帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
「眠ろうと思っても眠れない」「ぐっすり熟睡できない」という経験を、多くの方が持っていると思います。特に心配ごとがあるときや大事な試験の前、旅行や出張先など、環境の変化が原因となって不眠に陥ることがあります。
寝つきが悪い(入眠障害)、眠りが浅く、途中で何回も目が覚める(中途覚醒)、早朝に目が覚める(早朝覚醒)、眠ってはいるが熟睡感がない(熟眠障害)などの睡眠障害が1ヵ月以上続き、日中の倦怠感や意欲・集中力の低下、食欲不振などの症状もあれば「不眠症」と診断されます。
厚生労働省の報告によると、現代人の5人に1人が「寝ても疲れが取れない」「なんらかの不眠トラブルを感じている」と回答しています。また、加齢とともに不眠に悩む人は増加傾向にあり、60歳以上の3人に1人が不眠で悩んでいるのです。
不眠の原因には、高血圧・心臓病・気管支ぜんそくなどの呼吸器疾患・慢性腎臓病・前立腺肥大(頻尿)・糖尿病・関節症(関節痛)・アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患(皮膚のかゆみ)をはじめ、脳出血や脳梗塞といった重篤な病気が隠されている可能性もあります。また、最近注目されている「睡眠時無呼吸症候群」などは、突然死を招く場合もあります。不眠の原因としてこのような症状や病気が考えられる場合は、専門医に診てもらうことが賢明です。
これらの病気以外で不眠の原因となるのは、ストレスが最も多いとされています。そこで今回は、不眠に効果のあるツボとして「百会」「完骨」という2つのツボをご紹介します。
慢性的な不眠に悩まされている人は、頭部全体に力がなく、頭皮がぶよぶよしています。睡眠不足が続くと頭皮の弾力が弱くなり、親指で「百会」周囲を押すと親指の形が頭皮にそのまま残ってしまうほど戻りが悪くなっています。
このような状態のときは、頭皮の「タッピング」を行ってみましょう。20本程度の爪楊枝を束にして輪ゴムで巻きつけ、先端をつぶしてから頭皮を優しくタッピングします。また、ボールペンの後ろの部分を使って頭皮を刺激してもいいでしょう。頭皮の部分が発赤(ピンク色)すれば適度な刺激です。頭皮をマッサージする「ヘッドスパ」も有効です。
もう1つのツボである「完骨」への刺激は、耳の後ろにある少し飛び出た骨(乳様突起)の下端のくぼみ部分を、親指で反対の目の方向に向けて力強く押し上げてください。刺激された際に、ズーンとした感覚が得られると思います。5秒で5回を1クールとして、3クール続けて完骨への刺激を行いましょう。押す力は、親指の爪の色が白くなる程度が目安です。
不眠に関するツボ刺激以外の対処法もご紹介しましょう。
● 就寝・起床時刻を一定にする
睡眠覚醒は体内時計で調整されています。平日・週末に関係なく、同じ時刻に起床と就寝を習慣づけることが大切です。
● 太陽の光を浴びる
太陽光などの強い光は、体内時計を刺激する働きがあります。早朝に太陽光を浴びることで、夜に寝つく時刻が自然と早まり、朝も早く起きられるようになります。
● 適度な運動をする
適度な肉体的疲労は、心地いい眠りを生み出してくれます。運動は、午前よりも午後に軽く行い、汗ばむ程度の運動量が効果的です。ウォーキングなどの有酸素運動がおすすめです。
● ストレスを解消する
音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分のライフスタイルに合った趣味を持ち、毎日を楽しみましょう。気分転換を図り、ストレスをためないようにすることが不眠の解消につながります。
寒い毎日が続きますが、温かい布団やベッドの中でぐっすり眠るのは、とても気持ちがいいものです。百会・完骨の正しいツボ刺激を実践して、質のいい睡眠を手に入れましょう。
● 由来
【百会】「百」は多種多様、「会」は会うという意味。頭頂部に位置する百会は、それぞれの経絡(気の流れ)が交差していることから名づけられました
【完骨】耳の後ろにある飛び出た骨を乳様突起といいます。乳様突起は「完骨」とも呼ばれることから名づけられました
● 効能
【百会】頭痛、痔(脱肛)、めまい、耳鳴り、鼻閉、不眠など
【風門】頭痛、不眠、顔面神経痛、耳痛、歯痛など
● 押し方
適度な刺激は爪の色が白っぽくなる程度。親指を5~6回ほど回転させながら、心地いい圧で押しましょう