帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
髪が抜けて、最終的に頭皮が露出した状態になることを「脱毛症」といいます。「毛が抜ける」といっても、新陳代謝によって抜ける髪なら問題はありません。例えば、毛髪の数を10万本とすると、毎日70~80本は自然に抜ける生理的脱毛です。その範囲を超えると脱毛症と呼ばれます。
脱毛症は女性よりも男性に多く見られる症状で、日本人の男性では50代以降の約4割に認められるといわれています。
ひと口に脱毛症といっても、以下のように、さまざまな種類があります。
● 男性型脱毛症
前頭部から頭頂部にかけて、徐々に薄毛が広がっていく症状です。日本人男性の発症頻度は、全年齢平均で約3割といわれています。
● 円形脱毛症
円形の脱毛斑が単発または複数に及ぶ脱毛症です。発症は突然起こることが多く、再発を繰り返すこともあります。原因として、毛根を自身の免疫が攻撃する「自己免疫」によって発症するといわれています。
円形脱毛症は自然に治ることもありますが、進行すると毛髪全体が抜ける場合もあります。特にストレスとの関係も指摘されています。
● 薬剤性脱毛症
抗がん剤などを使用することで起こる脱毛。毛髪全体が脱毛します。
● 脂漏性脱毛症
頭皮における皮脂の増加や刺激物の大量摂取などが原因で起こる脱毛症。前頭部から頭頂部にかけて脱毛が多く見られます。
● ホルモンの分泌異常による脱毛症
甲状腺機能低下症やバセドウ病など、ホルモン異常によって発症する脱毛症。そのほか、出産後に発症する脱毛症もあります。
● 栄養障害などによる脱毛症
不適切なダイエットなどによる食事制限も脱毛の原因になります。毛髪に栄養が行き届かなくなって起こる脱毛症ですが、栄養状態がよくなると回復します。
● 脱毛狂(トリコチロマニー)
若年層に多く起こる脱毛症で、髪の毛を引っ張る癖から起こります。ストレスなどの心理的要因が原因とされ、髪の毛を引っ張る癖を治すと回復します。
ほかにも最近では、新型コロナウイルスのワクチンと脱毛症との関連性が指摘されています。例えば、西日本に住む28歳の女性が、1回目の新型コロナウイルスのワクチン接種後に自身の頭髪が抜けたという報告があります。
この女性は、ワクチン接種2日後から脱毛量が増え、1週間後には円形脱毛斑が3つ現れたそうです。1ヵ月後になると、頭頂部の皮膚がほとんど見える(バーコード状)までに脱毛が進行したと報告されています。
先に解説したように、円形脱毛症は「自己免疫疾患」によって起こることも分かっています。この女性の主治医によると、ワクチンの接種によってなんらかの形で免疫暴走が起こり、自身の体を攻撃した結果として脱毛症を生じた可能性が考えられるとのことでした。最近の研究では、新型コロナウイルスのワクチン接種後の副反応として、女性は男性の3倍も脱毛症になりやすいことが分かってきました。今後の研究により、さらなる解明が待たれます。
そこで今回は、脱毛症に効果のあるツボを2つご紹介します。「百会」は、指全体の指腹を使って頭皮全体を刺激します。頭皮の「タッピング」を行ってみましょう。20本程度の爪楊枝を束にして輪ゴムで巻きつけ、先端をつぶしてから頭皮を優しくタッピングします。また、ボールペンの後ろの部分を使って頭皮を刺激してもいいでしょう。頭皮の部分が発赤(ピンク色)すれば適度な刺激です。頭皮をマッサージする「ヘッドスパ」も有効です。
もう1つのツボである「天柱」には、両手の親指で天柱のツボを押しながら首を後ろに倒して刺激しましょう。親指全体(指腹)で押し当て、2本の太い筋肉の外側のくぼみを刺激します。百会・天柱ともに5秒間刺激します。これを5回、計3セット行ってください。ツボを押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。
● 由来
【百会】「百」は多種多様、「会」は会うという意味。頭頂部に位置する百会は、それぞれの経絡(気の流れ)が交差しているツボであることから名づけられました
【天柱】「天」は頭を指し、「柱」は支えるという意味。ツボの位置が、ちょうど頭を支える重要な場所にあることから名づけられました
● 効能
【百会】脱毛、頭痛、痔(脱肛)、めまい、耳鳴り、鼻閉、不眠など
【天柱】脱毛、頭痛、眼精疲労、咽喉部痛、鼻閉、肩こりなど