かわたペインクリニック院長 河田 圭司
神経痛が残りやすい帯状疱疹は早期治療が大切で皮膚表面の刺すような痛みに注意
帯状疱疹は、主に体の片側に赤い発疹が帯状に広がり、強い痛みが起こるウイルス性の疾患です。痛みの治療(ペインクリニック)を専門とする私のもとには、さまざまな疾患に伴う痛みに苦しむ患者さんが毎日100人以上来院されています。私のクリニックにおいて近年患者さんが急増しているのが帯状疱疹で、来院理由の第3位になっています。
帯状疱疹の原因は、子どもの頃に感染した水痘(水ぼうそう)ウイルスで、水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体内の神経節(神経の中継所)に潜伏しています。加齢や過労、過剰なストレス、病中病後などが原因で免疫力が低下すると、ウイルスが活発化して帯状疱疹を引き起こします。
悪化すると「服が触れるだけでも痛みが起こる」といわれる帯状疱疹ですが、通常は発症から3週間~1ヵ月程度で皮膚症状が治まります。帯状疱疹のやっかいな点は、皮膚症状ではなく、神経痛が残ることがある点です。
帯状疱疹の痛みが残ると、数ヵ月から長い人だと数年にわたって激痛が続く場合もあります。患者さんによっては、「針で刺されるような痛み」「火ばしで焼かれるような痛み」と表現する激痛が長く続くこともあるのです。かつては、帯状疱疹の発症前後の痛みと後遺症の痛みを区別していましたが、時期と痛みの境界が曖昧なことから、近年では「帯状疱疹関連痛(ZAP)」と総称するようになっています。
痛みは、体に起こった異常を知らせる警告反応といえます。ところが、痛みが慢性化すると自律神経のバランスが乱れて血管が収縮します。その結果、血流が悪くなり、痛みを引き起こす物質の排出が滞ったり、発生を促したりする悪循環が生まれます。また、つらい痛みや長期間にわたる痛みは脳に〝痛みの記憶〟として残ってしまうことがあります。不安や怒りなどのマイナスな感情を伴う痛みは強く記憶に残り、慢性化しやすくなります。私が〝痛みグセ〟と表現する痛みの記憶が、患者さんの生活の質(QOL)をより低下させてしまうといえるでしょう。
帯状疱疹は、痛みグセがつく前の早期に治療を受けることで、症状の悪化を防ぐことができます。つまり、帯状疱疹の治療は、発症から1ヵ月以内にどれほど痛みを軽減できるかが重要なのです。皮膚症状が現れた場合は、すぐに皮膚科や内科を受診しましょう。
帯状疱疹の患者さんの中には、痛みが先に出て皮膚症状が後に出る人も少なくありません。最初は痛みの原因が分からず、複数の検査を受けているうちに治療が遅れてしまう場合もあるので注意しましょう。
帯状疱疹の改善には痛みの観察が大切で医師への正確な情報の伝達が症状緩和の近道
帯状疱疹の痛みの特徴として多くは「皮膚表面に痛みを感じる」「ピリピリ・チクチクとした、刺すような痛み」という二点があります。これらの兆候を感じたら、帯状疱疹を疑ってすぐに医療機関を受診しましょう。症状を的確に伝えることも大切です。医師が帯状疱疹の可能性を考えることができ、治療の質の向上につながります。
痛みを専門とする私たちペインクリニックの医師でも、患者さんの痛みの内容や程度を詳細に把握することは容易ではありません。痛みとは主観的なものであるため、医師の目で見て分かるような数値で表すことは不可能です。治療の効果がどのくらい現れているのかは、患者さんの表情と言葉からしか分からないのです。
例えば、現在行っている治療で痛みが2割改善したとします。それでも患者さんが8割残った痛みの情報しか医師に伝えなかった場合、医師は「改善していない」と判断します。その結果、継続していればさらに改善するべき治療法を変更されてしまうかもしれないのです。医師との正確な〝痛みの情報交換〟こそ、痛みを和らげる近道といえるでしょう。
痛みの観察は帯状疱疹の改善にもつながります。どのような姿勢を取ると痛みが起こるか、何かに熱中している時の痛みの程度はどうか、温めたり冷やしたりすると痛みが増減するかどうかなど、患者さん一人ひとり、痛みの対処法は異なります。あなただけの帯状疱疹に関する情報をできるだけ多く集めて、医師と共有するようにしましょう。