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生活の質の低下が深刻な乾癬は目標を明確にして自分に合った治療を選ぶことが大切

皮膚科
帝京大学医学部皮膚科学講座科長・主任教授 多田 弥生

乾癬が発症する原因の一つは免疫の異常でストレスや生活習慣が関わっていると判明

[ただ・やよい]——1995年、東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部皮膚科入局。医学博士。米国国立衛生研究所(NIH)皮膚科研究員、帝京大学医学部皮膚科助手、東京大学医学部皮膚科助手・講師、立正佼成会附属佼成病院皮膚科部長、帝京大学医学部皮膚科学講座准教授を経て、2018年より現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。

乾癬かんせんは、皮膚に炎症が起こる難治性の疾患です。発症する範囲は人によって異なり、皮膚の一部に起こる場合もあれば、全身の広範囲に及ぶ場合もあります。乾癬を発症すると、皮膚が赤くなって(紅斑こうはん)盛り上がります(浸潤しんじゅん肥厚ひこう)。さらに、盛り上がった皮膚の上に、銀白色のカサブタ(鱗屑りんせつ)が積み重なり、鱗屑がフケのようにボロボロと剥がれ落ちる症状(落屑らくせつ)が見られるほか、つめにも病変が現れることがあります。

乾癬患者さんの患部では、ターンオーバーと呼ばれる皮膚の新陳代謝が過剰に速くなり、健康な皮膚に比べて表皮が10倍以上の速さで作られています。このことは、乾癬患者さんの患部の傷は治りやすいといったメリットにもつながっています。さらに、乾癬を発症した患者さんの皮膚には、体外の有害な物質から体を守ろうとする優れた働きがあることも知られています。

とはいえ、乾癬患者さんの中には、周囲の視線が気になって絶えずストレスを感じている方も少なくありません。恋愛や結婚に消極的になったり、自信を持って働くことができなくなったりして日常の行動が制限されると、患者さんの生活の質(QOL)は著しく低下してしまいます。

乾癬は細菌やウイルス、真菌(カビ)が原因で起こる皮膚病ではありません。ところが、乾癬は「かんせん」という言葉の響きによって「人から人へ感染する」と誤解されることが多い疾患です。乾癬に対する誤解は、患者さんのストレスを増幅させてしまいます。私たち一人ひとりが乾癬という病気について正しく理解することは、とても大切なのです。

以前から欧米では、乾癬は男女ともに罹患りかん率の高い疾患でした。近年、日本でも食生活の欧米化などによって患者数が徐々に増え、現在は約43万人の患者さんがいるといわれています。発症する年齢は10~70代とさまざまですが、50代から患者数が増加します。また、日本では男性の罹患率が高く、女性の約2倍に上ります。

乾癬の皮膚は新陳代謝が異常な状態になっている。次々と生まれた皮膚が重なって盛り上がる浸潤・肥厚が特徴

乾癬が起こる根本的な原因はまだ明らかになっていませんが、遺伝的要因にさまざまな環境要因が加わって発症すると考えられています。また、最近の研究では、乾癬が起こる原因に、免疫が深く関わっていることが分かってきました。免疫とは、細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入するのを防ぐしくみです。ところが、なんらかの原因で免疫の制御が正常に機能しなくなると、皮膚にあたかも外部から排除すべき敵が侵入したかのような炎症を起こす方向に、みずからの体の組織や細胞を変えてしまうのです。

免疫の異常には、体内にあるさまざまな物質が関係しています。乾癬が起こっている皮膚では、炎症を引き起こすサイトカインという物質が大量に産生されています。サイトカインは本来、細胞と細胞の間での情報伝達に必要なたんぱく質で、体を正常に機能させるための重要な役割を担っています。ところが、免疫に異常が起こってサイトカインが過剰に増えると、炎症を引き起こしてしまうのです。

炎症を引き起こすサイトカインの中で、乾癬の発症や悪化と大きく関わっているのが、IL-17やIL-23、TNF-αアルファです。これらの物質には炎症を引き起こす働きがあり、乾癬の皮疹ひしんに多く存在していることが分かっています。

乾癬は症状によって五つの種類に分けられます。

尋常性乾癬じんじょうせいかんせん
乾癬患者さんの約90%は尋常性乾癬です。主な症状は皮膚の紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑です。頭皮やひじ、ひざといった外部からの刺激が加わりやすい部位に症状が出ることが多く、重症化すると全身に広がります。また、患者さんの約60%には爪が白くなる症状も現れます。一般的に、全身の皮膚面積の10%以上に症状が見られると中等症~重症とされます。

乾癬性紅皮症かんせんせいこうひしょう
尋常性乾癬の炎症が全身に広がり、皮膚面積の約80%が赤くなった状態をいいます。発熱や悪寒、全身の倦怠感けんたいかんに加えて、関節痛などを伴うこともあります。

滴状乾癬てきじょうかんせん
一つひとつは水滴ほどの大きさの皮膚の炎症が、全身に起こります。子どもや若い世代に発症することが多く、扁桃腺炎へんとうせんえんなどの感染がきっかけとなって突然発症します。

乾癬性関節炎かんせんせいかんせつえん関節症性乾癬かんせつしょうせいかんせん
皮膚の炎症に加え、手足の指、腰や背中の関節がれて痛みを伴います。関節のこわばりや変形が見られるなど、関節リウマチとよく似た症状を示しますが、血液検査や炎症が関節のどこに起こっているかを詳しく調べることで、異なる疾患であることが分かります。皮疹の発生から数ヵ月~数年後に発症する場合もありますが、皮膚症状と同時に発症したり、関節の痛みや変形だけが現れる場合もあります。乾癬性関節炎は、尋常性乾癬の患者さんの10人に一人の割合で見られます。

膿疱性乾癬のうほうせいかんせん
紅斑のできた皮膚に無菌性の膿疱が多く現れ、発熱や悪寒、倦怠感を伴う症状が起こります。放置すると、全身の衰弱が起こる他、呼吸不全や腎不全じんふぜんなどが併発することもあります。ときには命に関わる重篤な状態に陥る場合もあり、国が難病に指定している乾癬です。

乾癬の患者さんは、糖尿病・高血圧・脂質異常症・うつ病・肥満・脳梗塞のうこうそく・心筋梗塞を併発することがあります。乾癬の患者さんには、合併症の対策をあわせた総合的な治療が必要です。

糖尿病や高血圧などさまざまな病気を併発しやすい乾癬は治療法の選択が重要

※1 紫外線を長時間照射すると、色素沈着や日焼け、皮膚がんのリスクが生じるため、患部以外の皮膚は紫外線からしっかりと保護する
※2 シクロスポリンの内服療法が長期間にわたると、腎機能の低下といった副作用が起こりやすいため、必ず医師の指示に従って服用する

乾癬の治療は外用療法、光線療法、内服療法、生物学的製剤の四種類があります。どの治療法が適しているかは、患者さん一人ひとりによって異なります。

乾癬の治療で大切なのは、適切な医学的療法を受けることだけではありません。毎日の生活でストレスをため込まないことと、生活習慣を見直すことも重要です。

乾癬の患者さんに問診をすると「増悪ぞうあく前に強いストレスを感じる出来事があった」といわれることがあります。環境の変化や人間関係の悩みが原因でストレスを感じるのは自然なことですが、乾癬の発症や悪化を防ぐためにも一人で抱え込まず、趣味や運動に打ち込んだり、周囲に相談したりして発散させるようにしましょう。

食生活にも注意が必要です。脂っこいものや肉類に偏った食事と、それに伴う体重の増加は、症状を悪化させます。バランスのよい食事を心がけ、刺激の強い香辛料や酒類は控えましょう。

衣服で皮膚が刺激を受けると、乾癬の状態が悪化することがあります。ゆったりした服を身に着け、患部を締めつけないようにすることが大切です。また、肌を清潔に保つため、毎日欠かさず入浴しましょう。ただ、熱い湯に長時間入っていると、かゆみが強くなることがあります。ぬるめの湯に入り、短時間で上がるようにしましょう。

乾癬を改善するために心がけてほしいのは、治療目標を明確にすることです。冒頭で述べたように、乾癬が発症している皮膚は、一生懸命体を守ろうとしています。人目につかない部位は外用療法で様子を見ながら、「温泉旅行に出かける」「慶事に出席する」といった事情で見た目を早急に改善したいときには紫外線療法を患部の目立つ部位に取り入れたり、短期間内服療法を行ったりするなど、自分に合った治療法を選ぶことが重要です。信頼できる医師や家族と相談しながら、前向きな気持ちで治療に取り組みましょう。

この記事は「健康365」2019年10月号に掲載されています。