従来、認知症の原因は「アミロイドβ」の蓄積と考えられてきましたが、近年はプラズマローゲンの減少に注目した研究が行われています。今回は、プラズマローゲンによる認知症の予防・改善効果をご紹介します。
アルツハイマー病の患者さんは血中のプラズマローゲンが減少していると判明
私は「脳疲労」という理論を提唱し、研究を続けてきました。脳疲労とは〝脳にストレスが恒常的にかかりつづけることによって、脳の神経細胞が酸化して炎症を起こし、「プラズマローゲン(Pls)」という物質が減少している状態〟のことです。
プラズマローゲンは、人間や動物の体内にある抗酸化物質で、細胞膜におけるイオンの輸送など、重要な役割を果たしているリン脂質の一種です。私は、脳疲労の研究を長年続ける中で、プラズマローゲンが脳細胞の酸化や炎症を防ぎ、脳疲労を改善して認知症を予防・改善することを突き止めました。
認知症の中で最も多いアルツハイマー病の研究は、患者の脳内に異常に蓄積するたんぱく質「アミロイドβ」や「タウ」に関するものが中心でした。しかし、一九九五年に行われたアルツハイマー病患者の脳の解剖で、プラズマローゲンの量が減少していたことが判明。2007年には生存中のアルツハイマー病患者の血液内でプラズマローゲン濃度が低下していることが報告されています。
今後、さらに高齢化が進む中で、認知症は深刻な社会問題になると懸念されています。実際、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる予備軍を含めると、65歳以上の日本人の4人に1人が認知症に該当します。認知症は、患者本人はもちろん、家族にとっても大きな負担になります。
現在、認知症の予防・改善のために、国を挙げて取り組みが行われていますが、満足のいく結果は出ていません。プラズマローゲンは、治療法のない認知症の救世主となる可能性を秘めているのです。
実際に、私たちはホタテ由来精製プラズマローゲンサプリメントを使った試験を行い、認知症に対する効果を確認しています。次に、その試験結果をご紹介しましょう。
私たちは、ホタテ由来精製プラズマローゲンサプリメントを使用して、多施設・無作為に選んだアルツハイマー病と軽度認知障害の患者328人を対象に、24週間にわたって二重盲検試験(実施している薬や治療法などの性質を医師や被験者、スタッフに知らせずに行う試験)を行いました。その結果、ホタテ由来精製プラズマローゲンサプリメントを1日1㍉㌘経口摂取した軽度アルツハイマー病の女性および77歳以下のグループでは、アルツハイマー病の症状である学習記憶障害が有意に減少したのです。この試験結果をまとめた論文は、2017年3月に『Lancet』の姉妹誌である『EBioMedicine』という海外の医学ジャーナルにも掲載されました。
プラズマローゲンを飲んだら認知機能のテストで52%に明らかな改善があった
さらに、中等度と重度のアルツハイマー病患者を対象に実施したオープン試験(被験者がどのグループに割りふられたか、医師や被験者、スタッフがわかっている試験)では、著明な効果が見られました。中等度のアルツハイマー病患者では認知機能テスト(MMSE)の「著明な改善」が31%、「改善」が21%と合計52%に明らかな改善が見られたのです。重度のアルツハイマー病患者では、「著明な改善」はなかったものの「改善」が29%でした(「記憶検査(MMSE)の変化」のグラフ参照)。
ここまでの改善率は従来の認知症薬ではありえないことだと思います。さらに興味深いのは、試験に参加した患者さんにあった、周辺症状の幻覚や抑うつ、不潔行為、妄想、尿失禁、睡眠障害などが高確率で消失・改善したことです(「周辺症状の消失・改善率」のグラフ参照)。
近年では、メタボリックシンドロームやパーキンソン病、心臓病でも血液中のプラズマローゲン濃度がアルツハイマー病と同様に減少していることがわかっています。プラズマローゲンの減少はさまざまな病気に密接に関連しているのです。つまり、脳疲労(プラズマローゲンの減少)を防いで、プラズマローゲンを補給してあげることで、認知症だけでなくメタボリックシンドロームなどの予防・改善も期待できるのです(「各疾患と健常者のプラズマローゲンの量」のグラフ参照)。