皿沼クリニック院長 藤田 亨
ウイルスは遺伝子の変異によって伝播力が強くなり重症化度も高まるやっかいな存在
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナウイルスと略す)の伝播の経緯を調べると、2019年12月末から中国の湖北省武漢市ではやりだした呼吸器系の病気で、致死率は2~3%とされています(数字は中国政府発表)。
新型コロナウイルスをほかのウイルス感染症による致死率と比べてみると、SARS(重症急性呼吸器症候群)が9.6%、MERS(中東呼吸器症候群)34.4%で、かなり低いことが分かります。以下は、私が発刊しているメールマガジン『診療マル秘裏話』からの引用です。
新型コロナウイルスは2種類のタイプに分かれ、それぞれ感染力が違う可能性があると、北京大学などの研究チームが3月6日までに中国の英文科学誌ナショナル・サイエンス・レビューに発表しました。中国の内外で解読された103例のウイルス(武漢熱)のリボ核酸(RNA)を解析し、遺伝子を構成する塩基配列の違いから、7割を占めるL型と3割のS型に分類しました。L型はS型から変化して出現し、感染力が強い可能性があります。武漢市ではL型が大半を占めたということです
メールマガジン『診療マル秘裏話』(号外Vol.1764号。2020年3月31日発刊)
このように、「ウイルスはその遺伝子が変異するもの」であることをご理解いただきたいと思います。ウイルスは「変異」によって伝播力が強くなったり、感染後の重症化度が高まったりするため、非常にやっかいな病原体といえるのです。
また、重症化しやすい人には一定の特徴があることも間違いないようです。中国の湖北省武漢市にある華中科技大学などの研究グループが発表した研究によると、喫煙者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすく、肺炎が起こるリスクが14倍(オッズ比)も高くなることが示されました。中国本土の新型コロナウイルスに感染した患者1099人を対象とした調査でも、重症化した人の割合は、非喫煙者が927人のうち134人(14%)だったのに対し、現在も喫煙中、もしくは過去に喫煙していた喫煙経験者の重症化率は、158人中38人(24%)となりました。喫煙によって重症化リスクが1.7倍も高くなったのです。新型コロナウイルスの重症化を避けるには、何よりも禁煙が必須といえるでしょう。
また、糖尿病の患者さんや高齢者も感染後の重症化リスクが高くなることが分かっています。日本禁煙学会は、新型コロナウイルスの感染によって重症化しやすいのは、①60歳以上の高齢者、②喫煙者(現在、喫煙している人や過去に喫煙していた人)、③ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さん、④糖尿病や肝疾患など、慢性疾患のある人としています。
禁煙は今日から始めることができます。ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患、肝疾患といった慢性疾患がある人も、医療機関で治療を受けられます。しかしながら、高齢者を希望通り若返らせることは、最新のアンチエイジング医療を駆使しても困難です。そのため、高齢者をはじめとするハイリスクの人は、いわゆる「三密」(①換気の悪い密閉空間、②多人数が集まる密集場所、③間近で会話や発声をする密接場面)を避けて感染のリスクを回避することが絶対に必要です。
東洋人と比べて西洋人に感染者が多いのは西洋の食事に原因があると推察
東洋人に比べて西洋人に顕著な感染爆発が起こっていることを考えると「食事の西洋化」がリスクファクターになりうると考えています。西洋人の食事には、小麦製品・乳製品・砂糖の製品が使われていることが多いのです。日本で西洋風の食事といえば、これら3つの食材が使われていることが多いでしょう。
例えば、私のクリニックに来院された間質性肺炎を患った高齢女性のAさんは、チーズが好きで、毎日大量のチーズとヨーグルトを「健康にいい」と思って食べていたそうです。Aさんは、おそらくパンも大好きと思われます。
昔の日本人の食生活は、ご飯が中心でした。Aさんのみならず、最近では高齢でも西洋風の食事をとる人が増えていると感じます。Aさんは、「年を取るとお米を炊くのが疲れる」とおっしゃっていました。
間質性肺炎を患った高齢者の患者さんが皿クリ式のマイルドな糖質制限で体調が回復
Aさんは、小麦製品を中心とした食生活によって腸に炎症が起こり、副腎疲労の症状を起こしていました。副腎は腎臓の上に位置する小さな臓器ですが、さまざまなホルモンを分泌する重要な役割があります。Aさんの場合、小腸の炎症を抑えるために副腎がコルチゾールというホルモンを分泌しつづけて、副腎が疲労してしまったのです。副腎疲労が進むにつれて、Aさんには労力なく簡単にすぐに食べられる西洋風の食事が、なお一層浸透していったのでしょう。
そこでAさんには、当クリニックの内服・外用処方(短期作用型ステロイドホルモン含む)と食事療法(小麦製品・乳製品・砂糖製品の除去と、マイルドな糖質制限食:グルテンフリー・カゼインフリー・シュガーフリー・マイルドな糖質制限)を試みていただきました。その結果、Aさんは間質性肺炎に伴う呼吸困難を起こさなくなり、軽く体を動かす際にセキが出る程度で生活ができるようになったのです。
短期作用型のステロイドホルモンは、代謝と排泄によって長くても数日後には体の中からなくなります。生理的副腎皮質ステロイドホルモンの分泌ピーク(朝8時頃)に重ねる形(朝6時半頃、内服)で投与すれば、ほとんど副作用が起こりません。
Aさんに話を聞いてみると、ステロイドホルモンのよい副作用(食欲増進など)を実感されたようです。体外から副腎皮質ステロイドホルモンを摂取して副腎疲労が解消されたAさんは、朝は苦もなく起きられるようになり、倦怠感もあまり感じなくなったとおっしゃっていました。
私がすすめているマイルドな糖質制限の方法は、食事をとる30分前に野菜ジュースか青汁を100~200㍉㍑飲むことです。とても簡単な方法ですが、野菜に含まれる食物繊維の働きによって、糖質の吸収が著しく緩和されます。私のクリニックでは、糖尿病の患者さんに皿沼クリニック式(皿クリ式)のマイルドな糖質制限を実践していただくことで、ヘモグロビンA1cが5~8.0程度下がるなど、血糖コントロールが改善した人が続出しています。
皿クリ式のマイルドな糖質制限は、厳格な糖質制限と比べ、腎機能や肝機能を悪化させることはありません。腎機能や肝機能が低下している人でも実践することができます。厳格な糖質制限を行うと、免疫細胞の力が低下することが考えられますが、先のAさんをはじめ、実践された患者さんたちから「体がらくになった」と感謝されることも多いと感じています。
新型コロナウイルスは、間質性肺炎と同じく呼吸器の病気です。岐阜大学科学研究基盤センター共同研究講座抗酸化研究部門の犬房春彦特任教授は、「新型コロナウイルス肺炎はウイルスによって起こる間質性肺炎」と述べています。しかも、喫煙や高齢に加えて、糖尿病と酸化ストレスを重症化のリスクファクターとして挙げられています。つまり、糖質制限は感染後の重症化のリスクを下げる可能性がある食事法といえるのです。
新型コロナウイルスに感染して重症化の兆しが見られる人が、先に挙げた食事療法を急に実践しても重症化は避けられないかもしれません。それでも、新型コロナウイルスによる感染が軽症、あるいは、健康でもリスクファクターがある人は、先の食事法によって重症化を避けられる可能性が高まります。リスクファクターがない人でも、流行中のいまの段階では実践したほうがいいでしょう。
西洋風の食事をとると、腸の炎症がひどくなり、その炎症を消し止めようと副腎が副腎皮質ステロイドホルモンを出しつづけるようになります。その結果、副腎がオーバーワークとなり、副腎疲労となるのです。
副腎疲労の副産物として、コルチゾールスティールという状態があります。これは、本来なら性ホルモンの合成に使われるステロイド骨格のホルモン先駆物質が、すべてコルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモン)の製造に使われてしまうため、性ホルモンが不足してしまう状態です。その結果、女性は更年期障害、男性は男性更年期障害の症状が現れるようになります。そのような背景から、私のクリニックでは更年期障害の症状を訴える患者さんには、症状をていねいに問診したうえで、必要に応じて副腎疲労の治療も加えています。
免疫力を高めるには低体温の解消も大切で副腎を疲れさせずに温かい飲み物を摂取
西洋風の食事の際にいただく飲み物としては、コーヒーや紅茶、ココアが定番だと思います。これらの飲み物にはカフェインが含まれています。カフェインは副腎疲労を助長します。カフェインには覚醒作用もあるので、朝または昼に、少なめに摂取するのがいいでしょう。できれば、カフェインレスのルイボスティーや麦茶を飲むことをおすすめします。
免疫力が低下している人は、体温が下がっている(35℃台)ことが多いため、体温を上げる目的で朝と昼にココアを一杯ずつ飲んでいただくことは、私もおすすめしています。その場合、砂糖が入っていない純ココアとゼロカロリーのガムシロップ、アーモンドミルクを使うことで、カゼインフリーとシュガーフリーをクリアできます。体温を上げる目的とはいえ、1日に10杯以上のココアを飲むことは控えましょう。
私がすすめる食事療法は、新型コロナウイルスはもとより、あらゆる病気の予防につながるものです。あなた自身の体を守るために、ぜひ今日から実践していただきたいと思います。
藤田亨先生が診療されている皿沼クリニックの連絡先は、〒123-0862 東京都足立区皿沼1-5-8 ☎03-5837-2162です。