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若年層でも難聴になる!?急増中の「ヘッドホン・イヤホン難聴」に要注意

耳鼻咽喉科

山形大学名誉教授、太田総合病院中耳内視鏡手術センター・センター長 欠畑 誠治

音楽や動画を手軽に楽しめる一方で若年層の難聴が増加

[かけはた・せいじ]——1993年、東北大学医学部大学院研究科博士課程修了。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手、米国エール大学耳鼻咽喉科学位取得後研究員、弘前大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科学講座教授、山形大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座教授、同大学医学部附属病院先端内視鏡センター・センター長、同大学医学部附属病院副病院長を経て現職。日本耳科学会理事長も務める。

聴覚は、情報として音を聞き取ることはもちろん、言葉を発するうえでも欠かせない感覚といえます。また、人生を豊かにするために会話や音楽を楽しんだり、自動車のクラクションや警報器へ反応したりするなど、危険から身を守るうえでも重要な役割を果たしています。

加齢性難聴という言葉があるように、私たちの聴覚は加齢に伴って徐々に衰えやすくなります。聴力の低下による不便さは生活の質の低下を招くだけでなく、うつ傾向などの精神疾患や認知症の引き金にもなりうることが分かっています。

最近では高齢者のみならず、若年層を中心に難聴を訴える人が増えています。その背景にあるのが、スマートフォンやタブレットなど、動画や音楽を手軽に視聴できるライフスタイルの変化です。音楽や動画をいつでも楽しめる暮らしは便利なものですが、耳にとっては過酷な環境ともいえます。デジタル機器が生活に欠かせないツールとなった若者たちに起こりやすい難聴を「ヘッドホン・イヤホン難聴」と呼んでいます。

2021年にWHO(世界保健機構)が発表した統計資料によると、現在、世界の若者の11億人が過大な音量によって聴覚障害を起こす危険にさらされているとされています。この数字は、世界中の若者の2人に1人が聴力低下を起こしかねない深刻な現実を示しています。そこでこの記事では、若年層に起こりやすい「ヘッドホン・イヤホン難聴」について分かりやすく解説したいと思います。

耳は音を感じ取る感覚器ですが、ふだん私たちが聞いている会話や音楽の「音」は「空気の振動」です。耳の構造は「外耳・中耳・内耳」の3つに分かれ、空気の振動として耳に入った音が脳に届くことで「音」として認識されます。具体的には、空気の振動が外耳を通って中耳にある鼓膜に伝わった後、耳小骨に伝わり、振動が増幅されます。振動には音の周波数や大きさの情報が含まれています。音が空気の振動として伝わる外耳から中耳の経路を「伝音系」といいます。

伝音系で増幅された空気の振動を、内耳にある蝸牛という器官に存在する有毛細胞が感知して電気的な信号に変換されます。この信号が脳の聴覚領域に伝えられて、初めて「音」として認識されます。音が電気信号として伝わる内耳から脳までの経路を「感音系」といいます。

ひと口に「音」が聞こえるといっても、伝音系から感音系を経て脳に至るまで、繊細かつ精密な過程があります。そのため、この過程のいずれかで何らかの障害が起こると耳の聞こえが悪くなってしまうのです。

難聴の発生に関係しているとされるのが、内耳の蝸牛の中にある有毛細胞です。その名の通り、有毛細胞には聴毛と呼ばれる毛が整然と生えていて、蝸牛内に入ってきた音の振動によるリンパ液の揺れを感知する役割を果たしています。有毛細胞は音に反応して電気信号を脳に伝える働きに関与しているため、大きな音が続くと壊れてしまいます。騒音の暴露によって有毛細胞が障害を受けると、電気信号を脳に伝える機能も弱くなっていきます。その結果、聴力の低下を招いてしまうのです。

手軽に音楽や動画を視聴するライフスタイルが定着した現在、ヘッドホン・イヤホン難聴を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。WHOでは、1週間で聴取しても安全とされる音の大きさの目安を発表しています。その目安では、1週間で80デシベルの音を40時間以上聴くと難聴のリスクが高まるとしています。以下に、私たちの周囲でよく耳にする騒音のレベルをご紹介しましょう。

【騒音のレベル】

ささやき声…30dB
図書館の中…40dB
中程度の雨…50dB
会話…60dB
掃除機…75dB
騒がしいレストラン…80dB
オートバイ…95dB
ロックコンサート…110dB
救急車のサイレン…120dB
雷鳴…125dB

私が広報担当理事を務めている日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、ヘッドホン・イヤホン難聴を防ぐために「あいのて運動」と名づけた啓発活動を展開しています。若年層を中心に、ヘッドホンやイヤホンを日常的に使っている人たちに、難聴を防ぐために重要な4つの要素を語呂合わせにして普及を図っています。

【あいのて運動】

「あ」…(音量を)あげない
「い」…医師に相談する
「の」…ノイズキャンセリング機能付のイヤホンを使う
「て」…定期的に休息を取る

ヘッドホン・イヤホン難聴を防ぐための基本的な考えとしては、「音が大きければ大きいほど、その音にさらされる時間を減らす」ことが大切です。環境騒音とは異なり、ヘッドホンやイヤホンで聴く音は、自分の意思でコントロールすることができます。「大きな音を長く聴いた」と思ったら、音量を下げたり休息したりするなど、意識して耳を休ませることが聴力の維持につながります。生活の質を保つために、若い世代の皆さんも意識的に聴力を守る心がけをしていただきたいと思います。