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心身の疲労で起こる耳鳴り・めまいは睡眠の質を高めることが重要で[安楽呼吸法]が有効

耳鼻咽喉科

ほりクリニック院長 堀 雅明

耳鳴り・めまいはストレス疾患で睡眠の質が下がると起こりやすくなる

[ほり・まさあき]——1956年、東京都生まれ。江戸時代より続く医家の5代目。1982年、昭和大学医学部卒業。同大学病院耳鼻咽喉科、東京都立荏原病院耳鼻咽喉科(非常勤医師)を経て、祖父から父に受け継いだ堀耳鼻咽喉科医院を継承し、1994年にほりクリニックに改名。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、アントロポゾフィー医学国際認定医。『内なる治癒力 こころと免疫をめぐる新しい医学』『がん治癒への道』(ともに創元社)などの出版に協力。

私が院長を務めるほりクリニックは、東京都大田(おおた)区にあります。当院の治療方針は「統合医療」と呼ばれる考え方に基づいています。クリニックには、明らかな不調に悩まされているにもかかわらず、ほかの医療機関を受診して「異常なし」といわれた患者さんの来院が少なくありません。

検査では判明しづらいやっかいな症状や疾患は、ストレスや自律神経失調の影響を受けて発症してしまう〝ストレス疾患〟の場合が多く、心身両面を考慮して診断と治療を進める必要があります。耳鼻咽喉(いんこう)科領域の代表的なストレス疾患として、耳鳴り・めまいのほか、難聴、睡眠時無呼吸症候群、耳管開放症などが挙げられます。

耳鳴りの原因は複数ありますが、耳管開放症という疾患はあまり知られていません。耳鳴りやめまいの治療で私のクリニックに来られる患者さんの中には、耳管開放症の方が多くいらっしゃいます。耳管は耳と鼻をつなぐ通路といえる器官で、鼻の後ろに位置しています。耳の中の気圧を調整して音を聞き取りやすくする働きがあり、通常なら耳管は閉じた状態です。あくびや唾液(だえき)を飲み込む時などに耳管が開き、耳の中の圧力を常に一定に保ちます。

自律神経の機能によって、耳管が柔軟に機能すると耳の中の気圧が適切に変化することで不快な音は制限され、聞きたい音をしっかりと聞き分けることができます。ところが、なんらかの原因によって耳管が過度に開いてしまうと、気道の圧が変化することによって耳の中の気圧が乱れるようになり、耳鳴り、耳閉感、めまいをはじめとしたさまざまな不快症状を生じてしまうのです。

このような耳の中に起こる異常は、検査を受けても指摘されないことがほとんどです。指摘されて症状を抑える薬が処方されても、治癒(ちゆ)に至ることが少ない印象があります。

耳鳴りやめまい、耳管開放症は、心身の疲労やストレスが原因で起こるストレス疾患の一つです。さらに、睡眠の質が低下して、心身の疲労が解消されないと起こりやすくなると感じています。耳鳴りやめまいに悩まされると、睡眠の質を下げてしまいます。つまり、ストレスによって睡眠の質が悪くなると耳鳴りやめまいが起こりやすくなる一方、睡眠の質を一段と悪化させる悪循環を招くのです。耳鳴りやめまいに悩まされている人は、治療薬によって症状を抑えながら、毎日の睡眠の質を向上させると改善しやすくなります。

睡眠の質を向上させるには、心と体のセルフケアが必要です。私は患者さんに「何よりも深い睡眠の治癒効果に勝る治療はない」とお伝えしています。就寝中にもかかわらず脳が覚醒(かくせい)状態を継続して入眠や安眠を妨げないよう、入眠前に心と体のアンバランスを解消しておくことが大切なのです。

コロナ()以降、体を動かす機会が少なくなり、体調不安によるストレスを抱えている人は少なくありません。ストレス状態で就寝しても、心は不安や心配によって覚醒した状態のままです。いつまでも入眠できず、心身の疲労を取ることはできません。

睡眠の質を高めるには「調心・調身・調息」が大切で安楽呼吸法なら毎日らくに取り組める

睡眠の質を向上させるためには、入眠の1時間以上前に心と体の調整をすることが大切です。調整のポイントは、①調心、②調身、③調息の三つです。この三つは、座禅(ざぜん)やヨガの考えの基本として知られています。

心を調整する「調心」でおすすめの方法は、瞑想(めいそう)です。瞑想といわれると難しく感じるかもしれませんが、脳内を埋めつくしている不安や心配ごとから心を解放する時間を作れれば、どのような形でもかまいません。

※回数に制限はありませんが、らくな姿勢で疲れない程度に行いましょう。慣れてきたら、目を閉じて息を止める時間を少しずつ延ばすようにしましょう

瞑想をする際は、姿勢を正した状態で視覚の情報を遮断するために目を閉じ、別のことに意識を集中させましょう。「静かに呼吸している自分自身を観察する」「眉の間に集中する」といったシンプルな行動が取り組みやすいでしょう。最初は数10秒の短い時間でかまいません。少しずつ時間を延ばし、5~10分ほどできるようになると心の状態が整うことが実感できます。

「調身」は体を整えるために行う運動です。特に入眠前は汗をかくような激しい運動ではなく、交感神経を静めて副交感神経を活性化するため、ゆったりと緊張をほぐす(たい)(きょく)(けん)やヨガなどが理想的です。

呼吸法を扱うのが「調息」です。呼吸のリズムは、心身の動きと密接に関わっています。呼吸のリズムを整える時間を作るだけで、大きな体調の変化を感じることができるでしょう。

今回の記事では、「調息」の実践に役立つ「安楽呼吸法」をご紹介しましょう(イラスト参照)。片手で鼻の穴を片側ずつ閉じて呼吸するというとても簡単な方法ですが、だからこそ呼吸のタイミングや流れを実感しやすいといえます。

「調心」「調身」「調息」の三つに取り組む時間を毎日作るだけで自律神経が整い、睡眠の質が大きく向上します。取り組んだ患者さんの多くが、睡眠の問題のみならず、耳鳴りやめまいなどの不快症状の顕著な改善を実感されています。

耳鳴りやめまいの多くは病気ではなく、疲れやストレスに苦しむ体からの悲鳴といえます。ピンポイントで耳を治すのではなく、心身全体を調整しようとする意識を持つことが改善の近道です。