患者の負担が少ない関節鏡視下手術は変性した半月板を切除・洗浄して痛みを取る
変形性ひざ関節症の治療は保存療法が基本です。ひざ関節の状態や患者さんの要望にもよりますが、保存療法を3~6ヵ月間行っても痛みが改善しない場合には手術が検討されます。
変形性ひざ関節症の手術は、自分のひざ関節を維持する「関節温存手術」と人工物に置き換える「人工関節置換術」に大別されます。さらに、関節温存手術には「関節鏡視下手術」と「骨切り術」があります。変形性ひざ関節症の手術は期待される効果がそれぞれ異なるため、どの手術が最適かを見極めることが重要です。
● 関節鏡視下手術
関節鏡視下手術は、内視鏡の一つである関節鏡を使って変性して断裂した半月板や、けば立った関節軟骨を切除する手術です。ひざに小さな穴を数ヵ所開けるだけなので、患者さんの体への負担が少ないのが最大のメリットです。手術は1時間程度で終わり、通常は2~7日間ほどの入院ですみます。仕事や日常生活にも早く復帰できて正座もできるようになり、最終的には手術前に行っていたスポーツを再開できる患者さんも少なくありません。
対象となるのは、変形性ひざ関節症が進行していない状態で、半月板や関節軟骨の変性がひざの痛みの原因になっている患者さんです。一般的には70歳前後までの患者さんに行われますが、体力があってリハビリが可能な場合は70歳以降でも手術を適用できると考えています。一方、変形性ひざ関節症が進行している場合や、ひざの痛みと半月板や関節軟骨の状態が関係していない場合には、関節鏡視下手術は対象になりません。
関節軟骨には神経が通っていないため、変性しても痛みは起こりません。ところが、変性した半月板や関節軟骨からは、痛みを誘発する物質(炎症性サイトカイン)が放出されるので、関節包を裏打ちする滑膜が刺激されて痛みを起こします。
関節鏡視下手術に伴うデメリットとして、ひざの外側の半月板を切除すると関節軟骨の摩耗が加速し、変形性ひざ関節症の進行を速める危険性のあることが指摘されています。そのため、ひざの外側の半月板は縫合して温存する手術が主流になりつつあります。
● 骨切り術
骨切り術は、ひざ関節に負荷がかかる位置を内側から真ん中、もしくは外側寄りに移すために、内側の脛骨(すねの骨)を切った場所に人工骨を入れて角度を変える手術です。O脚が矯正されるので、ひざの内側の負担が軽くなり、痛みや変形性ひざ関節症の進行が抑えられます。また、欧米人に多いX脚の患者さんの場合は、内側の脛骨を切ってそのままくっつけることで、外側寄りになっていたひざ関節の負荷を真ん中に戻すことができます。
手術は麻酔をかけた後、ひざの皮膚を10㌢ほど切開して、内側の脛骨のひざ関節に近い部分を斜めに切ります。脛骨の太さに応じて骨を切る長さを決め、通常は六㌢くらい切ります。
次に、切った部分にくさび形の人工骨を挿入して脛骨の角度を修正します。手術部位を金属製のプレートとスクリューでしっかり固定した後、傷を縫合します。人工骨は、骨の成分でもあるβ‐リン酸三カルシウムでできているので、アレルギーが起こりません。
人工骨を入れてひざの角度を正常にする骨切り術は1回の手術ですむことが多い
骨切り術のメリットは、手術後、ひざ関節に負荷がかかりやすいスポーツや仕事に復帰できる点です。また、移植した人工骨が自分の骨と同化するため、長期間の効果を期待できます。1回の骨切り術で、その後の人生を問題なく過ごされる患者さんも少なくありません。
骨切り術は、活動性の高い40~60代の患者さんに多く行われます。一方、関節軟骨が広い範囲で摩耗して大腿骨と脛骨の隙間が消失していたり、可動域(動かすことができる範囲)が狭かったりする場合には、骨切り術を行っても大腿骨と脛骨の間に隙間ができないため、対象外となります。
骨切り術のデメリットは、痛みの原因である関節包や滑膜の状態を改善する手術ではないため、痛みが完全に治まらないケースがある点です。また、傷跡が10㌢に及ぶため、まれではありますが、神経にマヒが残ることがあります。
骨切り術は、骨を切ってひざ関節の形状を整える手術のため、比較的入院期間が長く、歩けるようになるまで4~5週間かかります。また、骨切り術で移植した人工骨が自己骨になるまでには、半年間ほどかかります。
通常、60歳未満の患者さんの場合は、手術後1年ほどたったらプレートを取り出します。プレートは体にとって異物のため、取り出さずに長期間放置すると免疫反応が起こって、炎症や感染症を招く恐れがあるからです。一方、60歳以上の患者さんは、手術の負担を考えてプレートを取り出さない場合もあります。
私が患者さんに強く伝えたいことは「減量の重要性」です。実際に私が診ている末期の変形性ひざ関節症の患者さんで、たびたび起こるひざ痛に悩まされる方がいました。ところが、体重を10㌔減らすとひざ痛がほとんど起こらなくなり、現在も手術を回避できています。
関節鏡視下手術や骨切り術でも痛みが満足に改善しない患者さんには、最終手段として人工関節置換術を提案します。ただし、人工関節置換術は、患者さんが思い描く未来に近づける方法の一つですが、決して万能ではないことに留意する必要があります。