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〝年のせい〟では済まされない!中高年に多い頻尿・尿もれ・排尿痛の原因を専門医が解説

泌尿器科
国際医療福祉大学医学部腎泌尿器外科学主任教授 宮﨑 淳

中高年に多い頻尿は主に加齢が原因で1日8回以上の尿意を感じたら要警戒

[みやざき・じゅん]

2002年、筑波大学大学院医学系研究科修了。医学博士。筑波大学医学医療系講師・准教授を経て、2017年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、日本内視鏡外科学会泌尿器腹腔鏡技術認定医。

「就寝してもおしっこをするために何度も起きるのでよく眠れない」「トイレに行っても間に合わなくてもらしてしまう……」といった頻尿に悩む中高年の方は少なくありません。夜間の就寝中に尿意によって睡眠が中断されるのは、健康を維持するうえでも深刻な問題です。

頻尿に悩む人にとって、特に問題なのが移動時に生じる尿意です。自宅ではすぐにトイレに駆け込めますが、バスや電車内では用を足すことができません。私のもとを受診される患者さんの中には、定年退職後に観光ツアーなどの旅行を楽しむようになったものの、バスや電車の移動中に尿意をもよおすことを心配する方が多くいらっしゃいます。

私が所属している日本泌尿器科学会では、「朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿」と定義づけています。膀胱にためられる尿の容量は、一般的に300~500㍉㍑で、200㍉㍑を超えると尿意をもよおしやすくなります。 個人差はありますが、1日の排尿量は平均1500㍉㍑前後。1回の尿量が200㍉㍑とすると、8回排尿すれば1日の平均尿量を超えることから、頻尿の基準を8回以上と定めています。ただし、これは絶対的な基準ではありません。頻尿を判断するうえで重要なのは、患者さんごとに異なる、過去の排尿習慣からの変化です。

若い頃には1日に8回排尿していた人が年を取り、排尿回数が9回になっても、自分が頻尿だとは感じないでしょう。その一方で、日中に4回ほどの排尿回数だった人が6回、7回と増え、さらに夜にも2度、3度と尿意をもよおせば違和感を覚えるはずです。つまり、頻尿を診断するうえで大切なのは、患者さん本人が排尿について困っているかどうかなのです。もし困っていれば、悩みを解決するためにも適切な治療を受けるべきでしょう。

頻尿の原因はさまざまですが、第一に挙げられるのが加齢による身体機能の低下です。人間は加齢に伴って、心臓などの血液を全身に届ける循環器機能が低下します。下半身の筋力も落ちるため、血液を運ぶ筋肉のポンプ作用が働きづらくなり、体内の水分が下半身にたまってしまうのです。そのような状態で就寝すると、下半身にたまった水分の排出が促されるため、尿の量が増えてしまうのです。

頻尿に悩む高齢者の中には、若い頃の夜間の尿量が全体の3分の1だった人が、2分の1、3分の2と増えていく方がいます。高齢化が進む中、頻尿に向き合わなければならない人は、これからさらに増えるかもしれません。

頻尿の原因は、加齢だけではありません。次からは、頻尿の原因となる病気を解説しましょう。

間質性膀胱炎は原因不明の疾患で頻尿や慢性的に続く鈍痛・激痛が特徴

女性は尿道が男性より短いため、大腸菌などの細菌が膀胱に侵入しやすい。膀胱が細菌に感染することで起こる細菌由来の急性膀胱炎は、女性のほとんどが生涯に一度経験するといわれている

頻尿を招く代表的な病気として、膀胱がんや女性の多くに発症する細菌性の膀胱炎、過活動膀胱、男性特有の前立腺肥大症などが挙げられます。近年になり、診断がつきやすくなった特殊な膀胱炎に「間質性膀胱炎」があります。

間質性膀胱炎は、2006年に診療ガイドラインが定められてから、医師の間での認知度が高まりました。さらに先端的な情報が加えられ、ガイドラインは2019年の3月に改訂されています。間質性膀胱炎は男性に比べて女性が5倍ほどかかりやすいといわれています。

原因不明で起こる間質性膀胱炎の大きな特徴は、尿がたまると痛みが起こり、他の泌尿器の病気に比べて診断が容易ではない点です。一般的な膀胱炎は、細菌やウイルスが感染することで起こります。特に多いのは、細菌性の急性膀胱炎です。「女性であれば一生に一度は経験する」といわれるほどありふれた病気で、肛門の周辺に存在する大腸菌などの細菌が尿道を経由して膀胱に入ることで起こります。

細菌性の急性膀胱炎は、男性に比べて肛門と尿道の距離が短い女性がかかりやすい病気です。女性のほとんどが経験するといわれていますが、抗菌薬を飲むことで治る病気でもあります。多くの患者さんは、治療を受けることで痛みや頻尿、残尿感などの症状が3日ほどでなくなるか和らぎます。

一方の間質性膀胱炎は、検査によって細菌が見つかることがほとんどありません。抗菌薬を飲んでも治らないため、細菌が発症原因ではないとされています。少し前までは、膀胱の粘膜の下にある間質部が硬くなって萎縮することで起こるといわれていましたが、現在は病理学的に否定されています。

間質性膀胱炎の原因はいまだに明らかにされていません。「膀胱の粘膜に異常が起こって下層にある神経が過敏になり、尿中のさまざまな物質に影響されて尿意や痛みが現れる」「アレルギーや免疫に異常が起きている」などの仮説が提唱されていますが、いずれも確定的ではありません。

間質性膀胱炎は、膀胱内にハンナ病変があるものとないものに大別されます。ハンナ病変とは、特徴的な潰瘍として現れる赤い病変のことで、膀胱の粘膜に現れた後、慢性的な炎症と粘膜が剥がれ落ちる現象が見られます。ハンナ病変が現れるハンナ型の間質性膀胱炎は、難病に指定されています。以前はハンナ型だけを間質性膀胱炎と診断していましたが、現在はハンナ病変が現れない非ハンナ型も間質性膀胱炎と診断されるようになりました。

非ハンナ型は炎症が起こらないものの、ハンナ型と同様に原因不明の痛みを伴います。現在は、非ハンナ型の間質性膀胱炎の患者さんが、ハンナ型より多いと推定されています。

男性に特徴的な頻尿を引き起こす疾患に前立腺肥大症があり尿量の減少が特徴

男性は女性に比べて尿道が長いのが特徴。男性の尿道は前立腺という臓器の中を通っている。前立腺肥大症は、前立腺が肥大することで尿道を圧迫する疾患で、男性の頻尿の原因となる疾患の代表格

原因が不明である間質性膀胱炎は、すぐに診断できる特徴が乏しいため、他の病気である可能性を排除していく過程で診断されます。間質性膀胱炎の診断方法としては、尿検査や尿培養検査、超音波(エコー)検査、内視鏡を使って膀胱を観察する膀胱鏡検査などがあります。

膀胱鏡検査を行うさいに生理食塩水を注入して膀胱を広げていく膀胱水圧拡張術を行うと、粘膜の細い血管から出血することがあります(点状出血)。点状出血は間質性膀胱炎の特徴の一つですが、ごくまれに症状が出ない人もいます。

間質性膀胱炎は難治の疾患で、いまだに有効な治療法が確立していない病気です。現在は、検査も兼ねた治療として、膀胱水圧拡張術が一般的に行われています。正確なメカニズムは不明ながらも、膀胱水圧拡張術によって患者さんの症状が和らぐことが少なくありません。

私の診療経験では、膀胱水圧拡張術を行うと、半数から8割ほどの患者さんに効果が見られます。ただし、仮に効果があったとしても数ヵ月から半年ほどで症状がぶり返してしまうため、あらためて治療を行う必要があります。

間質性膀胱炎の特徴である慢性的な痛みにはいくつかの種類が確認されていますが、下腹部に鈍い痛みを感じる方が多いように思います。いままで感じたことのないような鈍い痛みが断続的に襲ってくるという声が少なくありません。「慢性的にずっと痛みを感じる」という人もいれば、「尿がたまると激しい痛みがあり、排尿すると和らぐ」という人など、患者さんによって症状はさまざまです。頻尿だけでなく痛みも感じる場合は、症状の悪化を防ぐためにも、速やかに泌尿器科を受診しましょう。

男性の頻尿の原因として最も多いのが、前立腺肥大症です。前立腺とは、男性の膀胱の下にあるクリの実ほどの大きさの器官で、中を尿道が通っています。前立腺の機能についてはすべてが解明されているわけではないものの、精液を構成する成分を分泌することが主な働きと考えられています。

前立腺肥大症とはその名のとおり、前立腺が大きくなることで起こる排尿障害です。前立腺が大きくなると中を通る尿道が圧迫され、尿道が狭くなって排尿しづらくなります。その結果、1回の排尿量が減って残尿が増えるため、排尿してもすぐにトイレに行きたくなってしまうのです。

間質性膀胱炎と同様に、前立腺肥大症が起こる正確な理由も明らかになっていないものの、前立腺は加齢に伴って自然に大きくなりやすいことが分かっています。加齢に、遺伝や肥満、高血圧症、高血糖、男性ホルモンの分泌量の減少などの要因が重なることで起こると考えられています。

前立腺肥大症の患者さんには高齢者の方が多く、50代を超えると発症しやすくなるといわれています。厚生労働省が2011年に行った調査では、患者数が41万8000人と推計されています。治療経験をもとにした私の印象では、前立腺肥大症の罹患率は70代で約半数、80代では8割ほどと推定しています。

頻尿を感じたら「年のせい」と楽観視せずに医療機関を受診することが大切

頻尿の原因を調べていくうえで特に重要なのは、膀胱がんかどうかの診断です。間質性膀胱炎や前立腺肥大症は、頻尿などによって生活の質を著しく下げるものの、命には危険が及びません。ところが、同じ頻尿でも、膀胱がんが原因の場合、命に関わる問題になります。「頻尿は年のせい」と楽観視せず、各種の検査を通して膀胱がんではないことを確かめましょう。

頻尿の原因となる疾患として、過活動膀胱も患者数が増えています。頻尿の他、尿もれや尿意切迫感が主症状です。過活動膀胱は、主に脳や脊髄などに問題が生じて起こる神経性と、骨盤底筋の筋力減少などによって起こる非神経性に分けられます。原因によって治療法が変わるので、専門医に相談しましょう。

頻尿が起こる原因は泌尿器の病気によって引き起こされるものも少なくはありませんが、多くは加齢による老化現象の一つです。過度に不安になる必要はありませんが、検査を受けて原因を特定するようにしましょう。泌尿器に起こる病気の他にも、頻尿の原因としては水分のとりすぎや糖尿病、利尿剤の服用によっても起こるので注意しましょう。

かつて、テレビ番組が発信していた健康情報の中に「水をたくさん飲むと血液がサラサラになる」「脳梗塞を予防できる」というものがありました。現在、水を多く飲むことによる循環器疾患の予防効果は、医学的に否定されています。確かに水分不足は私たちの体に健康被害をもたらしますが、頻尿が気になる人は水分摂取量を見直しましょう。

糖尿病の患者さんも頻尿が起こりやすくなります。高血糖のためにのどが渇きやすくなり、水分を多くとりすぎてしまうからです。また、糖尿病が進行すると排尿をコントロールする末梢神経に障害が起こるため、排尿筋の活動が低下して頻尿になることもあります。

日常的に服用している薬にも目を向けてみましょう。高血圧症の治療薬として服用する利尿剤は尿量を増やす薬のため、頻尿が起こりやすくなります。薬の種類によっては頻尿の症状より優先して服用すべきものもあるので、主治医に相談しましょう。

頻尿の原因はさまざまで、治療法もそれぞれ異なります。頻尿は患者さんの生活の質を落とすだけでなく、命に関わるものもあるのです。明らかに尿の回数が増えたと思ったときは、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
 

この記事は「健康365」2019年8月号に掲載されています。