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医師&整復師考案[肝臓セルフマッサージ]

消化器内科

アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長 高林 孝光

栗原クリニック東京・日本橋院長 栗原 毅

肝臓は再生能力がある臓器で自覚症状がなく障害が進みやすく肝炎、肝硬変、肝がんを発症

[たかばやし・たかみつ]——1978年、東京都生まれ。柔道整復師。鍼灸師。東京柔道整復専門学校、中央医療学園専門学校卒業。主な著書に『五十肩はこう治す!』(自由国民社)、『腱鞘炎は自分で治せる』『病気を治したいなら肝臓をもみなさい』(ともにマキノ出版)などがある。

胃の右上部に位置する肝臓は体の中で最も大きな臓器で、()(どく)をはじめ、栄養素の合成・代謝・貯蔵など数百もの働きを担っています。肝臓には、胃や腸で消化・吸収された食べ物の栄養素が血液によって運ばれてきます。肝臓はそれらの栄養素を分解・再合成した後、一部を貯蔵しています。栄養素を代謝する際にどうしても生じる有害物質は、毒性の低い物質に作り替えられ、尿や(たん)(じゅう)といっしょに(はい)(せつ)されます。

肝臓は再生する力が強い臓器として知られ、損傷を受けてもほかの臓器と比べて2倍の速さで再生します。さらに肝臓には、一部の機能に障害が起こっても残りの部分が補う(だい)(しょう)機能があります。その一方で、肝臓の優れた再生・代償能力が、肝臓病の早期発見を遅らせてしまう原因になっています。多少の損傷があっても自覚症状が出にくいため、肝臓病の早期発見を遅らせてしまうのです。

自覚症状が出にくいことから「沈黙の臓器」といわれる肝臓は、機能が衰えると全身にさまざまな問題を生じます。最終的には、肝硬変や肝がんといった深刻な症状や病気も引き起こしてしまうのです。

肝機能障害の初期症状ともいえるのが、肝炎です。肝炎は、なんらかの原因によって肝臓で炎症が起こり、肝細胞が壊されている状態のことです。肝炎が長期化すると、肝細胞が壊れた部分が線維に置き換わる「線維化」が起こります。線維化が肝臓の広範囲に及んだ状態を「肝硬変」と呼び、肝硬変が進行すると肝がんに至ることもあります。

肝炎の多くはウイルスが原因で起こります。ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型などがあります。慢性肝炎の原因として日本で問題となっていたのが、C型とB型の肝炎ウイルスです。かつては、肝がんの約7割がC型肝炎によって起こるといわれていました。

[くりはら・たけし]——1951年、新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。医学博士。東京女子医科大学消化器病センター内科、同大学青山病院・同大学附属成人医学センター助教授、中国中医研究院客員教授、東京女子医科大学教授、慶應義塾大学特任教授を経て、2008年から現職。著書に『名医が教える「本当に正しい糖尿病の治し方」』(エクスナレッジ)など多数。

C型肝炎ウイルスに感染しても、多くの人は自覚症状がありません。自覚症状がないまま肝硬変に進行する患者さんや、肝がんまで進んでも症状が現れない患者さんも少なくありません。慢性C型肝炎になると、ウイルスの感染から20~30年後に肝硬変へ移行し、肝がんを併発するようになります。

C型肝炎は治療法が確立されている病気の一つです。抗ウイルス薬の有効性が確認されている現在は、約99%の患者さんに完治が期待できるようになっています。

B型肝炎ウイルスは、乳幼児や(とう)(せき)患者さんなど、免疫機能の弱い人が感染すると肝炎が慢性化してしまいます。かつてB型肝炎は、母子間による感染が主な経路でした。1986年にワクチンによる母子感染予防対策が取られてからは、出産時の感染がほぼ防げるようになっています。

肝臓に悪影響を与えるものとして、アルコールが挙げられます。体内に入ったアルコールは胃や腸から吸収された後、ほとんどが肝臓で処理されます。アルコールは、肝臓で代謝・分解されるときに、肝細胞を傷つけます。大量のアルコールを長期間にわたって飲みつづけると、肝臓の炎症や線維化が起こります。

アルコール性肝疾患は、①肝機能に異常がある、②アルコール以外の原因による肝障害がない、③過度な飲酒が認められる、以上の条件を満たすことによって診断されます。アルコール換算で1日60㌘以下の飲酒量でも肝機能に異常が見られたら、アルコール以外の原因を疑いましょう。

アルコールの過剰摂取が原因で起こる肝臓病は、多くがアルコール性脂肪肝を経て、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変へと進行します。患者さんによっては、炎症を伴わずに線維化に至ることがあるので注意が必要です。

肝硬変になると重篤な合併症が引き起こされ健康診断の数値を使った自己管理が大切

肝臓病を発症させるさまざまな原因がある中、最近になって特に危険視されているのが「脂肪肝」です。偏った食生活や運動不足が長期間にわたることによって中性脂肪が肝臓に蓄積し、肝細胞の3割以上が脂肪化している状態を脂肪肝といいます。アルコールが原因で起こる脂肪肝もありますが、近年急増しているのが非アルコール性脂肪肝(NAFL(ナッフル))です。

かつては、肝臓専門医の多くが「脂肪肝では亡くならないからほうっておいても問題ない」という認識でした。しかし、飽食の時代を迎えた現代社会では、過度な飲酒をせず、ウイルスや自己免疫疾患など肝障害を起こす原因がないにもかかわらず、肝硬変や肝がんと診断される患者さんが増えています。中でも、NAFLや非アルコール性脂肪肝炎(NASH(ナツシユ))の患者さんが急増しているのです。

NAFLとNASHは、あわせて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD(ナツフルデイー))と呼ばれています。NAFLDは、肥満に代表されるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が原因で発症する肝疾患です。肥満や2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などを合併するほど発症リスクが高くなります。NAFLからNASHに進行する背景には酸化ストレス、インスリン抵抗性(高インスリン血症)、肝臓内の鉄の代謝異常などが関与していると考えられています。

さまざまな原因で引き起こされる肝疾患ですが、進行すると肝硬変を発症させます。肝細胞の線維化が進んだ状態が肝硬変で、肝臓全体がゴツゴツして石のように硬くなり、小さくなります。再生能力が高い肝臓でも肝硬変まで進行すると治療を受けても改善が難しくなります。肝臓病は、肝炎の段階で進行を抑えることが理想的です。

肝硬変は血液検査と画像診断、組織検査によって診断されます。肝硬変の病期は、初期~中期の「代償性肝硬変」と、末期の「非代償性肝硬変」に分けられます。

代償性肝硬変の段階では、線維化していない肝細胞が機能を補っているため、自覚症状はほとんどありません。一方、非代償性肝硬変まで進行すると、肝機能の低下からさまざまな合併症が起こりやすくなります。(おう)(だん)()(しゅ)のほか、深刻なものとして、(しょく)(どう)(じょう)(みゃく)(りゅう)、意識障害((かん)(せい)(のう)(しょう))、腹水の三つがあります。

自覚症状が出にくい肝臓の機能を守るには、医療機関で定期検査を受けることが大切です。会社や自治体などで受ける健康診断で分かる数値も多いため、肝臓の状態を知る手段として活用しましょう。肝機能に関する主な指標は以下になります。

AST(=GOT、基準値は30以下)
ALT(=GPT、基準値は30以下)
ASTとALTはともに酵素の一つで、肝臓に障害があると血液中で増加します。正確には肝臓の機能ではなく、肝細胞の傷害の有無を推定する数値です。ASTとALTは、肝機能が低下した際に必ず上昇するわけではありません。例えば、肝細胞が破壊しつくされた後ではそれほど上昇しないため注意が必要です。

総ビリルビン(基準値は0.2~1.2)
ビリルビンとは、古くなった赤血球が破壊されるときにヘモグロビン(赤血球の中にあるたんぱく質)が代謝されて生成される黄色い色素です。

γ(ガンマ)-GTP(基準値は50以下)
アルコールに敏感に反応して増減する特徴がある酵素です。数値に異常があれば、ASTやALTなどの数値と合わせて診断します。

コリンエステラーゼ(基準値は男性が240~486、女性が201~421)
コリンエステラーゼの働きは脂質代謝にも関連しているため、栄養過多によって生じる非アルコール性脂肪肝になると数値が上昇します。

アルブミン(基準値は4.1~5.1)
肝細胞のみから作られ、血液中に含まれるたんぱく質の約六割を占めるたんぱく質です。肝機能が低下すると、肝臓のアルブミンを作る能力も低下するため数値が下がります。慢性肝炎や初期の肝硬変ではあまり変動しないものの、肝硬変の進行に伴って数値が低下します。

肝機能の維持にはマッサージが効果的で1回1分、週2回で肝臓の血流がアップ

健康診断で肝機能の数値に問題が見られた場合は、ウイルスに感染しているかどうかを確認しましょう。原因がウイルス性の場合は、適切な治療を受けてください。原因がウイルス性でない場合は、生活習慣を見直す必要があります。飲酒量に問題がある場合は、すぐに改善しましょう。

肝機能の数値を改善するには、肝臓を休ませることも大切です。肝臓の休息として最適なのが、半日断食です。朝食を抜き、前日の夕食から昼食までの12時間以上食事をとらないことで、肝臓にかかる負荷を減らすことができます。1週間に2日程度実践すれば、肝臓の休息効果が期待できるでしょう。

さらに、肝機能の維持や向上のためにおすすめしたいのが、私たちが考案した「肝臓セルフマッサージ」です。右の肋骨(ろっ こつ)のすぐ下にある肝臓は、皮膚に近い位置にあります。皮膚の上からでもマッサージが伝わりやすく、肝臓の血流改善が促されるのです。

肝臓セルフマッサージのやり方は簡単で、三つのステップすべてを行っても1分ほどで終わります。マッサージは時間を決めずに行ってもかまいませんが、就寝前に行うと、肝臓を効率よく回復させることができるでしょう。

肝臓セルフマッサージを毎日行うと、かえって肝臓を疲れさせてしまうおそれがあります。マッサージは1日おきを基本とし、週に2~3日の頻度で行いましょう。あくまで自分の体調を優先し、過度に行わないよう注意してください。

「マッサージは強い力でやらないと効果がない」と考えがちですが、強い力で行うことは控えましょう。肝臓を強くマッサージすると肝臓の組織を傷つけてしまうおそれがあるので、薄手の服の上から優しくマッサージするようにしましょう。

肝臓は優しくさするだけでも十分なマッサージ効果があります。「ギュッギュッよりもスリスリ」という感覚でさすりましょう。肝臓セルフマッサージを始めて体調に変化を感じるまで時間がかかる人もいますが、根気よく続けることで体調の改善を実感できるはずです。

肝臓セルフマッサージで肝機能が向上しても、時間や回数を増やしたり、強くもんだりするのは控えましょう。体調がよくなったマッサージが、自分に合っている方法です。

私たちのもとには、半日断食と肝臓セルフマッサージを実践した人たちから、「肝機能の数値が改善した」「全身の疲れが取れて体が軽くなった」というたくさんの喜びの声が届いています。

沈黙の臓器である肝臓をいたわるには、バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠などの規則正しい生活を基本としながら、アルコールによる負担をかけない休肝日を作ることが大切です。さらに、半日断食と肝臓セルフマッサージを実践することで、肝臓の機能維持が期待できるでしょう。