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亜鉛欠乏症は国民病のおそれがあり亜鉛の補充が改善のカギ

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東御市立みまき温泉診療所顧問 倉澤 隆平さん

亜鉛欠乏症研究の第一人者である倉澤隆平医師。長年の研究成果をまとめた『現代日本の国民病 亜鉛欠乏症』(三恵社)が上梓され、亜鉛に対する意識が変わりつつあります。亜鉛欠乏症の諸症状からその対処法までを伺いました。

[くらさわ・りゅうへい]——1963年、東京大学医学部卒業。同大学医学部附属病院外科、佐久市立国保浅間総合病院外科医長・病院長、北御牧村温泉診療所(現・東御市立みまき温泉診療所)所長を経て、2003年から現職。元社会福祉法人みまき福祉会理事長。著書に『現代日本の国民病 亜鉛欠乏症』(三恵社)、『亜鉛の機能と健康―新たにわかった多彩な機能』(建帛社)がある。

皆さんは「亜鉛欠乏症」という病気をご存じでしょうか。あまり知られていませんが、私が研究を重ねた結果、〝隠れ国民病〟として大きな問題を抱えていることが分かってきました。特に、高齢者に多い「味が分からない」「舌が痛い」「傷の治りが遅い」「皮膚がかゆい」などといった症状の多くは亜鉛欠乏症が原因かもしれないのです。

亜鉛は体の正常な機能に必要不可欠な必須微量ミネラルのため、不足すると亜鉛欠乏症が起こります。味覚障害を引き起こすことで知られている亜鉛欠乏症ですが、そのほかにも多種多様な症状を招くことが分かっています。

味覚障害
舌で味覚を感じるのは、舌にある()(らい)の中の()細胞から味覚神経を通して脳にある味覚(ちゆう)(すう)に情報が送られるためです。細胞分裂に不可欠なミネラルである亜鉛が不足すると味細胞が新たに生まれなくなるなどの障害が起こり、味覚障害を招いてしまうのです。「味が分からない」「ご飯を食べると苦い」「水を飲んだら酸っぱい」などと感じるようであれば、味覚障害が起こっているといえます。

(ぜつ)(つう)(しょう)
舌痛症は、口の中の(ねん)(まく)面に生じる原因不明の痛みのことです。舌にヒリヒリ、ピリピリする痛みや、カーッとする(しやく)(ねつ)(かん)を覚え、長期間続くのが特徴です。

舌痛症は原因不明といわれていますが、多くの場合は亜鉛の欠乏が原因です。亜鉛を補充することで脳に送られる痛みの刺激を抑制することが分かっています。私が()てきた舌痛症の患者さんは、亜鉛を補充することで4ヵ月から半年の間に症状が軽快し、完治する場合もありました。

(じよく)(そう)
褥瘡は、寝たきり状態が続くなどの理由によって体重で圧迫されている部位の血流が滞り、皮膚の一部が赤い色味を帯びたり、ただれたり、傷ついてしまったりすることです。一般的に「床ずれ」ともいわれ、寝たきりの高齢者に多く起こります。

『現代日本の国民病亜鉛欠乏症』(三恵社)
倉澤医師の医師生涯をかけた集大成。新たな国民病である亜鉛欠乏症について、自身が行ってきた臨床や調査を大公開。高齢者に多い体の不調の背景に亜鉛欠乏症が潜んでいる可能性が分かる、高齢者必読の1冊。

日本褥瘡学会は褥瘡の発症・治療遅延を圧迫による血行障害と考えています。そのため、褥瘡の改善・再発防止が期待できる各種の除圧法や除圧器具が開発されています。しかし、除圧法や除圧器具を正しく使っても褥瘡が改善しなかったり、治っても再発しやすかったりすることが分かっています。

なぜかというと、褥瘡のほんとうの原因は血流の悪化ではなく亜鉛欠乏症にあるからです。亜鉛が欠乏すると代謝障害が起こり、健常な皮膚の生成・維持ができなくなります。さらに、周囲の皮膚の下に広がる組織の破壊によって生じた穴((くう))をポケットといい、それが形成されると褥瘡が難治化しやすいといわれています。その結果、除圧しても改善せずに再発してしまうのです。

そのほか、亜鉛欠乏症は皮膚のかゆみや食欲不振、口腔咽頭内(こうくういんとうない)(しょう)(じょう)を招く場合が少なくありません。口腔咽頭内症状とは「口の中がガサガサする」「食べていないのに口の中が苦い」などといった口やのどの症状のことです。

亜鉛を補充するには、病院で血清亜鉛濃度を検査しながら亜鉛製剤を処方してもらうのがいちばんです。ただ、病院で検査を受けるのが困難な場合は、亜鉛とセレンが配合されたジンクレンの粒を飲むといいでしょう。実際、私もジンクレンの粒を飲んでいる一人で、80歳を超えても現役で医師を続けることができています。亜鉛を補充しているからこそ、活力に満ちあふれているといっても過言ではありません。