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世界唯一!摂取できる〝新しいビタミンC〟の普及がライフワークです

ニッポンを元気に!情熱人列伝

県立広島大学名誉教授 武藤 徳男さん

体の中でビタミンCに変わる〝世界で唯一〟の摂取できる誘導体を開発

[むとう・のりお]——1949年、三重県生まれ。大阪大学薬学部卒業後、同大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。岡山大学薬学部助手、大阪大学薬学部助教授、県立広島大学生命環境学部教授、広島修道大学健康科学部教授を歴任し、現在は県立広島大学名誉教授。専門分野は細胞機能学、免疫学、食品科学。体内でビタミンC(アスコルビン酸)に変換される「安定型ビタミンC誘導体(アスコルビン酸2‐グルコシド)」の発明に関わり、普及に尽力している。

県立広島大学名誉教授で薬学博士の武藤徳男(むとうのりお)さんは、大阪大学や岡山大学、県立広島大学で食品が持つ機能性の研究を続け、特に県立広島大学では、学部長や副学長の要職も務めながらの研究だったと振り返ります。

「県立広島大学では、地元産のレモンを研究して地域振興に努めました。レモンには健康維持に欠かせないビタミンCが豊富に含まれています。料理研究家の先生と一緒に考案した発酵レモンのレシピが話題となり、地元のレモン農家さんたちが活気づくきっかけになりました」

レモンの取材ではビタミンCの働きについて解説することが多いという武藤博士。メディアで〝ビタミンC博士〟と呼ばれる背景には、ビタミンCに関する世界初の発明があるからです。

「私が発明に携わったのは、体の中に入って初めてビタミンCに変わる『安定型ビタミンC誘導体』と呼ばれる物質です。ビタミンCは、ほかのビタミン類や栄養素と比べて熱や光、空気などで壊れやすく、特に水溶液(中性)中で不安定になる短所があります。安定型ビタミンC誘導体はこの短所を解消し、ビタミンCの長所だけを得られる世界唯一の摂取できる物質です」

多くの人に知られるビタミンCの作用として抗酸化作用が挙げられます。私たちの体は、呼吸から取り入れた酸素のうち、一部が活性酸素として体内で生じます。活性酸素が過剰になると正常な細胞にも悪影響を及ぼすため、ビタミンCをはじめとする抗酸化物質を積極的にとることが必要とされています。

「ビタミンCは、血液中に存在する尿酸やビリルビン、α(アルファ)‐トコフェロールといったほかの抗酸化物質よりも先に抗酸化作用を発揮して活性酸素の除去に働きかけます。特に高齢者は活性酸素を除去する能力が低下しているので、先に挙げたレモンのほか、パプリカやブロッコリーといったビタミンCが含まれる食品を積極的にとっていただきたいと思います」

武藤博士いわく、食事からビタミンCをとることが難しい場合は、サプリメントからの摂取も有効とのこと。ただし、構造の不安定さと壊れやすさから、製造や流通、保管の環境によっては、店頭に並んだ時点ですでにビタミンCの構造が壊れているおそれもあると警鐘を鳴らします。特に、液状に加工されたビタミンCの製品は構造が壊れやすいそうです。

武藤博士らの研究チームが開発した安定型ビタミンC誘導体は、ビタミンCの短所を克服した〝新しいビタミンC〟といえる画期的な食品です。どのようなビタミンCなのでしょうか。

武藤博士らが開発した安定型ビタミンC誘導体は、長時間にわたって血中濃度を高く維持できる。
出典:岡山大学の研究結果より作成

「従来のビタミンCは、熱・酸素・光・水に触れると容易に壊れてしまう性質があります。さらに、ビタミンCの摂取後はすみやかに血中濃度が上がりますが、そのビタミンCは尿中にも排泄(はいせつ)されるため、血中濃度は比較的速く低下してしまうのです。私たちが開発した安定型ビタミンC誘導体は、物質として壊れにくい安定性があるだけでなく、体内に入ってからゆっくりとビタミンCに変わっていくので、長時間にわたって高い血中濃度を維持できます」

この安定型ビタミンC誘導体は、ビタミンCにブドウ糖の一分子が酵素の力で結合しています。安全面の心配もなく、2004年に厚生労働省から食品添加物として承認されています。

「専門的な話になりますが、ビタミンCの分子には壊れやすい(反応性に富む)特殊な構造上の部位があります。安定型ビタミンC誘導体は、その部位にブドウ糖を結合させることで壊れにくい分子構造になっています。体内に入った安定型ビタミンC誘導体は、腸管に届いた時点でブドウ糖が切り離されて特殊な部位を守る役目を終えます。その後、ブドウ糖と切り離されたビタミンCが吸収されて、生理活性作用を発揮するしくみです」

ビタミンCの濃度が高い臓器を酷使する人こそビタミンCの補給が必要

安定型ビタミンC誘導体を摂取すると、どのような効果が期待できるのでしょうか。

「ビタミンCの歴史をひもとくと、通説としてのルーツは15~17世紀の大航海時代にさかのぼります。イギリスやスペイン、オランダといったヨーロッパの国々が覇権を争っていた当時、長期間の航海中に体調を崩して、現在でいうところの壊血(かいけつ)(びょう)に苦しむ兵士が続出しました。原因が分からなかった中、18世紀になって航海中にレモンをかじることで体調を維持できることが広まり、ビタミンCの発見につながったとされています」

その通説を裏づける事実を武藤博士は指摘します。ビタミンCは化学用語でアスコルビン酸(ascorbic acid)と呼びますが、「抗(anti)壊血病(scorbutic)の酸性物質(acid)」という組み合わせから作られています。当時の人はビタミンCを壊血病対策の画期的な栄養素として考えていたことがうかがえます。

「壊血病は、血管を作るコラーゲンが不足して血管が弱くなる病気です。ビタミンCは抗酸化作用だけでなく、血管や皮膚、骨をはじめ、体を支える組織を構成しているコラーゲンを合成する働きもあります。血管の状態は健康維持の(かなめ)ですから、生活習慣病などで血管の健康に不安がある方は、特にビタミンCを摂取していただきたいです」

武藤博士はビタミンCの短所を克服した安定型ビタミンC誘導体の普及を図っている

ビタミンCの働きは抗酸化作用やコラーゲンの合成・維持作用以外にも、鉄の吸収促進や骨形成、免疫の増強、細胞の増殖促進、ウイルスの不活化など多岐にわたります。武藤博士は、抗酸化作用だけが強調されがちなビタミンCを、全身の健康維持の土台になる〝生体調節物質〟ととらえています。

「生体調節物質としてのビタミンCは、高濃度に保たれている臓器や器官を知ることで、その存在意義をより深く知ることができます。私たちが行った動物実験で、臓器中のビタミンC濃度(臓器1㌘当たり)を比較したところ、群を抜いてビタミンCが高濃度に保たれている臓器が副腎(ふくじん)でした。次が脳下垂体(のうかすいたい)で、(きょう)(せん)、脳、脾臓(ひぞう)と続きます」

副腎は腎臓の上にある小さな臓器で、副腎皮質と副腎髄質(ずいしつ)に分けられます。副腎皮質からは副腎皮質ホルモン(ステロイド)のコルチゾール(抗ストレスホルモンとも呼ばれる)やアルドステロン(ミネラル代謝)、副腎髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンなどが分泌(ぶんぴつ)されています。これらのホルモンの生合成にもビタミンCは関わっています。

「人間の副腎には、血中濃度の約100倍ものビタミンCが含まれているといわれています。副腎は小さな臓器ですから、ビタミンCの貯蔵庫というよりも、臓器が機能を正しく果たすために多くのビタミンCを必要としていると考えるべきでしょう」

副腎はコレステロールを材料に性ホルモンも作っています。性ホルモンの生成にもビタミンCは欠かせないことから、武藤博士はホルモン不足によって発症するさまざまな疾患の予防も、ビタミンCによってかなえられると期待を寄せています。

「高齢者に起こりやすい目の病気の一つに、加齢や紫外線などによって(すい)(しょう)(たい)内のたんぱく質(クリスタリン)が酸化し、白濁する白内障があります。目に栄養を届けるために眼球内を循環している房水(ぼうすい)という液体には、血中濃度の20~50倍という高濃度のビタミンCが含まれています。ある疫学(えきがく)調査では、ビタミンCを意識してとったグループは、とらなかったグループより白内障の発症率が低かったという研究結果があります」

そのほか、武藤博士は脳下垂体や卵胞(らんぽう)液の中にもビタミンCが高濃度で含まれていることに注目。ホルモン分泌や女性・胎児の健康維持に加えて、さらには認知症の予防にもビタミンCが役立つのではと考えています。

「ビタミンCは多くの生体にとって欠かせない栄養素です。そのため、ほとんどの生体はビタミンCを自分の体内で作り出すことができます。唯一、霊長類(人間を含むサルの仲間)だけがビタミンCを作ることができず、食品から摂取しなければなりません。私たち人類誕生前の祖先も、かつては体内でビタミンCを作ることができたものの、進化の過程で作れなくなり、それを人類が受け継いでいるとされています。ビタミンCを自分で作れなくなったのは退化ではなく、食事によってビタミンCを継続的に摂取できるようになったゆえの進化と考えられています。このように、私たちの体は事実から多くのメッセージを伝えてくれます。脳や目、副腎に高濃度でビタミンCが保たれているのは、これらの臓器や部位が多くのビタミンCを必要としているからです。ストレス過多といわれる現代社会で健康を維持するために、生体調節物質としてのビタミンCに注目していただきたいと思います」

武藤博士は昨年、ユーチューブに『ABL博士チャンネル』を開設し、ビタミンCを解説する動画を配信しています。ビタミンCの存在意義や作用の分かりやすい解説は好評で、時折見せるコミカルな演技にも楽しみながら取り組んでいるそうです。

「かつて多くの大学が大学発ベンチャー企業を立ち上げて、ちょっとしたブームになりました。残念ながらその多くが消えていきましたが、私が代表を務める会社は、小さな規模ながらほんとうのビタミンCの存在意義と価値を知る方々に支えられて生き残っています。健康作りの土台になるビタミンCの存在をより普及させることをライフワークとして活動を続けていきます」

※本文中では本来のアスコルビン酸の働きも「ビタミンC」として表記しています。アスコルビン酸は、ビタミンCとしての限られた作用以外に多くの生態調節機能を発揮します。