。

担当の医師に入院しなくてもいい治療法はないか尋ねると、ペッサリーの装着をすすめられました。リング状のペッサリーを膣の中に装着して子宮が落ちてくるのを防ぐのだそうです。

ところが、ペッサリーを装着してからというもの、激しい不快感に悩まされるようになりました。ペッサリーの大きさは直径5~8.5㌢ほど。膣の中にあるはずなのに、のど元までせり上がってくるような圧迫感を覚えたんです。担当の医師に相談すると「異物が入っているのでしかたがない」といわれ、不快感を我慢しながら過ごしていました。

時間がたつにつれて、不快感に加えておりものの量が増え、色も濃くなってきました。血や(うみ)のようなものも混じるようになりました。担当の医師に何度も相談しましたが、返ってくるのはいつも「しかたがない」という答えでした。さらに、闘病中の主人だけでなく、義父の介護も必要になって、私自身の体の不調には「命に関わる状態ではないから」と、目をつぶっていたんです。

2005年の秋、主人が亡くなりました。当時、3人の娘たちの前では気丈にふるまっていましたが、仏前に座ると涙があふれて止まりませんでした。毎晩、主人の()(はい)の側で眠りに就く間だけが、唯一心が安らぐひとときでした。

主人の49日の法要を済ませた頃、タウン誌の骨盤臓器脱の記事が目に留まりました。私とよく似た症状が掲載され、大阪市内にある総合病院の()尿(にょう)()科が紹介されていました。

記事を読んだ私は、もんもんと過ごしているだけでなく、泌尿器科も受診してみようという気持ちが湧いてきました。泣いてばかりいると、娘たちにも亡くなった主人にも心配をかけてしまいます。まずは私自身の体をしっかり()てもらって、悪いところがあったら治していこうとようやく心が決まりました。

2006年3月に、タウン誌で紹介されていた総合病院の泌尿器科を訪ねました。担当医は(たけ)(やま)(まさ)()先生という男性の医師でした。緊張しながら問診と内診に臨みましたが、竹山先生の柔らかい物腰とていねいな説明のおかげでリラックスして診てもらうことができました。診察を受けると、「子宮よりも、むしろ膀胱が下がっていますよ」といわれて驚きました。

竹山先生から骨盤内の臓器に起こっていることについて、模型を使って分かりやすく説明していただきました。そのとき初めて、子宮を摘出する手術のほかにも、体への負担が少ない手術があることを知ったんです。説明を聞いた私は、その場で手術を受けると決断。3ヵ月後、竹山先生にすすめられたT(ティー)V(ブイ)M(エム)手術を受けました。TVM手術とは、体に入れても無害なメッシュシートを骨盤の底に入れて骨盤内の臓器を支える手術です。

手術のメリットばかりでなく、リスクについてもしっかり説明を受けました。術後、下がっていた膀胱が元の位置に戻ると、尿道の周りに空間ができて不安定になり、4人に1人の割合で尿もれを起こす可能性があるのだそうです。その場合、尿道の位置を安定させるためのT(ティー)O(オー)T(ティー)という手術を受けると尿もれが治まるということでした。

TVM手術は全身麻酔で1時間ほどかかりましたが、無事に終了。手術直後は傷口が少し痛んだものの、翌日からは院内を歩くことができて、食事も問題なくとれました。9日後に退院してからは、膣の入り口付近の違和感がすっかりなくなりました。おりものも気にならなくなり、晴れ晴れとした気分でした。

手術から4ヵ月ほど過ぎた頃から尿もれが起こるようになりましたが、事前に説明を受けていたので、あまりショックは感じませんでした。2007年3月にTOT手術を受けてからは、尿もれや急な尿意に悩まされることはなく、快適な生活を取り戻すことができました。現在はフィットネスクラブでの運動や海外旅行、ボランティア活動などを行いながら、充実した毎日を送っています。

骨盤臓器脱の元患者として1人で悩む患者さんに希望というバトンをつなぎたい

ひまわり会は市民公開セミナーや冊子(右上)などによって、尿もれや骨盤臓器脱への理解を深める活動に力を入れている

私が会長を務める「ひまわり会」は、尿もれや骨盤臓器脱の患者さんの支えになりたいという思いから、会の顧問である竹山先生と連携してさまざまなボランティア活動を行っています。主な活動内容は電話相談や院内ボランティア、市民公開セミナー、そして会員向けの勉強会です。

電話相談は毎年3回、竹山先生が勤める第一(とう)()(かい)病院(大阪府(たか)(つき)市)で行っています。毎回、「恥ずかしくて誰にも相談できない」「どの診療科を訪ねればいいのか分からない」と悩む全国の患者さんからたくさんの相談が寄せられます。私たちは患者さんに「骨盤臓器脱も尿もれも〝病気〟で、恥ずかしいことではありません」「女性泌尿器科を受診して、まずは自分の体の状態を正しく理解しましょう」とお伝えしています。相談の内容によっては、竹山先生に直接話してもらうこともあります。

デリケートな部分に関する悩みなので「10年以上にわたって1人で苦しんできた」という相談も少なくありません。そのため、1回当たりの電話がどうしても長くなってしまい、「何度かけても電話がつながらない」というお声をいただくことがあります。申し訳ない気持ちでいっぱいですが、会員どうしでスケジュールを調整しながら、病院にある2台の電話を使って対応しているので、ご理解いただけるよう願っています。

院内ボランティアの活動も、第一東和会病院で行っています。病院の待合室で初診の患者さんとお話をするんです。私自身も覚えがありますが、女性泌尿器科を初めて受診される患者さんは非常に緊張されています。私たちは問診の前に患者さんの緊張をほぐしたり、お話を聞いて先生に伝えるべきことをしっかり確認したりしています。問診のときに再び緊張してしまう患者さんも多いので、箇条書きのメモをいっしょに作ることもあります。

初診に限らず、手術の前後で受診される患者さんの相談にも乗っています。治療や術後に違和感や不安を抱いても、患者の立場から医師に直接本音をいうのは難しいと感じる方は少なくありません。そんなとき、第3者が間に入って必要な情報を医師に伝えることで、患者さんの不安が解消して気持ちよく治療を続けられるんです。

電話相談や院内ボランティアの活動は、先生とひまわり会の連携が取れていて揺るぎない信頼関係があるからこそ成り立っています。私たちは、医師と患者の間の距離を埋められる〝架け橋〟になりたいと願っています。

市民公開セミナーは年に2回、大阪市内で開催しています。骨盤臓器脱は治る病気であることを伝えるため、専門医に病気や治療法について説明してもらったり、理学療法士に骨盤底筋体操の方法を教えてもらったりしています。さらに、会員による治療の体験談のほか、妊娠中に腹帯やガードルで腹部を締めつけることが骨盤臓器脱の原因の1つとなることなど、一般的に知られていない情報を伝えて病気の啓発に力を入れています。

セミナーでは質疑応答も盛況です。定員以上の申し込みがあることも多く、必要とされていることを実感しています。島根や三重といった遠方から参加される患者さんもいます。

会員向けの勉強会は年に2回開催しています。ダイエット法から靴の選び方まで、専門家を招いて健康について幅広く学んでいます。市民公開セミナーとは異なるアットホームな雰囲気が魅力です。

患者さん、会員さん、そして治療にあたる先生が笑顔になれることを願っているという稲垣会長(右)と事務局の西(にし)(まき)さん(左)

設立から15年以上になるひまわり会ですが、会員の年齢が上がっていることや、すべてボランティアで運営していることなどによって、会の存続そのものが難しくなったときもありました。それでも、「患者さんを救いたい」という先生の思いと、「同じ苦しみから抜け出せたからこそ力になりたい」という私たちの思いが1つになって活動をつづけられています。

私はひまわり会の2代目会長としての責任を持って、希望という名前のバトンをつないでいきたいと願っています。そして、会員の皆さんには無理をせず、ご自身の家庭や生活を守りながら〝無償の愛〟の気持ちで取り組んでほしいと伝えています。

尿もれや骨盤臓器脱は命に関わる病気ではありませんが、誰にも相談できずに心の中がどんどん苦しくなる病気です。「地獄の中に光がさし込んできたような気持ちです」という患者さんもいらっしゃるように、口に出すだけでもらくになります。まずはいっしょに話しましょう。勇気を持って一歩踏み出してもらえるように、私たちがサポートします。

命に関わる病気ではないからこそ、生きつづけていくことを見据え、生活の質を上げて楽しんでいきましょう。患者さん、会員さん、そして治療にあたる先生が、ひまわりのような笑顔を咲かせられるようになってほしいと心から願っています。