スクエアクリニック副院長 本間 龍介
副腎は50種類以上のホルモンを分泌する重要な臓器で過度なストレスで機能が低下
副腎という臓器の名前を聞いたことはあるでしょうか。副腎は約2~3㌢大の小さな三角形をした臓器で、体の左右にある腎臓の上に乗っているように存在します。腎という言葉が含まれる副腎は、腎臓の仲間、もしくはその一部と思われがちですが、腎臓とは関係のない独立した臓器です。
副腎が本来の機能を正常に果たせなくなることで起こるのが「副腎疲労」です。私たちが夫婦で運営しているスクエアクリニックは、日本で初めて副腎疲労の専門外来を開いた医療機関です。きっかけは、私自身が重度の副腎疲労を患ったことにあります。
副腎疲労の主な症状として、強い全身の疲労感や意欲の低下、不眠症といったうつ病に似た症状が挙げられます。私が副腎疲労を患ったのは、中学生のときでした。医師になってからは、副腎疲労の状態はよりいっそう深刻になり、休職を余儀なくされるほどでした。「うつ病」と診断された私には、抗うつ剤が処方されましたが、毎日服用しても症状は悪化するばかりでした。
当時の私の体には、いったい何が起こっていたのでしょうか。まずは、副腎の働きから解説しましょう。
副腎は、生命を維持するために欠かせない50種類以上ものホルモンを分泌している重要な臓器です。小さな三角形の副腎は2層構造で、外側は副腎皮質、内側は副腎髄質に分かれています。副腎皮質からはコルチゾールを中心に、アルドステロンやDHEAといったホルモンが分泌されています。副腎髄質からはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのホルモンが分泌されています。副腎はこれらのホルモンが体内で適切な量に保たれるように、絶えず調整をしています。
副腎が分泌するホルモンの中で最も重要といえるのが〝ストレスホルモン〟といわれるコルチゾールです。ストレスを感じた体は、みずからを守るために血圧や血糖値を上げて危機に備えようとします。コルチゾールはいわば、私たちがストレスと“闘う体”になるためのホルモンです。
ひと口にストレスといっても、多くの人が考える精神的なストレスだけではありません。大気汚染や食品添加物、気温や気圧の変化、持病や感染症など、心身に悪影響を及ぼすすべてが該当すると考えていいでしょう。
コルチゾールは、体にストレスがかかると副腎から分泌され、血液の流れに乗って全身へと運ばれます。血圧や血糖値のみならず、免疫機能や神経系の調整も行うことで、ストレスに対抗する体にしてくれるのです。
体にかかるストレスが多い人は、コルチゾールが過剰に分泌されています。その状態が続くと副腎は疲労し、必要なときに十分な量のコルチゾールを分泌できなくなってストレスと闘えなくなります。この状態が副腎疲労です。
ストレスが許容範囲を超えている副腎は、さらに疲弊することを避けるために全身の活力や意欲を奪うようになると考えられます。私が苦しんでいた全身の倦怠感やうつ状態は、副腎疲労の進行を抑えるために副腎みずからが取っている緊急処置といえます。
さらに、副腎疲労の状態になると、副腎から分泌されるべき50種類以上のホルモンにも悪影響を及ぼします。副腎疲労は性欲の減退をはじめ、女性の場合はPMS(月経前症候群)や更年期障害などの症状にもつながります。さらに、生活習慣病や花粉症などのアレルギー症状、橋本病やバセドウ病といった自己免疫疾患を引き起こす危険度も高まってしまうのです。
副腎をいたわるには腸内環境の向上も重要でカビのエサになる糖質を減らすといい
副腎の負担を減らすためには、精神的なストレスの軽減はもちろん、腸の炎症を抑えることが大切です。特に注意したいのが、腸にすむカンジダ菌というカビの一種の存在です。常在菌の1つであるカンジダ菌は健康な人の腸内にもすみついていますが、カンジダ菌が増えた腸内では炎症が起こるようになります。体の危機を感じた副腎はストレスに対抗しようとコルチゾールを分泌し、その状態が長く続くと副腎疲労が起こってしまうのです。
副腎の負担を軽くするには、腸内環境を適切に保つことが大切です。カンジダ菌は糖質をエサとしています。お菓子はもちろん、炭水化物をとりすぎないようにしましょう。特に、小麦には注意が必要です。小麦を摂取すると、腸管壁を破壊する物質が過剰に分泌されることが分かっています。炭水化物の摂取には小麦を使ったパンやパスタではなく、日本人に適したコメを中心にしましょう。
残暑や運動不足も、体にとってみればストレスの1つです。糖質を控えた食事とともに、心のストレスをためすぎない生活を送って副腎をいたわるようにしましょう。