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腎機能維持には腸内環境と高血糖対策が大切

糖尿病・腎臓内科

東洋医学研究所附属クリニック医師 川嶋 朗

ワクチン接種後もコロナ対策は大切で腎臓病の患者さんはマスク着用法に注意

[かわしま・あきら]——1983年、北海道大学医学部卒業。医学博士。東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長、同大学附属青山女性・自然医療研究所自然医療部門准教授を経て、現職。東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授を兼務。著書に『冷えとりの専門医が教える 病気を防ぐカラダの温め方』(日東書院本社)など多数。

新型コロナウイルス感染症の流行で、私たちの生活は大きく変わりました。新型コロナウイルスワクチンの接種が開始され、すでに接種を終えている人もいることでしょう。とはいえ、ワクチンは発症予防効果が期待されているものの、感染を防ぐ効果についてはまだ分かっていません。ワクチンの効果が長期的に続くかどうかの見通しもまだ立っていないため、当面は引きつづき、マスクの着用や消毒、三密を避けるなどの対策を取るべきでしょう。

すでに一般的になっているマスクの着用は、飛沫(ひ まつ)の拡散予防には有効な手段です。ところが、夏の猛暑の中で着用を続けるのは危険が伴います。マスクの常時着用は、着用していない場合と比べると、心拍数や呼吸数、血中の二酸化炭素濃度、体感温度の上昇など、体に負担がかかることがあります。高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症になるおそれもあるので注意したいものです。

暑い毎日が続く夏は、(まん)(せい)(じん)(ぞう)(びょう)の患者さんにとって特に注意が必要な季節です。慢性腎臓病とは、慢性的に腎機能が低下している腎臓病の総称です。主なものに、近年になって患者数が増えている糖尿病性腎症をはじめ、IgA腎症などの(まん)(せい)()(きゅう)(たい)(じん)(えん)、高血圧による腎障害(腎硬化症)などが挙げられます。慢性腎臓病が進行して末期腎不全に至った患者さんは、(とう)(せき)治療(人工透析)や腎移植が必要になります。

腎機能が低下すると、水分や塩分、老廃物が(はい)(せつ)されにくくなります。そのため、ある程度進行した慢性腎臓病の患者さんは、水分の摂取制限を指導されます。しかし、夏の暑さから脱水症状を起こして体内の血液量が少なくなると、腎臓に送られる血液の量も少なくなります。脱水症状が長く続くと、尿量が減って尿毒素が体内で増加するため、慢性腎臓病が進行する危険度が高まります。

マスクは保湿効果があるため、のどの渇きが感じにくくなるおそれがあります。マスクの着脱をめんどうに感じて、こまめにとるべき水分補給の回数も減りがちです。加えて、コロナ()の感染予防で外出機会が減ったことで、水分を保つ役割のある筋肉の量が減少してしまい、脱水が起こりやすくなる可能性があります。

コロナ禍の対策としてマスクを着用するときは、強い負荷がかかる運動や作業を避け、のどが渇いていなくてもこまめな水分補給を心がけましょう。また、周囲の人との距離が十分に取れる場所にいるときは、マスクを一時的に外して休憩することも必要です。

夏は暑さによる発汗から、慢性腎臓病が悪化しやすくなる季節です。腎機能を維持するために、脱水症状は避けなくてはいけません。医師の指導を守りながら、一度に大量の水を飲むのではなく、少量の水をこまめに飲むようにして水分摂取を意識しましょう。

慢性腎臓病の対策が遅れがちになるのは、発症の初期にはほとんど自覚症状が現れないからです。むくみや倦怠感(けん たい かん)といった、腎機能が低下しているサインが現れたときは、すでに進行した状態にあることが少なくありません。

糖尿病腎症の患者さんは脱水を防ぐ水分補給の質も大切で清涼飲料水には要注意

慢性腎臓病の患者さんに自覚症状が現れにくい理由の一つとして、腎臓の構造が挙げられます。腎臓を構成する糸球体と尿(にょう)(さい)(かん)を合わせて「ネフロン」と呼びます。一つの正常な腎臓には、約100万個のネフロンがあるとされています。ある程度の数が破壊されても残りのネフロンが機能をカバーするため、慢性腎臓病はほとんど無症状で進行していくのです。自覚症状が現れるようになるのは、腎機能が30%以下になってからといわれています。

慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合です。

①たんぱく尿検査で1+以上
②糸球体ろ過量(GFR)が60未満

たんぱく尿の検査は、腎臓のろ過機能をつかさどっている糸球体の機能が正常かどうかを調べるものの一つです。糸球体の毛細血管に異常があると、本来ならば体内にとどまるべきたんぱく質が尿中に漏れ出てしまいます。

たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階があります。正常範囲は「-」「+-」で、「+」の数字が大きくなるほど、尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、糸球体のろ過機能がより大きく損なわれていることを示しています。

糸球体のろ過量とは、1分間にすべての糸球体によってろ過される(けっ)漿(しょう)量のことです。血漿とは、血液中の血球成分である赤血球、白血球、血小板を除いた液体成分のことです。糸球体ろ過量の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとに推測する計算法を用いて、推算糸球体ろ過量(eGFR)を算出します。

クレアチニンとは、筋肉中の成分が代謝されてできる老廃物の一つです。体にとって不要な物質であるクレアチニンは、たんぱく質とは逆に、一定の量が常に尿として排泄されなければならないものです。クレアチニンが正常に排泄されているかどうかの指標が、糸球体ろ過量です。

腎臓には左右合わせて約200万個もの糸球体があり、血液を1分間に約1㍑ろ過している。ろ過の過程で作られる尿のもと(原尿)は必要に応じて再吸収され、体に不要な物質が尿として排泄される

慢性腎臓病の病期は、推算糸球体ろ過量によって、G1~G5までの六段階に分けられます(G3はaとbに区分け)。糸球体ろ過量を調べるには複雑な計算が必要ですが、日本腎臓学会が作成した「糸球体ろ過量早見表」を用いて性別・年齢・クレアチニン値を当てはめれば、腎機能の状態を知ることができます。

慢性腎臓病の進行を抑えたり遅らせたりするには、自己管理が大切です。ところが、食事制限をはじめ、慢性腎臓病の管理は患者さんにとって難しいものが多く、その多くは医師や栄養士との綿密な連携が必要となります。その一つが、先に挙げた脱水症状にも関係する水分の管理です。

慢性腎臓病の患者さんは、脱水症状だけでなく、摂取する水分の質にも注意する必要があります。健康な人であればスポーツドリンクなどで水分を補給しても問題ありませんが、慢性腎臓病の患者さんはそうはいきません。

慢性腎臓病の患者さんが水分補給をする際に注意したいのは、糖質です。近年、慢性腎臓病の最大の原因として糖尿病が挙げられています。実際に、新規に人工透析を受ける患者さんの約四割は糖尿病が原因で、その数は12万人に上ります。

糖尿病で高血糖の状態が慢性化すると、動脈硬化(血管の老化)が全身で起こるようになり、特に細い血管は比較的早期に機能が失われます。細い血管の(かたまり)ともいえる腎臓は、高血糖の影響を受けやすいのです。

糖尿病が原因で起こる腎臓病を、糖尿病性腎症といいます。糖尿病性腎症の患者さんは、腎臓病だけでなく糖尿病の管理も必要になります。腎臓病の食事はカロリーが不足しがちなため、カロリー摂取の手段として糖質の多い清涼飲料水を飲むのは有効です。しかし、糖尿病性腎症の患者さんは、清涼飲料水の摂取によって急に血糖値が上昇することを可能な限り控えなければなりません。

糸球体ろ過量早見表

【早見表の見方】
腎臓のろ過機能は、性別・年齢・血清クレアチニン値から算出する推算糸球体ろ過量(eGFR値)から推測できます。eGFRは腎臓の糸球体が1分間にろ過できる血液量です。eGFRの数値が60以下の場合は腎機能の低下が疑われます。

腎機能が低下している患者さんの水分補給はカリウムが少ないルイボスティーがいい

糖質に加え、カリウムの摂取にも注意が必要です。腎機能が低下している場合、カリウムを十分に排泄できなくなります。体に蓄積したカリウムは、不整脈などの原因となります。カリウムが多い野菜は細かく刻み、「ゆでこぼし」をして調理しましょう。カリウムは水溶性のため、煮たりゆでたりすると水に溶け出し、摂取量を減らすことができます。

カリウムは飲み物にも多く含まれるため、注意が必要です。特に(ぎょく)()抹茶(まっちゃ)などの緑茶はカリウムの含有量が多いので避け、代わりに麦茶や玄米茶を飲みましょう。私がおすすめしたいのが、ルイボスティーです。ルイボスティーは、活性酸素の害を防ぐ抗酸化作用の高いお茶です。少量のカリウムが含まれていますが、制限量の範囲内で飲めば、健康にいい影響を与えてくれるはずです。

また、果物を摂取することは健康や美容にいいイメージがありますが、果物の中には糖質とカリウムが多く含まれているものが少なくありません。腎機能がかなり低下している慢性腎臓病の患者さんは、医師や栄養士と相談しながら食べるようにしてください。

暑い毎日が続いています。熱中症を避けるためにエアコンは欠かせませんが、冷気によって体が冷えると血流が悪くなってしまい、腎機能に影響を及ぼします。

エアコンを効かせた室内では、湯たんぽが役立ちます。湯たんぽは腎臓の位置に直接当てるのではなく、冷えを感じる部位に当てましょう。冷えている箇所がじんわりと温まってくれば、全身の血流がよくなり、腎臓にも十分な血液が行き渡るようになります。