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アトピーは「炭水化物依存症」高たんぱく質・高脂質食にすれば一ヵ月で症状改善

皮膚科
星ヶ丘皮フ科院長 有沢 祥子

アトピー患者さんはミネラルが不足していて亜鉛補充療法で9割以上が改善

[ありさわ・しょうこ]——1984年、名古屋市立大学医学部卒業。医学博士。1986年、名古屋大学医学部皮膚科、1987年、小牧市民病院、1993年、愛知医科大学皮膚科などでの勤務を経て、1999年から現職。2004年、七つ星皮フ科を開院。皮膚科専門医。

私は、アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)の改善には、食事内容を見直すことが有効だと考えています。私がアトピーの患者さんに指導する内容は、次の四点です。
● ミネラルの補給
● 高たんぱく食
● 高脂質食
● 低炭水化物・低食物繊維食

一般的には健康に悪いといわれているものもあるため、驚いた方もいらっしゃることでしょう。ところが、私のクリニックに来院してこの4つを徹底してもらうと、早い方ならおよそ1ヵ月で変化を体感されます。私がこの方法に行きついた経緯とともに、その理由を解説しましょう。

私が大学病院に勤務していた頃、驚くべき症例に出合いました。必須ミネラルの一つである亜鉛を患者さんに投与したところ、アトピーの症状が劇的に改善したのです。私は、必須ミネラル、特に亜鉛不足とアトピーの症状の関係に注目。食事指導を中心とした治療を行うため、クリニックを開院しました。

亜鉛は、体内で作り出すことも貯蔵することもできない必須ミネラルの一つで、毎日必要量を摂取する必要があります。免疫機能や細胞分裂、傷などの治癒に対して重要な役割を果たしており、不足すると免疫力の低下や味覚障害、下痢、皮膚炎が生じることが知られています。

アトピー患者さん33人に、従来の治療に加えて亜鉛補充療法を行った試験の結果。試験を始める前の状態を10として、6ヵ月後にかゆみや皮膚の症状が半減した

私は、難治性のアトピーにも、亜鉛不足が関与していると考えています。そこで、難治性アトピーの患者さん33人(9~53歳)を対象に、従来の治療に加えて、亜鉛製剤である硫酸亜鉛200㍉㌘/日(亜鉛量45.5㍉㌘)あるいはプロマック1.5㌘/日(亜鉛量51㍉㌘)を使った亜鉛補充療法を併用する試験を行いました。

試験開始前のかゆみ、皮膚の状態をそれぞれスコア5と設定し、患者さんの変化を観察しました。その結果、かゆみのスコアは2ヵ月後には3.1、6ヵ月後には1.8まで、皮膚の状態は2ヵ月後には2.9、6ヵ月後には2.0にまで低下。8人に一時的な増悪があったものの、33人中30人に効果が見られたのです。副作用は胃の不快感程度で、重度なものは認められませんでした。

亜鉛などの必須ミネラルは、肉や卵、牛乳、チーズなど、たんぱく質を中心とした食生活での摂取がおすすめです。これらの栄養素は野菜にも豊富に含まれていますが、食物繊維にはミネラルを体外に排出してしまう働きがあるからです。

アトピーは例外なく「炭水化物依存症」でストレス状態が続くと副腎が疲弊して悪化

有沢医師は、アトピー患者さんに高たんぱく質・高脂質食をすすめている

アトピーは、例外なく「炭水化物依存症」です。海外では肉料理が多いのに対し、日本では炭水化物が主食として食事の中心を占めています。

実際に、私の経験上、海外で生活をしたアトピーの患者さんの9割が改善しています。一方、アトピーになった経験などない海外の方が、日本での生活を始めたとたんに皮膚炎が生じる例が少なくありません。私は、アトピーは日本の食習慣によって生じる、わが国独特の病気であると考えています。

米や小麦などの炭水化物をとって血糖値が急上昇すると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは、血液中のブドウ糖を全身の細胞や筋肉、肝臓に取り込むための橋渡し役を担っています。重症なアトピー患者さんは、インスリンの反応が健康な人に比べて鈍かったり、過剰に分泌されたりすることがあります。その結果、食後3~5時間後に血糖値が正常よりも下がってしまい、糖が不足した低血糖状態になる人がいます(反応性低血糖)。

低血糖は、生命にとって危険な状態です。ただでさえ炭水化物(糖質)を好むアトピーの患者さんは、さらに炭水化物の強い欲求に苦しむことになるのです。

低血糖状態を回避するため、脳から指示を受けた副腎は、血糖値を上げるためのホルモンを産生します。しかし、低血糖が慢性化して副腎が疲弊すると、アトピーの患者さんの体内で慢性的に起こっている炎症を抑えるステロイドホルモンが十分に産生されなくなってしまいます。

さらに、かゆみによる精神的ストレス、不眠などにより、体は慢性的なストレス状態にさらされているのです。慢性的なストレス状態に対応するために、副腎は抗ストレスホルモンであるステロイドを産生します。ストレス状態が長期にわたると、副腎は疲弊し、その結果、アトピーの症状が悪化してしまうのです。

さらに、日本では、欧州諸国で使用が禁止されている農薬の規制が遅れているばかりか、防腐剤が大量に使用されている小麦を輸入しています。虫や細菌にとって毒になる物質が、人間にとって無害であるわけがありません。特に、直接毒素に触れる腸内細菌には大きな悪影響が及んでしまうと考えられます。

アトピーの患者さんの腸内環境を調べると、健康な人に比べて明らかに腸内細菌の種類が少なく、バランスも悪くなっています。また、腸内細菌の種類が減ってしまうと、ミネラルの吸収力も低下してしまいます。実際、健康な人の腸内細菌をアトピーの患者さんに移植することで、アトピーの症状が劇的に改善する例も少なくありません。

アトピーの患者さんの多くは過食の傾向にあります。かつてアトピーを発症していた私の娘も、驚くほどの食欲を見せていました。腸内細菌の種類が偏っていることで栄養素の吸収力が低下した結果、食欲が増したと考えられます。

腸内環境は、腸内細菌の善玉菌と悪玉菌の争いによって左右されるといわれてきました。近年では、さらに研究が進み、簡単な善悪二分論でなく、全体的なバランスが重要であるという考え方が生まれつつあります。

アトピーの患者さんは炭水化物・食物繊維を抑えた高たんぱく質・高脂質食がおすすめ

アトピー患者さんにおすすめの食事

さらに、腸内環境と脳の動きが密接に関わるという「腸脳相関」という考え方も出てくるようになりました。特に、食事に関しては、自分の腸内細菌が欲する食事を求めてしまうと考えられるのです。アトピーの患者さんは、無意識のうちに腸内細菌の望むままに炭水化物を求めてしまうのです。

つまり、アトピーの患者さんは、炭水化物と食物繊維を少なくした食事をとるべきなのです。必然的に、高たんぱく質・高脂質食が中心になります。腎臓に問題がない限り、たんぱく質はとりすぎても問題のない栄養素として知られています。

1日における成人のたんぱく質の必要量は、体重(㌔㌘)の1.1倍(㌘)です(体重が50㌔㌘の場合、55㌘)。肉100㌘の中には約10㌘、卵1個の中には約6㌘のたんぱく質が含まれているので、積極的に食べるようにしましょう。生魚には防腐剤が使われていることがあるので、肉や卵、乳製品からとるようにしてください。

脂質の摂取も重要です。皮膚のバリア機能を維持するために必要な皮脂膜は、良質な脂質を摂取しなければ作ることができません。皮脂膜が不足すると、皮膚の悪玉菌である黄色ブドウ球菌が激増し、アトピーを悪化させます。実際、アトピー患者さんの皮膚には、黄色ブドウ球菌が異常に繁殖していることが知られています。

脂質の摂取は、アトピーなどのアレルギーを緩和する、アマニ油やエゴマ油といったオメガ3系脂肪酸だけでなく、入手しやすい無添加のオリーブオイルも含めて試すことをおすすめします。1日、男性は大さじ5杯、女性は大さじ4杯、幼児でも大さじ1杯とるようにしてください。とりはじめて1週間足らずで、肌にしっとりとした感覚を覚える方がほとんどです。

最後に、私の指導によってアトピーが改善した患者さんの例をご紹介します。

Aさん(49歳・女性)は、30年以上アトピーに苦しんでいました。私は、炭水化物の制限と良質な脂質の摂取を指導しました。すると、1週間後の受診で、背中のかゆみの軽減を体感。さらに、2週間後には湿疹が消失し、かゆみも解消したのです。色素沈着がやや残っているものの、汗と皮脂膜で守られた、しっとりとした健康な皮膚に変化していました。