株式会社エムアイストーリー代表取締役 坂本 ひろみさん
「ぐっすり眠れない」「長い時間寝ても疲れが取れない」と悩んでいる方はいませんか? 寝具の選択は睡眠の質に大きな影響を与えます。リハビリテーションの水中歩行から得たヒントをもとに開発された「ハンモックピロー」が話題を集めています。
10代から肩凝りと頭痛に悩み、治療を受けても改善しませんでした
「私は長い間、眠れなくなるほどの肩凝りや頭痛に悩まされてきましたが、自分が開発した枕で解消することができました」
そのように語るのは、睡眠の質に悩む多くの人たちから〝睡眠改善の救世主〟と呼ばれている、坂本ひろみさんです。10代の頃からひどい肩凝りと頭痛に悩まされていたという坂本さんは、28歳のときに結婚し、30歳で赤ちゃんを授かったといいます。
「子育ては元気な人でも大変なのに、肩凝りがひどくて常に体がだるい状態だった私には、想像を絶するきつさでした。子どもをおんぶしたりだっこしたりするのがつらくて、接骨院で治療を受けながらの子育てでした」
坂本さんは接骨院に何度も通っていたものの、残念ながら肩凝りの改善効果は得られなかったといいます。38歳のときからは、子育てと母親の介護が重なり、目が回るほど忙しい日が続いたそうです。疲れと心労が重なり、体のあちこちに痛みを感じるようになっていた坂本さんは、40代前半のときに病院で検査を受けると腰椎すべり症と頸椎症が合併していると分かったのです。腰椎すべり症は、積み木のように連なる背骨の腰椎が、前方へ滑り出し、下半身に痛みやしびれを引き起こす病気です。
「担当の先生から、腰椎すべり症の治療法としてプールでの水中歩行を指導されました。実際にプールで水中歩行をしてみると、全身の痛みが和らいでらくになったんです」
体感を得た水中歩行について調べてみると、水の浮力(重力と反対方向に作用する力)が体の負担を軽くしていることが分かったという坂本さん。このときの水中歩行が、後の大発明につながるのです。
「プールで水中歩行を続けながら、いくつもの病院で診てもらっていたのですが、肩凝りや頭痛の原因は分かりませんでした。内科や婦人科、心療内科まで紹介されて治療を受けましたが、改善しなかったんです」
坂本さんは心療内科で診療を受けたとき、精神安定剤を処方されたといいます。精神安定剤の服用によって眠れるようになったものの、立ちくらみやめまい、息苦しさといった薬の副作用に悩まされたそうです。
「薬を服用すると眠ることはできますが〝薬で眠らされている〟という感じが強くて熟睡感は得られません。朝はスッキリと起きられませんし、昼間も眠気に襲われて頭が常にボーッとしていたんです」
ある日、心療内科の医師から「肩凝りがひどくて熟睡できないのは、ストレートネックが原因かもしれません」といわれた坂本さん。ストレートネックとは、本来であれば「く」の字のようにゆるやかにカーブしている首の骨がまっすぐになっている状態です。
「体のしくみを調べてみると、頭の重さは体重の約1割もあることが分かりました。そのすべてを支えているのが首です。ストレートネックの状態では、首に3倍の重さがかかってしまうそうです。首が慢性的に緊張していたから、肩凝りや頭痛が起こっていたんです」
首の負担を減らす方法を考えた坂本さん。「普通に横になってもらくにならない」ことを思い出し、改善法のイメージを膨らませていったといいます。
「水中歩行のように、頭を重力から解放させるにはどうすればいいのかと考えましたが、その方法が見つからない……。そんなときに、リビングにあったイスの足に目が留まったんです」
坂本さんは、家にあったイスの足にスカーフを取り付け、頭をそっと乗せてみたそうです。すると、頭が重力から解放されて全身がらくになり、いつの間にか眠ってしまうほどの心地よさを覚えたといいます。
「スカーフを取りつける位置を変えて何度も試しました。その結果、3カ所からスカーフをつり下げると頭が包み込まれて、最も安定することが分かったんです。特に頭頂部を引き上げることで、首に負担がかからなくなりました。そこで、イスの足ではなく、この発想を生かした枕を実際に作れないかと思ったんです」
心血を注いで研究を重ねた結果、頭を重力から解放させる枕が完成。「ハンモックピロー」と名づけられた枕は、坂本さんが独自に開発した、世界でただ1つの寝具なのです。
ハンモックピローの特長は、頭全体を大きな手で包んで持ち上げられているかのような安定感と、何ともいえない気持ちよさで首の力が抜けることです。ハンモックピローは、木枠に開けられた3点の穴に布とひもを結んで使います。高さや角度は体に合わせて調整でき、首に負担がかからなくなるのです。
「通常の枕では重力の関係で、床と接している頭の部分に集中して重さがかかっています。さらに、頭や体を動かすたびに首の筋肉は伸びたり、縮んだりして首に負担がかかるのです。ハンモックピローを使うと、頭はハンモックに乗ったように空中に浮いた状態になります。通常の枕のように首で頭を支える必要がなくなるので、首の緊張がとれてらくになるのです」
頭を包んで浮かせることで、通常の枕よりも安定感が高まると話す坂本さん。例えば、丸い卵を平らなテーブルの上に置いたら左右に転がり、不安定な状態になります。しかし、3方向からつるされた布の上に置くと、卵は最もバランスがいい位置で安定します。同様の原理で、頭を3方向からつるすと最も安定した状態になるそうです。
「私自身がハンモックピローを使って寝るようになってから、10代の頃から悩まされていた肩凝りと頭痛がまったく起こらなくなりました。高反発や低反発、オーダーメイドなど、ありとあらゆる枕を試してきたのですが、ハンモックピローはまったく次元の違うものだと断言できるんです」
自身のことを、無数の枕を買い替えて枕の山を積み上げてきた〝枕難民〟だったと振り返る坂本さん。いい枕に出合うことを諦めつつあった坂本さんを救ってくれたのは、みずからが開発したハンモックピローだったのです。
「その後、東海大学でハンモックピローの効果を調べてもらえる機会に恵まれたんです。すると、研究していただいた医学博士の高雄元晴教授から驚くほどの研究成果が出されました。ハンモックピローは感覚的な体感だけでなく、数値としても科学的根拠があると確かめられたんです」
ハンモックピローは大学の研究でも睡眠の質を高めると実証
東海大学で行われたハンモックピローの実験では、一般的な枕(ソバガラ枕)と比較して、深睡眠が約1.5倍になることが分かりました。脳が休んでぐっすり眠っている状態のノンレム睡眠は、1~4段階に深さを分けることができ、特に深い3~4の段階の睡眠を「深睡眠」といいます。
さらに、ハンモックピローを一般的な枕と比較した結果、中途覚醒時間や回数が50%以下になることも分かっています。中途覚醒は、睡眠中に何度も目が覚めて、その後もなかなか寝つけない睡眠障害の1で、中高年や高齢者に多くみられます。
「ほかの研究で、ハンモックピローは自律神経の休息を担う副交感神経に働きかけて、リラックス状態にさせることが分かったんです。私の肩凝りと頭痛が改善したのは、ハンモックピローで首の筋肉の緊張が和らぎ、副交感神経が刺激されて全身がリラックス状態になったからだと思いました」
現在、ハンモックピローは横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義医師や、横浜国立大学の関口隆名誉教授から推薦をもらうなど、さまざまな有効性が認められるようになっています。ハンモックピローの安眠作用に対する反響は国内にとどまらず、海外からも高評価を得ているそうです。
「タイとアメリカのニューヨークでハンモックピローを紹介する機会に恵まれたんです。人種や体格によって効果が変わるのではないかと心配しましたが、体験者さんの9割以上から高評価をいただきました。寝返りも問題なくスムーズにできるので、気持ちよく快眠することができます」
ストレートネックが原因で、肩凝りと頭痛に悩んでいた坂本さんを救ったきっかけになったのは、プールで行っていた水中歩行トレーニングでした。自身の体験から誕生したハンモックピローは、坂本さん自身はもちろん、健康不安に悩む世界中の人たちを救う可能性を秘めているのです。