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冬に要注意の帯状疱疹について専門医が解説

皮膚科

かわたペインクリニック院長 河田 圭司

急増中の帯状疱疹は激しい痛みが一生残る危険もある怖い病気で50代以降に多く発症

[かわた・けいじ]——1964年、奈良県生まれ。医学博士。1990年、近畿大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院麻酔科学教室に勤務。2001年、済生会中和病院麻酔科医長。2003年から現職。2009年、心療内科を併設。〝日常的な軽い痛みから難治性の痛みまで、さまざまな痛みを治療する"をモットーに、患者さんの痛みに向き合っている。日本ペインクリニック学会、日本麻酔科学会認定専門医。

ペインクリニックは、患者さんを苦しめるさまざまな〝痛み〟を取り除くことを目的とする医療機関です。私のクリニックには、痛みに苦しむ患者さんが毎日100人以上来院されています。私のクリニックにおいて近年患者さんが急増しているのが帯状疱疹(たいじょうほうしん)で、来院理由の第3位になっています。

帯状疱疹は、主に体の片側に赤い発疹(ほっしん)が帯状に広がり、チクチクとした強い痛みが起こる疾患です。帯状疱疹の原因は、子どもの頃に感染した水痘(すいとう)(水ぼうそう)ウイルスで、水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体内の神経節(神経の中継所)に潜伏しています。加齢や過労、過剰なストレス、病中病後などが原因で免疫力が低下すると、ウイルスが活発化して帯状疱疹が発症します。

悪化すると服が触れるだけでも痛みが起こる帯状疱疹ですが、通常は発症から3週間~1ヵ月程度で皮膚症状は治まります。帯状疱疹のやっかいな点は、皮膚症状ではなく痛みが残ってしまう点にあります。

帯状疱疹の痛みが残ると、数ヵ月から数年にわたって激痛が続く場合もあります。患者さんによっては、「繰り返される刺すような痛み」「火ばしで焼かれるような痛み」と表現される激痛が一生続くこともあるのです。かつては、帯状疱疹の発症前後の痛みと後遺症の痛みを区別していましたが、時期と痛みの境界が曖昧なことから近年では「帯状疱疹関連痛(ZAP)」と総称するようになっています。

帯状疱疹の治療は、脳に〝痛みグセ"がつく前の早期の段階から受けることが大切

2017年に発表された宮崎県皮膚科医会が行っている「宮崎スタディ」という疫学調査によると、帯状疱疹の患者数は21年間で54.5%も増加。発症率が68.1%も上昇しているのです。帯状疱疹の患者数と発症率は50歳以上から急増し、男女ともに60代が多くなっています。

痛みは、体に起こった異常を知らせる警告反応といえます。ところが、痛みが慢性化すると自律神経のバランスが乱れて血管が収縮します。その結果、血流が悪くなり、痛みを発生させる物質の排出が滞ったり、発生を促したりする悪循環が生まれます。つらい痛みは、脳に痛みの記憶として残ります。不安や怒りといった悲観的な感情が起こるたびに、脳に残った痛みの記憶が引き出されてしまうのです。私が〝痛みグセ〟と表現する痛みの記憶が、患者さんの生活の質(QOL)をより低下させてしまうのです。

〝痛みグセ〟を残さないためには発症から1ヵ月以内の適切な治療が何より重要

河田医師は、〝痛みグセ"がつかないように早期に治療することが大切だと話す

帯状疱疹は痛みグセがつく前に早期に治療を受けることで、症状の悪化を抑えることができます。帯状疱疹の発症から1ヵ月以内にどれほど痛みを軽減できるかが重要なのです。

私のクリニックでは、帯状疱疹の患者さんに抗ウイルス薬での治療とともに、発症から2週間~1ヵ月以内に鎮痛薬と神経ブロック注射での治療をおすすめしています。局所麻酔によって神経の働きを一時的に休めることで、痛みグセの発生を防ぐのです。

多くの帯状疱疹の患者さんに処方される鎮痛薬のリリカは、鎮痛作用があるだけではありません。脳内に痛みを伝える神経伝達物質が過剰に放出されるのを抑える働きもあります。

帯状疱疹の痛みがつらいからといって患部を冷やすのは逆効果です。血流が悪くなり、痛みがより悪化してしまいます。帯状疱疹に限らず、冬は冷えによって慢性的な痛みが悪化しやすい季節といえるでしょう。

家庭でできる帯状疱疹関連痛の対策として、患部を温めることをおすすめします。体を温めることによって血液の流れが改善されると、痛みが和らぎます。全身を温める入浴は、帯状疱疹関連痛を軽減するのに効果的な方法といえるでしょう。

痛み対策として、趣味を楽しむことも有効な方法です。趣味に熱中して痛みのことを考えない時間を持つことで、脳内に痛みグセが生まれにくくなります。包帯やサラシを患部に巻いてから衣服を着るなど、皮膚への刺激を減らすことも痛みグセをなくす手段としていいでしょう。

帯状疱疹の痛みがつらいからといって、運動を控えることはおすすめしません。運動によって血流がよくなることは痛みの緩和やストレスの軽減につながります。悲観的な感情や思考を持ちやすい人は、痛みを感じやすいといわれています。痛みに対するストレスを減らすためにも、運動や睡眠の時間は十分に取るようにしましょう。

帯状疱疹を防ぐのに有効な対策として、2016年から日本でも導入されたワクチンの接種が挙げられます。欧米ではワクチンによって帯状疱疹の発症率が下がり、重症化も抑えられて帯状疱疹関連痛の患者数が減少したという報告があります。特に帯状疱疹を発症しやすい中高年世代は、ワクチンによる予防を検討するといいでしょう。