プレゼント

いくつになっても新しいことにチャレンジする気持ちは忘れません

私の元気の秘訣
「ゆき乃恵」女将 めぐみさん

お座敷という華やかな世界に魅せられて20歳を過ぎてから芸者見習いになっためぐみさん。温故知新の言葉のとおり、伝統を重んじながら新たな試みにも次々と挑戦しています。花柳界というすばらしい文化を多くの方々に知ってほしいと願うめぐみさんに元気の秘訣を伺いました。

華やかなお座敷に憧れて芸者という新しい世界に飛び込みました

1962年、東京都八王子市生まれ。21歳で芸者見習いとして八王子花街に入り、2002年、置屋「ゆき乃恵」を新設。芸者を職業として確立したいと、芸者の公募や確定申告の励行など、革新的な取り組みを行っている。「八王子をどり」の開催や節分の厄落とし行事の「お化け」の復活など、地元伝統芸能の保護・育成にも尽力。

芸者というと、昔ならば10代のうちに稽古や礼儀作法を学び、お座敷に出るのが一般的でした。私が芸者見習いになったのは21歳の頃ですから、かなり遅いデビューだったんです。好奇心旺盛で、物事を深く考えない性格だったからこそできたことかもしれません(笑)。

芸者になるきっかけは、地元の高級料亭で仲居のアルバイトをしているとき、よくお店に来ていた置屋のお母さんとの出会いでした。顔を合わせるたびにひと言、ふた言ほど言葉をかけてもらい、いつの間にかスカウトされていました。仲居をしているときにお母さんの華やかなお座敷を見ていたので、「なんて美しいんだろう」と興味津々でした。

いざ、芸者見習いになってみると、知らない世界が広がっていて、新しい発見の連続でした。

例えば、日本舞踊や三味線のお稽古。子どもの頃にピアノを習っていましたが、三味線なんて持ったことも触れたこともありませんでした。最初はまったく弾けませんでしたが、興味のあることに一所懸命に取り組む性格のおかげで、日々成長していると実感することができました。新しく何かを学ぶことは、楽しいことだと心底思います。年齢を重ねたいまでも、興味のあることを見つけて常にチャレンジし、自分を磨くようにしています。

私は、八王子の花柳界を1人でも多くの方に知ってもらうためにさまざまな活動を行っています。私は生まれも育ちも八王子なのですが、恥ずかしながら置屋のお母さんと出会うまで地元に花柳界という文化があることを知りませんでした。だからこそ、多くの方々に八王子の歴史に欠かせない花柳界のすばらしさをお伝えしたいと思っているんです。

私が置屋「ゆき乃恵」の看板を背負うことになったのは1991年のことでした。私はまだ39歳で、お世話になったお母さんから「自分で置屋を持ってみてはどう」と提案されたときは不安でいっぱいでした。でも、芸者を「職業」として認知していただき、多くの若い方々にその存在を知ってもらいたいという思いから引き受けることにしたんです。

自分の置屋を持った当初、やる気がはやって「芸者さん募集」の宣伝を打ち出したことがあります。花柳界で芸者の募集をおおっぴらに行う前例はなかったそうなので、いま思うと怖いもの知らずでしたね(笑)。

お母さん方や先輩のお姐さん方からは、お叱りを受けるだけではなく、「それじゃあ失敗するわよ。こうやったらどうかしら」と多くのアドバイスをもらいました。私は頭で考えるよりもすぐ行動に移してしまうタイプなので、周りからの助言にはほんとうに感謝しています。いま振り返ると、お母さんが看板を持たせてくれたのは、前例を打ち破る私の新しい感覚をこれからの花柳界に取り入れたかったからではないかと考えています。

芸者の日常生活を知る人は少ないのではないでしょうか。私の場合は午前6時半に起床し、朝食やお化粧、身支度をすませ、9時から髪結いをするために美容室に行きます。10時から午後3時まで休憩を挟みながら小唄・端唄(三味線・唄)や踊り、茶道、囃子(鼓・大鼓・太鼓)などの稽古をします。稽古が終わると着付けを始めてお座敷の準備。午後6時から11時までお座敷にかかるというのが1日の流れです。

芸を極めるということは一生学びつづけるので新たな発見の連続です

稽古で磨き上げた三味線と小唄を披露できることがうれしいと話すめぐみさん

長年、芸者として働いていますが、毎日の稽古は欠かすことがありません。休みの日も舞台鑑賞など、お座敷以外のことから刺激を受けて自分を磨いています。芸を極めるということは、一生学びつづけることだと思っています。古きよき伝統を受け継ぎながら、新しい試みに挑戦する――温故知新を心がけ、刺激的な毎日を送っています。

「昔はよかった」とすてきな思い出に浸ることは大切です。でも、いまをしっかりと楽しむことのほうが大切だと私は思っています。

「ゆき乃恵」の看板を背負ってから、芸者さん募集の取り組み以外にも、新しい試みを行っています。例えば、芸者さんの着物は自分で用意するのが慣例でしたが、「ゆき乃恵」では置屋が用意することにしています。型破りと見られるかもしれませんが、芸者という魅力ある職業と花柳界という世界をたくさんの方々に知ってもらいたいという思いが根源にあります。

健康で気をつけているのは、質の高い睡眠を取ることです。以前は、眠りが浅い時期があり、寝るとかえって疲れていました。ところが、整体を受けて私の頭の高さに合った枕を作ってもらったところ、ぐっすりと眠れて質の高い睡眠を得ることができるようになりました。

体を冷やさないことにも気を配っています。お座敷ではしかたありませんが、できるだけ冷たいものをとらないように心がけています。また、健康診断の結果に一喜一憂しないことも大事かもしれません。「元気」は数値だけでは測れませんからね(笑)。

芸者という仕事を長年続けてきた私から日頃の健康に関してアドバイスをするとすれば、姿勢の大切さです。芸者は、おじぎから立ちふるまいまできちんとした美しい所作を身につけなければなりません。正座するときに「腰の骨を立てる」という表現を使って、所作を教えることがあります。腰の骨を立てることを意識すると、スッと胸が張って背すじが伸びるので、自然と姿勢が整います。

もう1つ正しい姿勢のポイントは、おへその約五㌢下にある「丹田」といわれる場所を強く意識することです。踊りや茶道、楽器の稽古のときに丹田を意識して行うと、動きにキレが出て1つひとつの所作に力がみなぎるんです。

「元気と自信はよい姿勢から生まれる」といわれています。日頃から「腰の骨を立てること」「丹田を強く意識すること」を心がけてください。さらに、自分の興味のあることに耳を傾け、実行に移すことで充実した毎日が送れることでしょう。